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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8 ⑤
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「え?」
「水城の相手は、俺がするよ」
え、とまたまぬけな声がもれる。そんなことを言われるとは思っていなかったのだ。困惑したまま、問いかける。
「なんで、だって」
「成瀬さんにしてもらったんじゃ、意味がないんだ。あの人たちがいなくなったあとも、俺たちはここにいるんだ。そこまでお膳立てしてもらってどうにかなったとしても、本当の意味での解決にはならない」
おまえ、そういうの好きじゃないだろ、と言おうとしたことをわかっていたように、高藤は行人の問いかけを遮った。
きっぱりとしたそれは、わからなくはなかった。むしろ、言っていること自体はよくわかる。成瀬たちに甘えすぎるわけにいかないというのも、そのとおりだと思う。ただ。
……でも、おまえ、そういうの、好きじゃないだろ。
言えなかった台詞を、胸中で行人は繰り返した。
たしかに、去年、高藤は中等部で生徒会長をしていた。けれど、権力を持っていても、それをみだりに使ったりは絶対にしなかった。いっそ控えめに生徒主体の生活を支える側に回っていた。
その高藤が、と思うと、また無理をさせているのではないかと気になってしまう。
誰かのためなら無理はできる側面があることは、十二分に思い知っている。
「それは、……まぁ、そうかもしれないけど」
歯切れの悪い返事に、高藤は少し困ったように笑った。そうして「だから俺がするんだって」と繰り返す。
「悪いとは言わないけど、榛名はなんだかんだ言って甘いから、……だから、嫌だって思うときがくるかもしれないけど」
「甘いって。そんなことないだろ」
「だって、榛名、水城にぜんぜん怒ってないじゃん。それどころか、かわいそうみたいに思ってそうだし」
「ぜんぜん怒ってないってことは、ない」
呆れたような雰囲気が混ざっていることに気がついて、なんとなく据わりが悪くなってしまった。
でも、ぜんぜん怒っていないということはない、と思う。
現に、みささぎ祭の前にも人前でよけいな喧嘩を売っているし、そのあとにも性懲りなくやらかしている。むしろ、そのたびに高藤に「あまり相手をせずに流せ」と渋い顔をされていた気がするのだが。
それよりあとのことについては、自分のことでいっぱいいっぱいだったというだけだ。
「そうかな。俺だったら、もっと怒ってるよ、きっと」
「もっと怒ってるもなにも、流せって言ってたの、おまえだったと思うんだけど」
「それじゃなくて、流してもいいものと、流したら駄目なものがあるって話で。――水城が入学してきたばかりのころの諍いは、正直、おまえが流すべきだとは思ってたよ。それは認める。悪者になるだけなのが目に見えたし。でも」
あれは違うだろ、と高藤は言った。吐き捨てるように。
あれ、という言葉がなにを指しているのかは、理解できた。でも、なんとなく素直に頷くことはできなかった。
たしかに――、状況証拠が正しかったと仮定して、の話にはなるけれど、そもそもとして人の部屋に勝手に侵入して、挙句、棚をあさるのはどうかと思うし、持ち出すこともどうかと思う。
ただ、自分がもっとしっかりとしていれば、そのあとの対応も含めて、自分の性がバレる事態には陥らなかったのではないかと思っている部分があるのだ。
それに、あんなことがあったのに、結果としてなにもなく変わらない日常を過ごすことができていることをありがたいと思う気持ちのほうが強かった。
「そうだけど。でも、なんとかなったし。……あぁ、いや、高藤には迷惑かけてると思うけど」
「迷惑なんて思ってないし。というか、榛名のせいじゃないんだから、そんな顔しなくても。まぁ、嫌な話を持ち出したのは俺だけど」
「……」
「いや、榛名のせいじゃないじゃん。むしろ、なんていうか。こういう言い方すると怒るかもしれないけど、被害者だったと思うんだけど」
だから、と言葉を選ぶようにしながらも、高藤は続けた。
