パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8 ⑥

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「でも?」

 中途半端なところで言葉を切られて、行人は問い返した。返ってきた沈黙に、視線を向ける。

「なんだよ?」

 続けてそう問えば、高藤が、いや、とまたなんとも言えない顔をする。いっそのこと吐けばいいのにと言いたくなるくらいには、最近は誤魔化し方が雑だ。
 余裕がないということなのかもしれないが。

「本当、べつに。たいしたことじゃ。――いや、ちょっと、もうすぐ選挙活動も解禁になるから、忙しくて」

 行人のじっとりとした視線が気になったらしく、いかにもとってつけたことを言う。それは、まぁ、忙しいとは思うけれど。へぇという気分で、忙しいんだな、と行人は言葉尻を繰り返した。

「でも、それも、時期が時期だからしかたないっていうレベルだから」
「でも、忙しいんだろ。生徒会、人員少ないもんな」
「いや、まぁ、それは、まぁ、そうなんだけど。あの人ら、人の好き嫌い激しいから」
「じゃあ、手伝おうか、俺」
「……え?」

 なに言ってんだと言わんばかりの間を無視して、宣言する。

「手伝う」
「いや、でも」
「おまえがなんて言っても、今の会長の成瀬さんが、俺に声かけてくれたわけだから。だから、参加する権利はあるし」
「いや、あの、権利って」

 呆れたように溜息を吐いた高藤が、ぐしゃと前髪を掻き交ぜる。隙間から覗く瞳はどこまでももの言いたげだったが、行人はひるまなかった。少ししてから、またひとつ溜息が響く。

「あのさ」
「なに」
「なにっていうか、脅すわけじゃないけど、今、生徒会かなり空気悪いっていうか、……その、向原さん……、うん、いや、なんでも、ない」

 またしても気になる濁され方をされてしまったわけだが、その名前を出せば自分が二の足を踏むとでも思っているのだろうか。
 事実、苦手だ。認めたくはないが怖いし、できることなら関わりたくないなぁと思ってもいる。だが、しかし。

「なんでもないならいいよな。もう決めたから」

 そう切り捨てた行人に、高藤はなにかまた言いたそうな顔をしたが、結局なにも言わなかった。

 ――だから言えばいいのに。

 言いたいことがあるなら、はっきりと。呆れと苛立ちを通り越して、半ば白けた気分で、行人は乱雑に片づけを終えた。そのまま出て行こうとしたところで、「どこ行くの」という声がかかった。
 そんなどうでもいいことは尋ねるのか、と通り過ぎたはずの苛立ちを増やしながら、「成瀬さんのところ」と答える。

「決めたなら、早く言ったほうがいいと思って。せっかくなら早く始めたいし」
「あ、……うん。そう」

 いってらっしゃい、と続いた台詞の裏側には、好きにしたら、という本音がありありと透けて見えていた。
 なんだか、ちょっと、やっぱり腹が立ってきた。こうなったらある程度は好きにしてやろう。そう決めて、行人は思いきりよく自室の扉を閉めて、外に出た。
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