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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8 ③
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「なんでって……、一応、寮の後輩なわけだし、見かけたから声かけてくれたんだと思うけど?」
「いや、それもそうなんだけど」
いや、まぁ、実際のところ、そのシチュエーションだったとしても、向原が声をかけるというのは、やはり意外ではあったのだが、四谷の声音が不本意そうに下がったので、慌てて行人は取り成しに走った。
自分の私情で、向原の評価が低い自覚はさすがにある。
「その、誰に絡まれてたのかなって。四谷、そういうの、うまく避けるから」
「あ、……えっと」
「四谷?」
「いや、誰って言っても、榛名はわかんないだろうなって思っただけ。上級生だったことはたしかだけど。というか、榛名と違って年中うかうかしてるわけじゃないから。たまたま。たまたまそうなったの」
憮然と言い切られて、また苦笑いになる。その行人を一瞥して、四谷が小さく息を吐いた。
「というか、そうじゃなくて。びっくりしたし、怖かったけど、うれしかったっていう話だったんだけど」
「……あぁ」
そういう話、と呟けば、さらに白い目を向けられてしまった。なんだかちょっと居た堪れない。
「榛名にそういう共感を求めた俺が馬鹿だった。もういい、今度からそういう話は時雨にするから」
ぜひそうしていただきたいと頷く代わりに、曖昧に行人はほほえんだ。精いっぱいの社交性である。でも、それにしても。
――向原先輩が、か。
だから、そこまで怖い人でも嫌な人でもないってば、というのは、いささか聞き飽きた感さえある高藤の言で、自分の感情的な部分を脇に置けば、それが正しいのだということは、さすがにわかっている。
その前提があっても「意外だ」と感じたのは、わざと不親切にすることはなくても、わざわざ誰にでも親切にするタイプにはどうしたって思えなかったからだ。
――そもそも、あの人、「嫌い」とか「嫌悪」とかはなくても、八割の人間「どうでもいい」で括ってそうだし。
興味がないから、マイナスプラス両面ともに手も口も出さないんだろうな、というか。
もうひとつ、そもそもで言っていいのなら、あの人が、気に入っている人間自体が本当に少ないとも思うわけで。そういう意味で言えば、その数少ない気に入られている人間である高藤が、「怖い人でも、嫌な人でもない」と評するのは、ごく自然なことであるのだろう。
――いや、四谷が助かったのは事実なんだろうから、ぜんぜんいいんだけど。でも、なんか気になるな。
かたちになりきらない「なんか」を抱えたまま、行人は内心で首をひねっていた。
「いや、それもそうなんだけど」
いや、まぁ、実際のところ、そのシチュエーションだったとしても、向原が声をかけるというのは、やはり意外ではあったのだが、四谷の声音が不本意そうに下がったので、慌てて行人は取り成しに走った。
自分の私情で、向原の評価が低い自覚はさすがにある。
「その、誰に絡まれてたのかなって。四谷、そういうの、うまく避けるから」
「あ、……えっと」
「四谷?」
「いや、誰って言っても、榛名はわかんないだろうなって思っただけ。上級生だったことはたしかだけど。というか、榛名と違って年中うかうかしてるわけじゃないから。たまたま。たまたまそうなったの」
憮然と言い切られて、また苦笑いになる。その行人を一瞥して、四谷が小さく息を吐いた。
「というか、そうじゃなくて。びっくりしたし、怖かったけど、うれしかったっていう話だったんだけど」
「……あぁ」
そういう話、と呟けば、さらに白い目を向けられてしまった。なんだかちょっと居た堪れない。
「榛名にそういう共感を求めた俺が馬鹿だった。もういい、今度からそういう話は時雨にするから」
ぜひそうしていただきたいと頷く代わりに、曖昧に行人はほほえんだ。精いっぱいの社交性である。でも、それにしても。
――向原先輩が、か。
だから、そこまで怖い人でも嫌な人でもないってば、というのは、いささか聞き飽きた感さえある高藤の言で、自分の感情的な部分を脇に置けば、それが正しいのだということは、さすがにわかっている。
その前提があっても「意外だ」と感じたのは、わざと不親切にすることはなくても、わざわざ誰にでも親切にするタイプにはどうしたって思えなかったからだ。
――そもそも、あの人、「嫌い」とか「嫌悪」とかはなくても、八割の人間「どうでもいい」で括ってそうだし。
興味がないから、マイナスプラス両面ともに手も口も出さないんだろうな、というか。
もうひとつ、そもそもで言っていいのなら、あの人が、気に入っている人間自体が本当に少ないとも思うわけで。そういう意味で言えば、その数少ない気に入られている人間である高藤が、「怖い人でも、嫌な人でもない」と評するのは、ごく自然なことであるのだろう。
――いや、四谷が助かったのは事実なんだろうから、ぜんぜんいいんだけど。でも、なんか気になるな。
かたちになりきらない「なんか」を抱えたまま、行人は内心で首をひねっていた。
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