「そのおまえが、原因をつくった水城を責めないから、第三者の俺が責めるのもどうかなって思って。だから、なにも言わなかったってだけ。腹は立ってたよ、ふつうに」
「水城の相手は、俺がするよ」
え、とまたまぬけな声がもれる。そんなことを言われるとは思っていなかったのだ。困惑したまま、問いかける。
「なんで、だって」
「成瀬さんにしてもらったんじゃ、意味がないんだ。あの人たちがいなくなったあとも、俺たちはここにいるんだ。そこまでお膳立てしてもらってどうにかなったとしても、本当の意味での解決にはならない」
おまえ、そういうの好きじゃないだろ、と言おうとしたことをわかっていたように、高藤は行人の問いかけを遮った。
きっぱりとしたそれは、わからなくはなかった。むしろ、言っていること自体はよくわかる。成瀬たちに甘えすぎるわけにいかないというのも、そのとおりだと思う。ただ。
……でも、おまえ、そういうの、好きじゃないだろ。
言えなかった台詞を、胸中で行人は繰り返した。
たしかに、去年、高藤は中等部で生徒会長をしていた。けれど、権力を持っていても、それをみだりに使ったりは絶対にしなかった。いっそ控えめに生徒主体の生活を支える側に回っていた。
その高藤が、と思うと、また無理をさせているのではないかと気になってしまう。
誰かのためなら無理はできる側面があることは、十二分に思い知っている。
「それは、……まぁ、そうかもしれないけど」
歯切れの悪い返事に、高藤は少し困ったように笑った。そうして「だから俺がするんだって」と繰り返す。
「悪いとは言わないけど、榛名はなんだかんだ言って甘いから、……だから、嫌だって思うときがくるかもしれないけど」
「甘いって。そんなことないだろ」
「だって、榛名、水城にぜんぜん怒ってないじゃん。それどころか、かわいそうみたいに思ってそうだし」
「ぜんぜん怒ってないってことは、ない」
呆れたような雰囲気が混ざっていることに気がついて、なんとなく据わりが悪くなってしまった。
でも、ぜんぜん怒っていないということはない、と思う。
現に、みささぎ祭の前にも人前でよけいな喧嘩を売っているし、そのあとにも性懲りなくやらかしている。むしろ、そのたびに高藤に「あまり相手をせずに流せ」と渋い顔をされていた気がするのだが。
それよりあとのことについては、自分のことでいっぱいいっぱいだったというだけだ。
「そうかな。俺だったら、もっと怒ってるよ、きっと」
「もっと怒ってるもなにも、流せって言ってたの、おまえだったと思うんだけど」
「それじゃなくて、流してもいいものと、流したら駄目なものがあるって話で。――水城が入学してきたばかりのころの諍いは、正直、おまえが流すべきだとは思ってたよ。それは認める。悪者になるだけなのが目に見えたし。でも」
あれは違うだろ、と高藤は言った。吐き捨てるように。
あれ、という言葉がなにを指しているのかは、理解できた。でも、なんとなく素直に頷くことはできなかった。
たしかに――、状況証拠が正しかったと仮定して、の話にはなるけれど、そもそもとして人の部屋に勝手に侵入して、挙句、棚をあさるのはどうかと思うし、持ち出すこともどうかと思う。
ただ、自分がもっとしっかりとしていれば、そのあとの対応も含めて、自分の性がバレる事態には陥らなかったのではないかと思っている部分があるのだ。
それに、あんなことがあったのに、結果としてなにもなく変わらない日常を過ごすことができていることをありがたいと思う気持ちのほうが強かった。
「そうだけど。でも、なんとかなったし。……あぁ、いや、高藤には迷惑かけてると思うけど」
「迷惑なんて思ってないし。というか、榛名のせいじゃないんだから、そんな顔しなくても。まぁ、嫌な話を持ち出したのは俺だけど」
「……」
「いや、榛名のせいじゃないじゃん。むしろ、なんていうか。こういう言い方すると怒るかもしれないけど、被害者だったと思うんだけど」
だから、と言葉を選ぶようにしながらも、高藤は続けた。
「そのおまえが、原因をつくった水城を責めないから、第三者の俺が責めるのもどうかなって思って。だから、なにも言わなかったってだけ。腹は立ってたよ、ふつうに」
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