パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 6 ①

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[6]


「もうべつにいいけど、あいつ、最近また一段と苛々してねぇ?」

 屋上の扉を乱雑に閉めて近寄ってきた篠原に、開口一番そう訴えられて、向原は眉をしかめた。
 篠原の言う「あいつ」が誰なのかは聞かずともわかるし、「また一段と苛々している」も言われなくとも知っている。生徒会室で指摘して以降のことだからだ。けれど。

「べつにいいなら、わざわざ俺に言うなよ」

 というか、こんなところまで探しに来て、言うようなことでもないだろう。
 発展性のない話は面倒でしかないし、なにより時間の無駄だ。フェンスに肘をついて煙草をふかしたまま、切り捨てるようにしてもう一言を告げる。

「ほっときゃいいだけだろ。逆に、なんでできないんだよ」
「おまえが、生徒会室に顔出す回数減らしたからに決まってるだろうが」

 なにがどう決まってるんだ、と呆れたものの、向原はなにも言わなかった。眼下を見下ろしていると、というか、そもそもさ、と篠原が言う。

「怒ってないことにしてるんじゃなかったわけ?」
「面倒になった」

 そうやって、取り繕ってやることも、知らないふりをしてやることも、なにもかもすべてが。
 叩いた灰が風に乗って舞っていく。問いあぐねている調子で黙り込んでいた篠原が、そこでひとつ溜息を吐いた。

「いいのかもな、それも」
「……」
「本気でそう思ってたのかはわかんねぇけど、あいつ、いまいち気づいてなかったっぽいしな」

 おまえの機嫌の悪さ、と言われて、向原は軽く笑った。
 べつに、そんなものを主張したかったわけでもない。まぁ、あれは強いて言うなら――。

「見てないだけだろ」

 考えるつもりがないから、正しく見る気がないというだけだ。余裕がないというよりも、そちらのほうが正しいと向原は踏んでいる。

「まぁ、余裕がなさそうとは俺も言ったけど。というか、その余裕のないっていうところについては、ちょっとおまえも心配ではあるんだけど」
「心配?」
「心配っつか、面倒になったっていうのが、なんつうか」
「べつに」

 それ以上を問い重ねられても、言うつもりのあることはなにもない。だから、言及するなと告げるように向原は言い切った。

「なんでもないって言っただろ」

 腹が立っていた、という感情もあったはあったが、今はそれを通り越して、呆れているに近い。
 そういう意味で、心配されるようなことをするつもりはなにもなかった。
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