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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 6 ⑥
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優しい人、守りたい人、いかにも皓太が好みそうな文言で、いかにも成瀬がこの子どもの前で好みそうな態度だった。
先ほどと同じ調子で、「まぁ、そうかもな」と応じる。そのおざなりさを必要以上に気にしたふうでもなく、皓太は続けた。
「だから、半分っていうか、もしかしたら三分の二くらいは本心なんじゃないかなって」
「本心?」
「なんていうか、今、俺たちのことを考えてくれてることは本心だと思うし。一番最初になにをどう考えたのかまではわからないけど。自分のマイナスな気持ちだけで、ここまで続ける人だと思えないから」
どこか淡々とそう言った皓太の視線が、また少し生徒会室のあるほうを向いた。
「そういう意味で、俺が出るって言わなかったら、成瀬さん、どうしてたのかなって、ちょっと気になって」
――まぁ、あいつに聞いても、耳障りのいいことしか言わないだろうな。
そう承知しているから、自分に聞いてきたのだろう。べつに、誰が出ようが、誰を押そうが、どうでもいいと思っている、というところが正直なところではあったのだが。
「気にしなくていい」
「でも……」
「どう手を回されようが、通る素質のないやつは通らない」
そんなことはないとわかっていたが、向原はそう言い切った。
「それに、こんなもん、ただの代理戦争だ」
「え?」
「向こうは、わかった上で乗ってやってるだけだ。おまえのことを気の毒がってはいても、それ以上はないだろ」
続けてそう言い切れば、かすかに気まずそうな顔をする。そうして、取り繕うように微笑を刻んだ。その表情のつくりかたが、呆れるくらいあいつに似ていた。
「あの、向原さん」
「まだなにかあるのか?」
「いや、その、……俺が引き留めたこと、怒ってます?」
必要以上に、と言いたいらしい。その顔をじっと見つめてから、べつに、と向原は告げた。
べつに、言われるがままに生徒会室を離れたことを責めるつもりもなければ、邪魔をさせないように時間を稼ごうとしていたことを、どうのこうのと言うつもりもない。
「おまえには、なにも」
そう答えて、そのまま歩き出す。今度はもう声はかからなかった。
一番最初になにをどう考えていたのかはわからないけれど、と皓太は言っていたが、いいところ復讐だったのではないかと向原は思っている。
アルファへの、この社会への。あるいは、自分を捻じれに捨て置いた親に対する。
昔の成瀬は、そうだった。穏やかでいかにも優しそうなのは表面だけで、瞳の奥はいつもどこか冷めていた。
そのまま変わっていなかったら、きっと、今のここは、こうも荒れてはいなかっただろう。
先ほどと同じ調子で、「まぁ、そうかもな」と応じる。そのおざなりさを必要以上に気にしたふうでもなく、皓太は続けた。
「だから、半分っていうか、もしかしたら三分の二くらいは本心なんじゃないかなって」
「本心?」
「なんていうか、今、俺たちのことを考えてくれてることは本心だと思うし。一番最初になにをどう考えたのかまではわからないけど。自分のマイナスな気持ちだけで、ここまで続ける人だと思えないから」
どこか淡々とそう言った皓太の視線が、また少し生徒会室のあるほうを向いた。
「そういう意味で、俺が出るって言わなかったら、成瀬さん、どうしてたのかなって、ちょっと気になって」
――まぁ、あいつに聞いても、耳障りのいいことしか言わないだろうな。
そう承知しているから、自分に聞いてきたのだろう。べつに、誰が出ようが、誰を押そうが、どうでもいいと思っている、というところが正直なところではあったのだが。
「気にしなくていい」
「でも……」
「どう手を回されようが、通る素質のないやつは通らない」
そんなことはないとわかっていたが、向原はそう言い切った。
「それに、こんなもん、ただの代理戦争だ」
「え?」
「向こうは、わかった上で乗ってやってるだけだ。おまえのことを気の毒がってはいても、それ以上はないだろ」
続けてそう言い切れば、かすかに気まずそうな顔をする。そうして、取り繕うように微笑を刻んだ。その表情のつくりかたが、呆れるくらいあいつに似ていた。
「あの、向原さん」
「まだなにかあるのか?」
「いや、その、……俺が引き留めたこと、怒ってます?」
必要以上に、と言いたいらしい。その顔をじっと見つめてから、べつに、と向原は告げた。
べつに、言われるがままに生徒会室を離れたことを責めるつもりもなければ、邪魔をさせないように時間を稼ごうとしていたことを、どうのこうのと言うつもりもない。
「おまえには、なにも」
そう答えて、そのまま歩き出す。今度はもう声はかからなかった。
一番最初になにをどう考えていたのかはわからないけれど、と皓太は言っていたが、いいところ復讐だったのではないかと向原は思っている。
アルファへの、この社会への。あるいは、自分を捻じれに捨て置いた親に対する。
昔の成瀬は、そうだった。穏やかでいかにも優しそうなのは表面だけで、瞳の奥はいつもどこか冷めていた。
そのまま変わっていなかったら、きっと、今のここは、こうも荒れてはいなかっただろう。
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