パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4 ⑥

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 まぁ、たしかに、あの破れかぶれ具合は相当だったな。
 連想的に浮かんだ顔は件の一年ではなかったが、破れかぶれの人間が怖いという意味では同じだろうと思う。
 本当に、あれは、どうしようもない馬鹿だった。

「まぁ、そうかもな」
「自信満々の人間がご自慢のプライドを粉砕されたときも、そうだからな。あのお姫様はどっちの素養もばっちりだ」

 それもそうだな、と向原は同じ相槌を繰り返した。それもたしかにそのとおりで、あの一年もまた操りやすい類の人種だった。

「おまけに、あいつは、そういったやつの高い高いプライドをへし折るのが嫌味なほどにうまいときてる」

 単純に相性が悪すぎるのだという指摘に同意するように、向原は笑った。幾度となく感じていたことだったからだ。
 単純に性格の相性という話ではなく、あの一年は、自分と同じオメガの人間が、「アルファもオメガも平等」とする世界をつくったことが気に食わなかったのだろうけれど。
 水城は、はじめて顔を合わせた入学式のときからずっと、気に食わないという瞳を崩さなかった。

「ま、それだけってわけでもないんだろうが」

 とりあえず、と薄い笑みを張り付けたまま、本尾は続けた。

「俺は、その爆発には期待してるんだ」

 爆発。この、混沌とし始めている現状を打破する、一撃になるかもしれないもの。
 ありえなくはない話だと思っていたから、向原も適当に相手をしてやっていたのだ。
 あの、入学式の日、ここは変わるだろうとわかった。漫然とした予感なんてものではなく、事実として。
 それまでのこの学園は、気味の悪いくらいに第二の性が排除されてきっていた世界だった。そこに、第二の性を――オメガ性を見せびらかすように主張する存在が現れたら、荒れないわけがない。
 成瀬にどうにかする気があれば、荒れたとしても多少で済んだのだろうが、水城にとっては都合の良いことに、当初成瀬にその気がなかったのだ。

 ――中途半端なことしてるって思ってるよな。俺もそう思う。

 断罪か、あるいは叱咤を求めるようだった、声。好きにしたらいいと返したのは、半分は本心だった。
 好きにやりたいようにしたらいい。そのあとのフォローくらい、どうとでもしてやれる。
 けれど、動かないという選択をするのなら、自分も排除には動かない。
 かつての自分であれば、成瀬が動こうが動くまいが、危険因子は排除していた。それをしなかったのは、一種の賭けだった。
 そうでなければ、なにも変わらなかった。
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