パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ④

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 榛名に相談されたのかな、と思うことで自分を納得させる。「じゃあ、お願い」と最後に告げて、皓太は自分の部屋に鍵を差し込んだ。

「……榛名、おまえ、鍵開けっ放し」
「え? 嘘」
「嘘じゃないから」

 ガチャリと音を立てたドアノブから手を離して、もう一度鍵をひねる。

「成瀬さんに会いたかったのか知らないけど、べつに逃げやしないんだし。気をつけたら、いいかげん」
「そういえば、榛名ちゃん四月早々に鍵なくてしたことあったもんね」

 取り成す調子で荻原は笑っているが、鍵云々に関してだけは本当に気をつけてほしい。「よっちゃんに話してくるね」と言った荻原に「よろしく」ともう一度告げて、今度こそ皓太は部屋に入った。
 続いて入ってきた榛名がドアを閉めるなり、バツの悪い顔で切り出してきた。

「その、ごめん。鍵は気をつける」
「べつにいいけど」

 殊勝に謝られると、自分の言い方がきつかった気がしてきてしまう。悶々としていた自覚があるだけに、余計に。だから、意識して皓太は声音を和らげた。
 榛名の机の上は、すべて片づけが中度半端なところで止まっている。窓から姿を見て、飛び出したのだろうという想像は易かった。

「話したいことでもあったの、成瀬さんに」
「話したいことっていうか……」
「言いたくないならいいよ、ぜんぜん」

 世間話で聞いただけだから、と防衛線を張るように苦笑して、鞄を片づけ始める。扉に背を預けたまま考え込んでいた榛名が、そこでようやく口を開いた。

「さっき、成瀬さんに、あんまりひとりにならないほうがいいって言われた」
「え?」
「おまえも前に、あんまり遅くならないほうが言いって言ってただだろ。やっぱり、今もそう思う?」

 問いかけられて、皓太は視線を上げた。

「俺がってこと?」
「そう。俺、ここがそんなふうになったって思いたくなくて。……ひとりで出歩けないなんておかしいだろって、そう思ってた。そんなふうに思うこと自体、成瀬さんたちに悪いような気もしてたし。でも、四谷も最近はちょっと怖いって言ってる」

 なんでこうなったんだろうなって、とやるせなさそうに榛名が呟く。
 榛名からすると、入学式の日、編入生の水城が自分はオメガだと宣言したことで急転直下に変質したように見えているのかもしれない。

「それで、おまえ、水城の相手は自分がするってこのあいだ言ってただろ」
「まぁ、言ったけど」
「だから、水城とやり合ったわけ?」
「あー……」

 そういうわけでないことはなかったのだが、最終的には違っていた気がする。どうとも説明しがたく悩んでいると、榛名がずばりと切り込んできた。

「それで、これからもそうしてくの?」
「ええと」

 じっと見つめてくる瞳に映る隠さない非難に、どうしようかなと悩んだものの、誤魔化すことを皓太は諦めた。
 これはもしかすると、「自分も一緒にやる」と言ったことを完全に無視した思われているのだろうか。

「まず、その、最初に榛名が聞いたほうの、俺がどう思っていう話だけど」
「うん」
「いいことだとは思ってないよ。前にも言ったけど、俺は、あの人たちがつくったここが好きだしね。だから、もとに戻ればいいと思ってる」

 そのもとの状態が榛名にとって安心できるものだったというのなら、余計にそうすべきだとも思う。

「うん、そうだよな。俺も、そうは思ってる」
「だろ? それで、もうひとつの話のほうだけど」

 話しながらも、皓太は自分の中で答えをどうにか探そうとしていた。けれど、あれは、榛名の言ったような理性のある言動ではなかったとわかってもいた。
 ただ、自分の勝手な感情だった。自分の中に、そんなふうなものがあるとは思っていなくて、驚いたけれど。

「その、榛名が昼休みのこと、どんなふうに聞いたのかわからないけど、暴力的なことをしようとかはさすがに思ってなくて」

 むしろ、物理的な力で押さえ込もうなどというのは、一番駄目な手段だと思う。今の自分が言っても説得力はない気はするが、本当にそう思っているつもりだ。

「おまえがそういうことするとは思ってないけど」
「うん」

 俺も思ってなかったのに、手が出そうになったんだよ、という事実は伏せたまま、伝えることのできる最大限を選ぶ。

「ごめん。正直俺もまだしっかり考えがまとまってなくて、でも、ちゃんと言えるって思ったら、そのときは絶対話すから」

 そのときに聞いてくれたらうれしい、とその目をまっすぐに見つめたまま、告げる。非難は薄れたものの、まだ不信そうな顔をしている。その気持ちもわかったので、もうひとつ言葉を選んだ。
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