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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6 ⑥
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「本当、あいつ、嘘通じないんだよな。嫌になる。まぁ、昔からだけど」
「おまえが吐かなければいい話だろう」
「俺が嘘吐かないように見える?」
誠実そうだとか、優しそうだとか。幼いころから浴びるほどに聞いた言葉だ。茅野がそう考えているとは思っていなかったけれど。
案の定、「そういう話じゃない」と首を振られてしまった。
「嘘が通じない相手だからこそ、良好な関係を築けるとか。そういった前向きな捉え方ができないのか。そういう意味では、あいつは誠実だろう」
「そうかな」
どうなのだろうと間を置くような相槌を打ってみせたものの、本当はわかっていた。あいつは俺とは違う。
「いや、まぁ、そうだな。あいつ、嘘きらいだから」
「きらい?」
誠実だなんだのと言っていたわりには、どこか意外そうな声だった。そうだよ、と変わらない調子で請け負う。
嘘がない人間だとは、言わない。あの男は必要があれば平然と嘘を吐けるし、そのことに罪悪感も抱かないだろうと知っている。
嘘を吐かれたとしても、騙されるほうに問題があったと思うのがせいぜいだろうとも。でも。
「昔からあいつが怒るのは、俺が本音を言わないときだ」
より正確に表現するならば、俺が自分自身よりもプライドを優先しているときかもしれない。
あるいは、あいつから向けられた本気を、正面から受け止めようとしなかったとき。
俺が嘘だらけの人間だということを誰よりも知っているはずなのに、なぜか向原は、俺にまっすぐであることを期待している。
「そこまでわかっていて、なんでやってやらないんだ、おまえは」
あいつの言い分のほうがよほど真っ当に聞こえるんだが、と茅野は言う。そうかもしれない。
「なんでだろうな」
できないからだよ、と答える代わりに、そう成瀬は笑った。
目を逸らしてきたのは、いつも自分だった。向原は逸らさない。
ずっと昔は、同じように見つめ返すことができていたこともあった。けれど、もう無理だ。
だから、たぶん、俺はずっと捨ててほしかったのかもしれない。諦めて、見捨ててほしかった。
望むものにはどうやったってなれない。そのことを一番理解しているのは自分自身だった。
「あのな、成瀬」
じっとこちらを見つめてから、静かに茅野は口を開いた。
「どう伝えればいいのか、俺にももうよくわからんが。後悔するぞ」
「後悔?」
「そう、後悔だ。俺たちがここにいることができるのも、あと半年だ。だからこそ、少しでもわだかまりなくおまえに……、おまえたちに卒業していってほしいと思ったから話せと言ったし、それが条件だと言ったつもりだった」
「うん」
真摯な調子に耳を傾けて、穏やかに相槌を打つ。言っていることの理解はできる。
「だから、話しただろ」
「おまえが一方的にな。……おい、何度も言わせるなよ、いいかげん」
「だって、事実だし。でも、大丈夫だよ」
「大丈夫って、なにが大丈夫なんだ」
苛立ちが混ざり始めた応答を受け流して、大丈夫と繰り返す。
言っていることは、理解できる。けれど、心配されるような事態には陥っていないし、後悔をするつもりもない。
この選択をしたときに、そう決めていた。
――そういえば、篠原にも言われったけ。
この状況に悪化する少し前。後悔する、だとか、爆発する、だとか。そんなことを延々と言っていた。
「俺は、俺である限り、絶対に後悔はしない」
アルファである限り、絶対に。だから、アルファの顔でほほえんでみせる。
どれだけ滑稽だと思われようとも、それが自分であるためのすべてだった。
「おまえが吐かなければいい話だろう」
「俺が嘘吐かないように見える?」
誠実そうだとか、優しそうだとか。幼いころから浴びるほどに聞いた言葉だ。茅野がそう考えているとは思っていなかったけれど。
案の定、「そういう話じゃない」と首を振られてしまった。
「嘘が通じない相手だからこそ、良好な関係を築けるとか。そういった前向きな捉え方ができないのか。そういう意味では、あいつは誠実だろう」
「そうかな」
どうなのだろうと間を置くような相槌を打ってみせたものの、本当はわかっていた。あいつは俺とは違う。
「いや、まぁ、そうだな。あいつ、嘘きらいだから」
「きらい?」
誠実だなんだのと言っていたわりには、どこか意外そうな声だった。そうだよ、と変わらない調子で請け負う。
嘘がない人間だとは、言わない。あの男は必要があれば平然と嘘を吐けるし、そのことに罪悪感も抱かないだろうと知っている。
嘘を吐かれたとしても、騙されるほうに問題があったと思うのがせいぜいだろうとも。でも。
「昔からあいつが怒るのは、俺が本音を言わないときだ」
より正確に表現するならば、俺が自分自身よりもプライドを優先しているときかもしれない。
あるいは、あいつから向けられた本気を、正面から受け止めようとしなかったとき。
俺が嘘だらけの人間だということを誰よりも知っているはずなのに、なぜか向原は、俺にまっすぐであることを期待している。
「そこまでわかっていて、なんでやってやらないんだ、おまえは」
あいつの言い分のほうがよほど真っ当に聞こえるんだが、と茅野は言う。そうかもしれない。
「なんでだろうな」
できないからだよ、と答える代わりに、そう成瀬は笑った。
目を逸らしてきたのは、いつも自分だった。向原は逸らさない。
ずっと昔は、同じように見つめ返すことができていたこともあった。けれど、もう無理だ。
だから、たぶん、俺はずっと捨ててほしかったのかもしれない。諦めて、見捨ててほしかった。
望むものにはどうやったってなれない。そのことを一番理解しているのは自分自身だった。
「あのな、成瀬」
じっとこちらを見つめてから、静かに茅野は口を開いた。
「どう伝えればいいのか、俺にももうよくわからんが。後悔するぞ」
「後悔?」
「そう、後悔だ。俺たちがここにいることができるのも、あと半年だ。だからこそ、少しでもわだかまりなくおまえに……、おまえたちに卒業していってほしいと思ったから話せと言ったし、それが条件だと言ったつもりだった」
「うん」
真摯な調子に耳を傾けて、穏やかに相槌を打つ。言っていることの理解はできる。
「だから、話しただろ」
「おまえが一方的にな。……おい、何度も言わせるなよ、いいかげん」
「だって、事実だし。でも、大丈夫だよ」
「大丈夫って、なにが大丈夫なんだ」
苛立ちが混ざり始めた応答を受け流して、大丈夫と繰り返す。
言っていることは、理解できる。けれど、心配されるような事態には陥っていないし、後悔をするつもりもない。
この選択をしたときに、そう決めていた。
――そういえば、篠原にも言われったけ。
この状況に悪化する少し前。後悔する、だとか、爆発する、だとか。そんなことを延々と言っていた。
「俺は、俺である限り、絶対に後悔はしない」
アルファである限り、絶対に。だから、アルファの顔でほほえんでみせる。
どれだけ滑稽だと思われようとも、それが自分であるためのすべてだった。
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