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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1 ②
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「相談って、友達のこと?」
喧嘩というわけではないけれど、自分がすごく卑怯なことをしている気がして、と浮かない顔をしていたことは、よく覚えている。
真面目に思い悩み過ぎていることが見て取れて、かわいそうになったからだ。もう少し力を抜いてもいいのではないかと感じもしたけれど、全力で向き合おうとしていることは、きっと長所なのだろう。
――だから、というか、あんまり、俺、向いてないんだけどな。
同級生から散々に人の心がないと評されている身だ。もめごとを解決してほしいというのであれば、多少の役には立つと思うのだが。
そうは言っても、相談くらいなら乗ると請け負ったのは、自分である。ほかの誰かを頼ったほうが有意義だとは思うが、自分を選んで頼るというのなら、なんでもしてやりたいとも思う。
人当たりの良い顔で、成瀬はにこりとほほえんだ。
「じゃあ、休みのあいだに考えたんだ?」
「はい。……考えたって言っても、本当にちゃんと考えられたのかは、よくわかんないんですけど。でも、せっかくだから、成瀬さんに聞いてもらえたらなって」
行人のことだから、相談した手前、経緯と結果を報告しないといけないと考えたのかもしれない。
本当に真面目だなぁ、とかわいく思いつつ、うん、と頷いて続きを待つ。少しの間のあとで返ってきたのは、どこかすっきりとした答えだった。
「あまり変に気にしすぎないことにしました」
「そっか」
「はい。その、……気を遣うほうが駄目なんじゃないのかなって思って。見下してる、とかじゃないし、そんなつもりはないんですけど。でも、そういうふうに思われてるかもしれないって思ったら、向こうが絶対に嫌な思いをすると思うから」
すごくプライド高いんです、と苦笑しているわりに、その表情に嫌悪はない。
いつのまにか、そのすごくプライドの高い相手に、随分と心を開いたらしい。はじめて会ったころのことを思い返すと、本当に行人は変わった。
もちろん、良い方向に。
「いいんじゃないかな、それで」
相談というよりも、本当に報告したかっただけで、ついでに背中を押してもらいたかったのだろうとわかったから、そう請け負う。
そのくらいでよければ、さすがにわかる。もともと、行人が悩んで考えただろうことを否定するつもりもなかったのだけれど。
「行人が休み中にちゃんと考えたことなんだから、それで」
「ありがとうございます」
ほっと表情をゆるめた行人が、休みはずっと家にこもっていたから、とどこか気恥ずかしそうに言う。
「落ち着いて考えるのには、いい時間だったかなって。あんまりひとりでじっくりって、ここだとちょっとしにくいので」
同室者がいるうちはそうかもしれないなと内心で同調しつつ、遊びに行ったりしなかったの、と成瀬は尋ねた。ふたつ下の幼馴染みも、遊び盛りの年の長期休暇にもかかわらず、暇を持て余していたふうだったからだ。
「皓太でも誘ってやったらよかったのに。あいつ、相当暇だったのか、後半ほとんど俺の家にいたよ」
「え」
「な、驚くよな。まぁ、うちの妹は喜んでたけど。皓太も行人と遊んだほうが楽しいだろうし、またよかったら声かけてやって」
「あ、いや……、でも。……その、学園の外で、ここの人と会ったことって、今まで一度もなくて」
きょとんとした顔を一転させて焦り出した行人に、「そっか」と頷く。本当になにも言っていないらしい。
――そんなとこばっかり俺に似なくていいと思うんだけど、溜め込むからな、あいつ。
「まぁ、もしよかったらっていうだけだから」
「あの、成瀬さんは?」
「ん?」
「休みはどうだったんですか?」
「ずっと家にいたよ。皓太も来てたし、それに一応、俺も受験生だしね」
それもまた嘘ではない。苦笑ひとつで成瀬は話を変えた。
「外では遊ばないにしても、新学期始まってからは、どう? これから先はもっとだと思うけど、だんだん精神的な負担も増えてくるから。あいつ、部屋で苛々したりしてない?」
「あ、……ぜんぜん。してくれてもいいのに、高藤、そういうの態度に出さないので」
