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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ ⑤
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ちら、と牽制の視線を送ったにもかかわらず、追いついて隣に並んだ同級生に、軽く眉をひそめる。
その反応も平然と無視して、いかにも親しげに「春弥」と呼びかけられて、今度こそ水城は声音に不興を乗せた。
先ほど長峰が言っていた、いつどんなときも自分に着いてこようとするクラスメイト。
「ちょっと、今は近づくなって言ったでしょ」
「はい、はい。轟ね」
わかっていると言わんばかりのそれに、もう一度ちらりとした視線を送る。わかっているのなら、相応の動きだけを見せてほしいところだが、そろそろご褒美がほしかったのだろうか。
しかたないなぁ、と水城は口角を上げた。この学園でただひとり「春弥」という呼称を許している時点で、十分すぎるご褒美だと思っているけれど、尽くそうとする相手には、それなりの飴は渡すべきだろう。
「そう、轟くん。今、ちょっとしたゲーム中なんだぁ」
「ゲームねぇ」
妬心だけでなく呆れも混じったそれに、「なに?」と微笑を返す。
「妬いてるの、もしかして」
「いや? 春弥も強欲だよなって」
「強欲?」
「その、狙ったもんは、なにがなんでも落とさないと気が済まないとこ」
知ったふうに言われて、水城は失笑を呑み込んだ。強欲だのなんだの、恵まれた人間がよく言うものだ。彼らの欲と自分の欲は根本的に違う。
自分のこれは、生きていくために必要だったものだ。憤りに似た感情に蓋をして、ほほえむ。
「だって、諦める理由がないでしょう?」
天使のような純粋無垢な顔をして、高飛車な女王様のような言動をするところが良いのだという、この同級生が気に入りそうな台詞を選んで。
ははっと愉快そうな笑い声が夕暮れの中に響く。同じような笑みを返して、水城はもう少しだけと散策を続けた。
「そういえば、だけど。そのゲームって轟が完全に落ちたら終わりなわけ?」
「え? うーん、そうだな。でも、人間関係って、そもそもがゲームみたいなものじゃない?」
そう答えた半分は、本心だった。
「だって、自分が望む言動を演じる相手を、嫌う人はいないでしょう?」
いつもの調子でにこりと笑ってから、でも、そうだなぁ、と考える。ゲームには分岐点がいくつもあるし、エンディングもひとつとは限らない。
――でも、まぁ、次の分岐点は、これかなぁ。
「せっかくだから、次のポイントを教えてあげる。ねぇ、今、僕が一番行ってみたい場所って、どこだと思う?」
「行ってみたい場所? どこだよ、言えば連れてってやるけど?」
「駄目。これは轟くん用のセーブポイントなんだから」
くすくすとした笑みでいなして、あのね、とほんの少し声を潜めて囁く。とっておきの秘密を打ち明けるように。
「僕ね。みんなが過ごした中等部に行ってみたいんだぁ」
その反応も平然と無視して、いかにも親しげに「春弥」と呼びかけられて、今度こそ水城は声音に不興を乗せた。
先ほど長峰が言っていた、いつどんなときも自分に着いてこようとするクラスメイト。
「ちょっと、今は近づくなって言ったでしょ」
「はい、はい。轟ね」
わかっていると言わんばかりのそれに、もう一度ちらりとした視線を送る。わかっているのなら、相応の動きだけを見せてほしいところだが、そろそろご褒美がほしかったのだろうか。
しかたないなぁ、と水城は口角を上げた。この学園でただひとり「春弥」という呼称を許している時点で、十分すぎるご褒美だと思っているけれど、尽くそうとする相手には、それなりの飴は渡すべきだろう。
「そう、轟くん。今、ちょっとしたゲーム中なんだぁ」
「ゲームねぇ」
妬心だけでなく呆れも混じったそれに、「なに?」と微笑を返す。
「妬いてるの、もしかして」
「いや? 春弥も強欲だよなって」
「強欲?」
「その、狙ったもんは、なにがなんでも落とさないと気が済まないとこ」
知ったふうに言われて、水城は失笑を呑み込んだ。強欲だのなんだの、恵まれた人間がよく言うものだ。彼らの欲と自分の欲は根本的に違う。
自分のこれは、生きていくために必要だったものだ。憤りに似た感情に蓋をして、ほほえむ。
「だって、諦める理由がないでしょう?」
天使のような純粋無垢な顔をして、高飛車な女王様のような言動をするところが良いのだという、この同級生が気に入りそうな台詞を選んで。
ははっと愉快そうな笑い声が夕暮れの中に響く。同じような笑みを返して、水城はもう少しだけと散策を続けた。
「そういえば、だけど。そのゲームって轟が完全に落ちたら終わりなわけ?」
「え? うーん、そうだな。でも、人間関係って、そもそもがゲームみたいなものじゃない?」
そう答えた半分は、本心だった。
「だって、自分が望む言動を演じる相手を、嫌う人はいないでしょう?」
いつもの調子でにこりと笑ってから、でも、そうだなぁ、と考える。ゲームには分岐点がいくつもあるし、エンディングもひとつとは限らない。
――でも、まぁ、次の分岐点は、これかなぁ。
「せっかくだから、次のポイントを教えてあげる。ねぇ、今、僕が一番行ってみたい場所って、どこだと思う?」
「行ってみたい場所? どこだよ、言えば連れてってやるけど?」
「駄目。これは轟くん用のセーブポイントなんだから」
くすくすとした笑みでいなして、あのね、とほんの少し声を潜めて囁く。とっておきの秘密を打ち明けるように。
「僕ね。みんなが過ごした中等部に行ってみたいんだぁ」
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