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第三部
パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ ②
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怖いもの知らずの水城のパフォーマンスを思い出したのか、苦笑じみた笑みをこぼしてから、同級生は口火を切った。
「前にもちょっとそんな噂があったけど。会長がオメガなんじゃないかっていう話」
「へぇ」
ますます楽しくなってきて、相槌を打つ声に嬉々としたものがにじむ。それを適度に抑えながら、水城は「そうなんだ」と感じ入ったふうに呟いてみせた。
こんな話が聞けるなんて、運が良い。滞在先を選定したときの自分の勘に間違いはなかったのだ。そう思うと、気分も良かった。
「ま、追い出したのは会長っていうより、副会長のほうらしいけど」
「副会長って、向原先輩のことだよね」
「そう、向原先輩。そのころも、今の生徒会の人たちがトップ張ってたからね。それで、副会長の家なんだけど、けっこう怖いんだよ。会長のところは、……なんていうか、派手だから目立ってるけど、怖いで言えば、副会長のところのほうが格段に怖い」
「怖いかぁ」
曖昧にぼかされた表現に、くすくすと笑う。
「お金持ちの人たちも大変なんだね」
「まぁね。それぞれの繋がりってやつがあるから」
まんざらでもない様子で、同級生はさらなる詳細を話し始めた。聞いて損はない話だと、興味津々の顔を崩さないまま、うん、うん、と頷いてみせる。
「会長のところは、言っても、本家じゃないから。あそこの本家は、ちょっと怖いけど」
「そうなんだ」
「そう、そう。ハルちゃんは編入組だから知らなくてあたりまえなんだけど、俺らの二個下に、いるんだよ。その成瀬の本家の三男坊。あれはちょっと会長とは違う意味で怒らせたくない人種だな」
「へぇ」
その情報自体は聞いたことはあった。あまり興味が湧かなかったから、顔を見に行こうとは思わなかったというだけで。
「会長と似てるの?」
「どうかな。年も離れてるし、あんまり仲良いって話は聞いたことないな。というか、どっちの口からも、お互いのこと話してるの聞いたことないし。従兄弟だって思ってみたら似てなくはないけど、雰囲気だけで言えば、会長と高藤のほうが似てる気がする」
そう笑ってから、ふとその同級生が笑みを引っ込めた。話しすぎたと危ぶんだのかもしれない。
「俺の従兄の話のほうはバレたらまずいから、秘密にしてくれる? 親にも、頼むからあそことは揉めるなって念押されてるんだよ。俺も退学にはなりたくないし」
「もちろん」
にんまりと唇を笑ませたまま、水城は肩を寄せた。
「もちろん、秘密にする。僕と轟くんのふたりの秘密だね」
でも、ととびきりの甘えた声で囁く。
「せっかくだから、その話、僕もっと聞きたいなぁ」
これはきっと、とてつもない有意義な秘密になると内心でほくそ笑みながら。
[パーフェクトワールド・ゼロⅣ]
アルファではない自分に価値はないということと。そして、アルファでない人間にとって世界はとんでもなく不平等だということ。そのふたつが、幼少期から刷り込まれた絶対の価値観で唯一無二の真実だった。
「ところで、あなたはいつまでアルファでいるつもりなのかしら」
何度も言ってきたことでしょう、と言わんばかりの調子で、アルファであることが唯一無二の絶対だと自分に刷り込み続けてきた母が、そう問いかけてくる。
自室にあるお気に入りの赤いソファーにゆったりと腰かけ、女優然とした態度で足を組む姿を前に、どういうことですか、とできる限り淡々と成瀬は問い返した。
プライベートの空間だろうとなんだろうと、いつだって自分が物事の中心にいるにふさわしい格好をしていないと気が済まない人なのだ。
この持って回った言い回しにしても、そう。律儀に神経を逆撫でられていても、こちらの胃がやられるだけだいうことは経験則で承知している。
「いつまでいるつもりもなにも、そんな話は、今はじめて聞きましたが」
