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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ⑥
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「ご心配、ありがとうございます。でも、僕、嫌なことなんてなにひとつされていませんよ。むしろ、たくさんお話を聞かせてもらえて楽しかったくらいで」
「楽しかったって。……なら、まぁ、いいけど」
「楽しかったですよ。僕はまだここに来て半年も経っていませんから、どんなお話でもすごく新鮮で。特に、僕には縁のなかった中等部のころの皆さんのお話は」
まだこの茶番に付き合うのか、という視線を無視すれば、いかにもしかたないといった苦笑を篠原が浮かべた。そうしてから、水城と一方的な話を止めるように呼びかける。
「あのな、俺ら、実際にその学年に在籍してたの。だから、おまえが『楽しかった』話は、俺ら全員よく知ってる。ついでに言うと、そのとき同じ寮だった皓太もぜんぶ知ってる」
「あぁ、聞きました。榛名くんも高藤くんも同じ寮だったそうですね。昔から仲良しなんだなぁって羨ましくなっちゃいました」
「仲良しどうのこうのは、この際どうでもいいんだけど、……その、なんだ。水城が聞いたのは、たぶん、あいつが自分に都合よく脚色した話だと思うんだけど、それもべつに、いまさらというか」
だから、と小さい子どもに言い聞かせるように、篠原が言った。
「教えてくれなくても大丈夫」
「……」
「遅くなる前に戻りな。俺もこれ以上、長峰に目の敵にされたくはないし」
水城を適当にあしらいたいときの、篠原の常套句だ。変わらない笑みを湛えたまま、こちらを見つめていた水城がにこりと瞳を笑ませる。
「ありがとうございます。でも、よかったら、またお話に付き合ってくださいね。そうじゃないと、僕、いろんな人にお話ししちゃいそう。すごく寂しがり屋なんです、だから」
構ってくださいね、と念を押すようにほほえんだのを最後に、引き上げていく。その背が視界から消えたところで、篠原が非難がましい視線を送ってきた。
「おまえ、一言も喋んなかったけど。それのどこに聞いてやる気があったわけ?」
「あの手のタイプには、なにも反応しないでやるのが一番効くだろ」
「……俺にも余計な負担がかかったんだけど?」
そのせいで、と言わんばかりの口調に、ふっと笑って肩をすくめる。
「それと、単純に聞いてやる気が失せた。想定内すぎて面白味のひとつもない。――あったか? 聞いてやる価値」
「いや、まぁ……、あそこまで嬉々として話すことでもないとは思ったけど。うちの学年だったら誰でも知ってることだし、二年でも一年でも知ってるやつは多いだろうしな。それがどこまで正確な内容かっていうことを置いとけば」
ただ、と篠原が溜息まじりに肩をすくめた。
「大手を振って喋るやつもいなかっただろうから。水城は知らなかったのかもな。知ってるか? あの当時、変にあの一件を蒸し返したら追い出されるって噂されてたの。おまえのせいだぞ」
「人聞きの悪い。昔から素行の悪い問題児だっただろうが。あの暴力沙汰が駄目押しだったってだけだ」
「そら、表向きはな。あいつらが問題児だったってことに異論はねぇし、いなくなってよかったなとも思ってるけど」
三年前から、なにひとつ変わっていないことを言っている。なら、いいだろ、と受け流せば、篠原の視線が水城が消えていった方角へと向いた。
まだ暗くなりきるには早い時間だ。
「楽しかったって。……なら、まぁ、いいけど」
「楽しかったですよ。僕はまだここに来て半年も経っていませんから、どんなお話でもすごく新鮮で。特に、僕には縁のなかった中等部のころの皆さんのお話は」
まだこの茶番に付き合うのか、という視線を無視すれば、いかにもしかたないといった苦笑を篠原が浮かべた。そうしてから、水城と一方的な話を止めるように呼びかける。
「あのな、俺ら、実際にその学年に在籍してたの。だから、おまえが『楽しかった』話は、俺ら全員よく知ってる。ついでに言うと、そのとき同じ寮だった皓太もぜんぶ知ってる」
「あぁ、聞きました。榛名くんも高藤くんも同じ寮だったそうですね。昔から仲良しなんだなぁって羨ましくなっちゃいました」
「仲良しどうのこうのは、この際どうでもいいんだけど、……その、なんだ。水城が聞いたのは、たぶん、あいつが自分に都合よく脚色した話だと思うんだけど、それもべつに、いまさらというか」
だから、と小さい子どもに言い聞かせるように、篠原が言った。
「教えてくれなくても大丈夫」
「……」
「遅くなる前に戻りな。俺もこれ以上、長峰に目の敵にされたくはないし」
水城を適当にあしらいたいときの、篠原の常套句だ。変わらない笑みを湛えたまま、こちらを見つめていた水城がにこりと瞳を笑ませる。
「ありがとうございます。でも、よかったら、またお話に付き合ってくださいね。そうじゃないと、僕、いろんな人にお話ししちゃいそう。すごく寂しがり屋なんです、だから」
構ってくださいね、と念を押すようにほほえんだのを最後に、引き上げていく。その背が視界から消えたところで、篠原が非難がましい視線を送ってきた。
「おまえ、一言も喋んなかったけど。それのどこに聞いてやる気があったわけ?」
「あの手のタイプには、なにも反応しないでやるのが一番効くだろ」
「……俺にも余計な負担がかかったんだけど?」
そのせいで、と言わんばかりの口調に、ふっと笑って肩をすくめる。
「それと、単純に聞いてやる気が失せた。想定内すぎて面白味のひとつもない。――あったか? 聞いてやる価値」
「いや、まぁ……、あそこまで嬉々として話すことでもないとは思ったけど。うちの学年だったら誰でも知ってることだし、二年でも一年でも知ってるやつは多いだろうしな。それがどこまで正確な内容かっていうことを置いとけば」
ただ、と篠原が溜息まじりに肩をすくめた。
「大手を振って喋るやつもいなかっただろうから。水城は知らなかったのかもな。知ってるか? あの当時、変にあの一件を蒸し返したら追い出されるって噂されてたの。おまえのせいだぞ」
「人聞きの悪い。昔から素行の悪い問題児だっただろうが。あの暴力沙汰が駄目押しだったってだけだ」
「そら、表向きはな。あいつらが問題児だったってことに異論はねぇし、いなくなってよかったなとも思ってるけど」
三年前から、なにひとつ変わっていないことを言っている。なら、いいだろ、と受け流せば、篠原の視線が水城が消えていった方角へと向いた。
まだ暗くなりきるには早い時間だ。
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