「出してほしいの?」
拗ねて響いたそれに問い返せば、行人が不服そうに軽く眉を寄せる。
喧嘩というわけではないけれど、自分がすごく卑怯なことをしている気がして、と浮かない顔をしていたことは、よく覚えている。
真面目に思い悩み過ぎていることが見て取れて、かわいそうになったからだ。もう少し力を抜いてもいいのではないかと感じもしたけれど、全力で向き合おうとしていることは、きっと長所なのだろう。
――だから、というか、あんまり、俺、向いてないんだけどな。
同級生から散々に人の心がないと評されている身だ。もめごとを解決してほしいというのであれば、多少の役には立つと思うのだが。
そうは言っても、相談くらいなら乗ると請け負ったのは、自分である。ほかの誰かを頼ったほうが有意義だとは思うが、自分を選んで頼るというのなら、なんでもしてやりたいとも思う。
人当たりの良い顔で、成瀬はにこりとほほえんだ。
「じゃあ、休みのあいだに考えたんだ?」
「はい。……考えたって言っても、本当にちゃんと考えられたのかは、よくわかんないんですけど。でも、せっかくだから、成瀬さんに聞いてもらえたらなって」
行人のことだから、相談した手前、経緯と結果を報告しないといけないと考えたのかもしれない。
本当に真面目だなぁ、とかわいく思いつつ、うん、と頷いて続きを待つ。少しの間のあとで返ってきたのは、どこかすっきりとした答えだった。
「あまり変に気にしすぎないことにしました」
「そっか」
「はい。その、……気を遣うほうが駄目なんじゃないのかなって思って。見下してる、とかじゃないし、そんなつもりはないんですけど。でも、そういうふうに思われてるかもしれないって思ったら、向こうが絶対に嫌な思いをすると思うから」
すごくプライド高いんです、と苦笑しているわりに、その表情に嫌悪はない。
いつのまにか、そのすごくプライドの高い相手に、随分と心を開いたらしい。はじめて会ったころのことを思い返すと、本当に行人は変わった。
もちろん、良い方向に。
「いいんじゃないかな、それで」
相談というよりも、本当に報告したかっただけで、ついでに背中を押してもらいたかったのだろうとわかったから、そう請け負う。
そのくらいでよければ、さすがにわかる。もともと、行人が悩んで考えただろうことを否定するつもりもなかったのだけれど。
「行人が休み中にちゃんと考えたことなんだから、それで」
「ありがとうございます」
ほっと表情をゆるめた行人が、休みはずっと家にこもっていたから、とどこか気恥ずかしそうに言う。
「落ち着いて考えるのには、いい時間だったかなって。あんまりひとりでじっくりって、ここだとちょっとしにくいので」
同室者がいるうちはそうかもしれないなと内心で同調しつつ、遊びに行ったりしなかったの、と成瀬は尋ねた。ふたつ下の幼馴染みも、遊び盛りの年の長期休暇にもかかわらず、暇を持て余していたふうだったからだ。
「皓太でも誘ってやったらよかったのに。あいつ、相当暇だったのか、後半ほとんど俺の家にいたよ」
「え」
「な、驚くよな。まぁ、うちの妹は喜んでたけど。皓太も行人と遊んだほうが楽しいだろうし、またよかったら声かけてやって」
「あ、いや……、でも。……その、学園の外で、ここの人と会ったことって、今まで一度もなくて」
きょとんとした顔を一転させて焦り出した行人に、「そっか」と頷く。本当になにも言っていないらしい。
――そんなとこばっかり俺に似なくていいと思うんだけど、溜め込むからな、あいつ。
「まぁ、もしよかったらっていうだけだから」
「あの、成瀬さんは?」
「ん?」
「休みはどうだったんですか?」
「ずっと家にいたよ。皓太も来てたし、それに一応、俺も受験生だしね」
それもまた嘘ではない。苦笑ひとつで成瀬は話を変えた。
「外では遊ばないにしても、新学期始まってからは、どう? これから先はもっとだと思うけど、だんだん精神的な負担も増えてくるから。あいつ、部屋で苛々したりしてない?」
「あ、……ぜんぜん。してくれてもいいのに、高藤、そういうの態度に出さないので」
「出してほしいの?」
拗ねて響いたそれに問い返せば、行人が不服そうに軽く眉を寄せる。
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