「あなた、私が学園の惨状を把握していないとでも思っているの? 先生からも恥ずかしいご連絡をいただいてしまったでしょう。いったいどうして薬の適正管理なんて基礎的なことができなくなってしまったのかしら」
恥ずかしいったらないわ、と眉を顰めた直後に、だからね、と言い含めるように彼女は声音を和らげてみせた。
「前にもちょっとそんな噂があったけど。会長がオメガなんじゃないかっていう話」
「へぇ」
ますます楽しくなってきて、相槌を打つ声に嬉々としたものがにじむ。それを適度に抑えながら、水城は「そうなんだ」と感じ入ったふうに呟いてみせた。
こんな話が聞けるなんて、運が良い。滞在先を選定したときの自分の勘に間違いはなかったのだ。そう思うと、気分も良かった。
「ま、追い出したのは会長っていうより、副会長のほうらしいけど」
「副会長って、向原先輩のことだよね」
「そう、向原先輩。そのころも、今の生徒会の人たちがトップ張ってたからね。それで、副会長の家なんだけど、けっこう怖いんだよ。会長のところは、……なんていうか、派手だから目立ってるけど、怖いで言えば、副会長のところのほうが格段に怖い」
「怖いかぁ」
曖昧にぼかされた表現に、くすくすと笑う。
「お金持ちの人たちも大変なんだね」
「まぁね。それぞれの繋がりってやつがあるから」
まんざらでもない様子で、同級生はさらなる詳細を話し始めた。聞いて損はない話だと、興味津々の顔を崩さないまま、うん、うん、と頷いてみせる。
「会長のところは、言っても、本家じゃないから。あそこの本家は、ちょっと怖いけど」
「そうなんだ」
「そう、そう。ハルちゃんは編入組だから知らなくてあたりまえなんだけど、俺らの二個下に、いるんだよ。その成瀬の本家の三男坊。あれはちょっと会長とは違う意味で怒らせたくない人種だな」
「へぇ」
その情報自体は聞いたことはあった。あまり興味が湧かなかったから、顔を見に行こうとは思わなかったというだけで。
「会長と似てるの?」
「どうかな。年も離れてるし、あんまり仲良いって話は聞いたことないな。というか、どっちの口からも、お互いのこと話してるの聞いたことないし。従兄弟だって思ってみたら似てなくはないけど、雰囲気だけで言えば、会長と高藤のほうが似てる気がする」
そう笑ってから、ふとその同級生が笑みを引っ込めた。話しすぎたと危ぶんだのかもしれない。
「俺の従兄の話のほうはバレたらまずいから、秘密にしてくれる? 親にも、頼むからあそことは揉めるなって念押されてるんだよ。俺も退学にはなりたくないし」
「もちろん」
にんまりと唇を笑ませたまま、水城は肩を寄せた。
「もちろん、秘密にする。僕と轟くんのふたりの秘密だね」
でも、ととびきりの甘えた声で囁く。
「せっかくだから、その話、僕もっと聞きたいなぁ」
これはきっと、とてつもない有意義な秘密になると内心でほくそ笑みながら。
[パーフェクトワールド・ゼロⅣ]
アルファではない自分に価値はないということと。そして、アルファでない人間にとって世界はとんでもなく不平等だということ。そのふたつが、幼少期から刷り込まれた絶対の価値観で唯一無二の真実だった。
「ところで、あなたはいつまでアルファでいるつもりなのかしら」
何度も言ってきたことでしょう、と言わんばかりの調子で、アルファであることが唯一無二の絶対だと自分に刷り込み続けてきた母が、そう問いかけてくる。
自室にあるお気に入りの赤いソファーにゆったりと腰かけ、女優然とした態度で足を組む姿を前に、どういうことですか、とできる限り淡々と成瀬は問い返した。
プライベートの空間だろうとなんだろうと、いつだって自分が物事の中心にいるにふさわしい格好をしていないと気が済まない人なのだ。
この持って回った言い回しにしても、そう。律儀に神経を逆撫でられていても、こちらの胃がやられるだけだいうことは経験則で承知している。
「いつまでいるつもりもなにも、そんな話は、今はじめて聞きましたが」
「あなた、私が学園の惨状を把握していないとでも思っているの? 先生からも恥ずかしいご連絡をいただいてしまったでしょう。いったいどうして薬の適正管理なんて基礎的なことができなくなってしまったのかしら」
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