パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
343 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 4 ⑥

しおりを挟む
 いかにも優しげにそう苦笑してから、まぁ、でも、と成瀬が呟くように言った。

「風紀任せだったのも事実だし、ちょうどいいのかもな」

 ちょうどよく、生徒会の側で引き締めるとでも言いたいのか、あるいは、と考えたところで、馬鹿らしくなってそれ以上をやめた。どうせと言ってしまえば元も子もないが、後者に決まっているのだ。

 ――どっちかって言うと、俺は、成瀬が現在進行形で敵つくりまくって遊んでることのほうが気になんだけど。

 殴られる程度で済めばいいと思ってるのか、そうでなくてもいいと思ってるのかは知らないが、さすがに気になる。
 そう言っていたのは、篠原だ。茅野も似たようなことを言っていたが、結局、そういうことだ。
 そう受け取られてもしかたのない行為を、明確な意図でもって成瀬は繰り返している。

 ――そりゃ、手っ取り早いは早いだろうな。

 考えていそうなことの見当は容易につく。そうやって、「自分から率先してアルファに関わっているわけではない」という予防策を張っているということも。
 なにかあったとしても、それは「向こうからのリアクションで起こった、自分にとって不可抗力なこと」で、「アルファに会う気はない」といったとおりの行動を自分はしている、と。そう言いたいのだ。
 本当に、心の底から馬鹿らしい。そう呆れながらも、そうかもな、と相槌を打って片づけを始める。
 思うところなんて、いくらでもある。この数週間の話ではなく、もうずっと前から。
 けれど、なにも言う気はなかったのだ。言ったところで、なにも響かないだろうし、意味はないとわかっていたから。
 意味が出るとしたら、本人が自覚して動いたときだろうから、と、そう。
 だから、なにも知らない顔をしてやっていたのに。溜息を呑み込んで、向原は立ち上がった。

「帰る?」

 それもまた、いつもどおりに取り繕われた問いかけだった。同じ言い方を選んで、言葉を返す。

「切りがいいからな。篠原も戻ってくるんだろ」
「そう。あともう少しだと思えば馬鹿な業務量にも付き合えるって言ってた。ありがたいけど」
「よかったな」

 そう笑ってから、おまえさ、と向原は呼びかけた。先ほどまでとなんら変わらない調子で。

「誰でもいいにしても、選ぶならもう少しまともなアルファにしろよ」

 ほかにいくらでもいるだろうに、と呆れたことも事実だし、茅野をあてにしたときのほうがよほどマシだろうとも思った。

「自分が優位に立てるって高括ってんだろうけど、その目論見が外れたらどうなるかくらい考えて動けば?」
「べつに……」
  
 そのくらいわかっているとでも言いたいのか、それとも、おまえに言われる筋合いはないとでも言いたいのか。
 それこそどちらでも同じことだった。遅れて浮かんだかたちばかりの笑みを一瞥して、吐き捨てる。

「外れるわけがないって本気で思ってるなら、馬鹿すぎる」

 それが偽りのない本心で、だから、偽りしかない返事を聞く気にはならなかった。そのまま生徒会室を出る。校舎内を進んでいると、こちらに向かってきた篠原たちと目が合った。ちょうど戻るところだったらしい。その篠原が、中途半端に手を上げたところで、小さく目を瞠った。

「おお、お疲れ……って、おまえ、どうした?」
「べつに」

 どうというほどのことでもない。ただ、ほとほとに馬鹿らしくなったというだけのことだ。
 それ以上聞くべきかどうすべきか。すぐそばにいる皓太を気にして即断できないでいることは、明白だった。
 溜息を呑み込んで、向原はなんでもないふうに言い足した。

「なんでもねぇよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました

猫足
BL
「浮気したら殺すから!」 「できるわけがないだろ……」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。 「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」 「スバル、お前なにいってんの…?」 美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。 ※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

元生徒会長さんの日常

あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。 転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。 そんな悪評高い元会長さまのお話。 長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり) なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ… 誹謗中傷はおやめくださいね(泣) 2021.3.3

処理中です...