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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 4 ⑥
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いかにも優しげにそう苦笑してから、まぁ、でも、と成瀬が呟くように言った。
「風紀任せだったのも事実だし、ちょうどいいのかもな」
ちょうどよく、生徒会の側で引き締めるとでも言いたいのか、あるいは、と考えたところで、馬鹿らしくなってそれ以上をやめた。どうせと言ってしまえば元も子もないが、後者に決まっているのだ。
――どっちかって言うと、俺は、成瀬が現在進行形で敵つくりまくって遊んでることのほうが気になんだけど。
殴られる程度で済めばいいと思ってるのか、そうでなくてもいいと思ってるのかは知らないが、さすがに気になる。
そう言っていたのは、篠原だ。茅野も似たようなことを言っていたが、結局、そういうことだ。
そう受け取られてもしかたのない行為を、明確な意図でもって成瀬は繰り返している。
――そりゃ、手っ取り早いは早いだろうな。
考えていそうなことの見当は容易につく。そうやって、「自分から率先してアルファに関わっているわけではない」という予防策を張っているということも。
なにかあったとしても、それは「向こうからのリアクションで起こった、自分にとって不可抗力なこと」で、「アルファに会う気はない」といったとおりの行動を自分はしている、と。そう言いたいのだ。
本当に、心の底から馬鹿らしい。そう呆れながらも、そうかもな、と相槌を打って片づけを始める。
思うところなんて、いくらでもある。この数週間の話ではなく、もうずっと前から。
けれど、なにも言う気はなかったのだ。言ったところで、なにも響かないだろうし、意味はないとわかっていたから。
意味が出るとしたら、本人が自覚して動いたときだろうから、と、そう。
だから、なにも知らない顔をしてやっていたのに。溜息を呑み込んで、向原は立ち上がった。
「帰る?」
それもまた、いつもどおりに取り繕われた問いかけだった。同じ言い方を選んで、言葉を返す。
「切りがいいからな。篠原も戻ってくるんだろ」
「そう。あともう少しだと思えば馬鹿な業務量にも付き合えるって言ってた。ありがたいけど」
「よかったな」
そう笑ってから、おまえさ、と向原は呼びかけた。先ほどまでとなんら変わらない調子で。
「誰でもいいにしても、選ぶならもう少しまともなアルファにしろよ」
ほかにいくらでもいるだろうに、と呆れたことも事実だし、茅野をあてにしたときのほうがよほどマシだろうとも思った。
「自分が優位に立てるって高括ってんだろうけど、その目論見が外れたらどうなるかくらい考えて動けば?」
「べつに……」
そのくらいわかっているとでも言いたいのか、それとも、おまえに言われる筋合いはないとでも言いたいのか。
それこそどちらでも同じことだった。遅れて浮かんだかたちばかりの笑みを一瞥して、吐き捨てる。
「外れるわけがないって本気で思ってるなら、馬鹿すぎる」
それが偽りのない本心で、だから、偽りしかない返事を聞く気にはならなかった。そのまま生徒会室を出る。校舎内を進んでいると、こちらに向かってきた篠原たちと目が合った。ちょうど戻るところだったらしい。その篠原が、中途半端に手を上げたところで、小さく目を瞠った。
「おお、お疲れ……って、おまえ、どうした?」
「べつに」
どうというほどのことでもない。ただ、ほとほとに馬鹿らしくなったというだけのことだ。
それ以上聞くべきかどうすべきか。すぐそばにいる皓太を気にして即断できないでいることは、明白だった。
溜息を呑み込んで、向原はなんでもないふうに言い足した。
「なんでもねぇよ」
「風紀任せだったのも事実だし、ちょうどいいのかもな」
ちょうどよく、生徒会の側で引き締めるとでも言いたいのか、あるいは、と考えたところで、馬鹿らしくなってそれ以上をやめた。どうせと言ってしまえば元も子もないが、後者に決まっているのだ。
――どっちかって言うと、俺は、成瀬が現在進行形で敵つくりまくって遊んでることのほうが気になんだけど。
殴られる程度で済めばいいと思ってるのか、そうでなくてもいいと思ってるのかは知らないが、さすがに気になる。
そう言っていたのは、篠原だ。茅野も似たようなことを言っていたが、結局、そういうことだ。
そう受け取られてもしかたのない行為を、明確な意図でもって成瀬は繰り返している。
――そりゃ、手っ取り早いは早いだろうな。
考えていそうなことの見当は容易につく。そうやって、「自分から率先してアルファに関わっているわけではない」という予防策を張っているということも。
なにかあったとしても、それは「向こうからのリアクションで起こった、自分にとって不可抗力なこと」で、「アルファに会う気はない」といったとおりの行動を自分はしている、と。そう言いたいのだ。
本当に、心の底から馬鹿らしい。そう呆れながらも、そうかもな、と相槌を打って片づけを始める。
思うところなんて、いくらでもある。この数週間の話ではなく、もうずっと前から。
けれど、なにも言う気はなかったのだ。言ったところで、なにも響かないだろうし、意味はないとわかっていたから。
意味が出るとしたら、本人が自覚して動いたときだろうから、と、そう。
だから、なにも知らない顔をしてやっていたのに。溜息を呑み込んで、向原は立ち上がった。
「帰る?」
それもまた、いつもどおりに取り繕われた問いかけだった。同じ言い方を選んで、言葉を返す。
「切りがいいからな。篠原も戻ってくるんだろ」
「そう。あともう少しだと思えば馬鹿な業務量にも付き合えるって言ってた。ありがたいけど」
「よかったな」
そう笑ってから、おまえさ、と向原は呼びかけた。先ほどまでとなんら変わらない調子で。
「誰でもいいにしても、選ぶならもう少しまともなアルファにしろよ」
ほかにいくらでもいるだろうに、と呆れたことも事実だし、茅野をあてにしたときのほうがよほどマシだろうとも思った。
「自分が優位に立てるって高括ってんだろうけど、その目論見が外れたらどうなるかくらい考えて動けば?」
「べつに……」
そのくらいわかっているとでも言いたいのか、それとも、おまえに言われる筋合いはないとでも言いたいのか。
それこそどちらでも同じことだった。遅れて浮かんだかたちばかりの笑みを一瞥して、吐き捨てる。
「外れるわけがないって本気で思ってるなら、馬鹿すぎる」
それが偽りのない本心で、だから、偽りしかない返事を聞く気にはならなかった。そのまま生徒会室を出る。校舎内を進んでいると、こちらに向かってきた篠原たちと目が合った。ちょうど戻るところだったらしい。その篠原が、中途半端に手を上げたところで、小さく目を瞠った。
「おお、お疲れ……って、おまえ、どうした?」
「べつに」
どうというほどのことでもない。ただ、ほとほとに馬鹿らしくなったというだけのことだ。
それ以上聞くべきかどうすべきか。すぐそばにいる皓太を気にして即断できないでいることは、明白だった。
溜息を呑み込んで、向原はなんでもないふうに言い足した。
「なんでもねぇよ」
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