パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
273 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9 ①

しおりを挟む
[9]


 実際の年齢よりも落ち着いている、だとか、大人びている、だとか。そういったことは、幼いころから数え切れないほど言われてきた。
 生来の気質というものもあったとは思うけれど、後天的な環境要因のほうが大きかったのだろうと皓太は思っている。
 物心ついたときの一番身近な遊び相手はふたつ年上の幼馴染みで、学校に通うようになってからも、同級生よりも幼馴染みの遊び仲間に入れてもらうことを好んだ。
 そんなふうだったから、どうしても同級生の幼さが目についた。余計な波風を立てないよう必要なコミュニケーションは取っていたから、もめごとを起こしたことも、人間関係で困ったこともなかったけれど、仲の良い同い年の友人をつくることもしなかった。
 小器用な、子どもだったのだと思う。この年になって思い返すと、なかなかかわいげのない子どもだったような気もする。逆に、成瀬はよく嫌な顔ひとつせず自分たちの輪に引き入れてくれていたなとも思う。
 それがあの人のやさしさだったというのなら、そうだったのだと思うし、自分はずっとかわいがってもらっていて、ずっと近くにいさせてもらっていた。
 時間の長短だけでいうなら、この学園で、あの人と一番長い時間を過ごしているのは自分だと思う。ずっと彼のうしろから、彼が紹介してくれる世界だけを見ていた。
 だから、彼が見せたいと思っているものしか、自分は見ていなかった。それが、世界のすべてだと信じていた。



「高藤くんと荻原くんは、署名してくれないよね」

 昼休みの終わり際に教室に戻ってきた水城は、連れ立っていたクラスメイトから離れると、自分たちのほうへ近づいてきた。その手に握られているのは、分厚い紙の束だ。

「ふたりとも櫻寮だものね。やっぱり、先輩たちは怖い?」

 気持ちはわかるよ、と慮るように水城が頷く。僕も怖かったから、と。

「あ……、そういうわけじゃないんだけど」

 やんわりと否定してから、荻原が取ってつけた顔でほほえんだ。そうして話を変えるように、紙の束を視線で指し示した。

「それよりも、ハルちゃんは、どうして、それを集めてるの?」
「どうしてって……。うん、そうだなぁ」

 手にしていた署名簿の束をとんとんと机で整えながら、水城は首を傾げてみせた。

「今が正しいとは思えないから、かな」

 あくまでも自分の正義感からきているのだと主張するように、ゆっくりと言葉を選んでいく。

「僕は、みんなと違って、この学園に高等部から入ってきて……、それで、荻原くんも高藤くんも、中等部からここにいるでしょ。だから、あたりまえに感じるのかもしれないんだけど、僕には、ここが違和感だらけに見えることがあるんだ」
「違和感?」
「そう。会長を批判してるわけじゃないんだけど、あの人の一存で、ここは動いてるように見える。……それって、本当にいいことなのかなって」
「あのね、ハルちゃん」
「わかってるよ。会長は悪い人じゃないんだろうし、荻原くんにとっても、ここはいい学園なんだよね。荻原くんはアルファだし、櫻寮だし、なんの不利益も被ってないよね」

 口を挟もうとする荻原を遮って、水城は「でもね」と訴える。

「自分たちには不利益がないから、じゃあ、このままでいいっていうことにはならないんじゃないかなって。だから、僕はそのための一歩を踏み出したいなって、そう思ったんだ」

 その言葉は、自分たちに向かって、というよりも、自分たちを使ってクラス中に宣言する雰囲気を強く帯びていた。
 クラスメイトから注がれる視線が徐々に強くなっていることを実感したまま、溜息を呑み込む。
 人目を最大限に利用しようとするところが、本当に厄介なんだよな、とうんざりとしながら。

「それでね、それは新しい目を持った僕にしかできないことなんじゃないのかなって。そう言って背中を押してくれた人たちも、たくさんいるから」

 だから、その人たちのためにもがんばろうって決めたんだ、と水城がほほえむ。見慣れた、天使の顔で。
 どうするの、という荻原の目配せに、皓太はしかたなく口を開いた。この舞台を水城が利用するというのなら、上がらざるを得ない。

「じゃあ、水城の思う、ここの違和感ってなんなの?」

 問いかけに、水城はにこりと口元を笑ませた。わかるでしょ、といわんばかりの表情。

 ――まぁ、わからないわけじゃない、けど。

 アルファ優位のこの世界で、どの性も平等だと言い張っている空間は、外から見たら異質でしかないだろう。
 だからと言って、糾弾されるようなことではないと思うが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いとしの生徒会長さま 2

もりひろ
BL
生徒会長は代わっても、強引で無茶ブリざんまいなやり口は変わってねえ。 今度は女のカッコして劇しろなんて、ふざけんなっつーの!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

処理中です...