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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4 ③
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「茅野といえば、言ってた」
「え? 茅野がなに」
「次に寮則破ってみろ、寮長権限で高藤と部屋割り入れ替えてやる、だって」
「……」
「榛名と一緒にするのが、あいつは一番悪さがしづらいだろうからな、とも言ってたけど、どう思う?」
気づかれることはないと思っていたのか、あるいは、気づかれても言及はされないと軽んじていたのか。
実際のところは知らないが、頭の痛そうな顔で「あの問題児め」と唸っていた寮長は、次があれば即座に強権を発動しかねない雰囲気だった。あれは相当ストレスが溜まっている。
「ちなみに柏木は、繰り返すようなら、もういっそ外鍵でも付けたらどうだって言ってたけど。さすがにそれは問題があるって茅野が止めてた。よかったな」
「まぁ、茅野は、そういうところ四角四面だから」
「そうだな。それで、なにしてたんだ?」
にこりとほほえむと、成瀬が黙り込んだ。下手な誤魔化し方をしたらより一層面倒なことになる。そう考えていることは明らかだったので、遠慮なく向原は追い打ちをかけた。
「言ったよな? おまえの勝手を受け入れてやるんだ。その代わり、俺が聞いたことに関してくらい誠意を持って答えろよって。最低限のつもりだったんだけどな、おまえにはそれも難しすぎたのか」
「……言ってたな」
それもまた、いかにも渋々といった頷き方だった。聞いたことは認める、と言わんばかりの。
「あのな、でも」
「皓太に知られたくないよな、おまえは。おまえがなにをどう言って、俺を脅したのか」
被せるようにして言い放つと、嫌そうに成瀬が溜息を吐いた。
「そういうところ、性格悪いよな」
「おまえもだろ」
相手の痛いところを突く言動は、お互いによく選んでいることだ。
「まぁ、それはそうか。俺もよくやるし。たしかにお互い様だよな」
自身に言い聞かせるようにそう言って、顔が上げる。まともに向き合うという表明のつもりなのか、取り繕っていた笑みを消した、静かな瞳。
「アルファには会ってない。会う気もない」
「アルファには?」
「言葉どおりだ。ベータとしか会ってない。嘘は言ってない。……少なくとも、これに関しては」
随分な予防線だ。黙ったまま続きを促すと、成瀬が「それと」とほんの少しためらうようにして言葉を続けた。
「これも信じる信じないはおまえの勝手だけど。俺は、良くも悪くも、水城と同じ手段を使うつもりはない」
「それで?」
「だから、……このあいだのことは、悪かった。言いすぎた」
真正面から視線を合わせて、そう告げて寄こす。嘘なんて吐いたこともありませんといった顔に、向原は失笑した。
嫌味なくらい誠実な表情をつくるのがうまい、と言って憚らないのは篠原だが、本当に、心の底からそう思う。
ぜんぶ本気だったくせに、なにをいまさら。
「それを言うなら、言うつもりのなかった本音を聞かせて悪かった、だろ」
「それも、そうだな。悪かった」
視線を逸らすこともしないまま、あっさりと成瀬は前言を撤回した。
「おまえに言わないくらいの分別はあるつもりだった」
「そうか」
先ほどに比べても本心に近いものだろうとはわかった。けれど、それ以上のなにかを言う気にはならなかった。
悪かったと言われても、胸に響くものもなにもない。その態度をどう取ったのか、成瀬がにこりと笑みを浮かべ直した。
「ところで、話は変わるんだけど」
「……なんだよ、今度は」
「おまえ、本尾になに言った?」
「べつに、なにも」
こっちが本命だったらしい。面倒くさいという感情のまま、うんざりと首を振る。そりゃ、ここじゃなきゃできない話だ。
「そんなわけないだろ。俺は、おまえに」
「あのな」
何年も繰り返している発展性のない問答には、こちらも辟易しているのだ。言い分を最後まで聞こうとも思えず、強い口調で遮る。
「庇われたくも、尻拭いされたくもないっていうなら、相応の行動をおまえが取れよ」
難しいことを言っているつもりもなければ、暴論を突き付けているつもりもない。すぐに言い返せない時点で、成瀬だってわかっているはずだ。
「え? 茅野がなに」
「次に寮則破ってみろ、寮長権限で高藤と部屋割り入れ替えてやる、だって」
「……」
「榛名と一緒にするのが、あいつは一番悪さがしづらいだろうからな、とも言ってたけど、どう思う?」
気づかれることはないと思っていたのか、あるいは、気づかれても言及はされないと軽んじていたのか。
実際のところは知らないが、頭の痛そうな顔で「あの問題児め」と唸っていた寮長は、次があれば即座に強権を発動しかねない雰囲気だった。あれは相当ストレスが溜まっている。
「ちなみに柏木は、繰り返すようなら、もういっそ外鍵でも付けたらどうだって言ってたけど。さすがにそれは問題があるって茅野が止めてた。よかったな」
「まぁ、茅野は、そういうところ四角四面だから」
「そうだな。それで、なにしてたんだ?」
にこりとほほえむと、成瀬が黙り込んだ。下手な誤魔化し方をしたらより一層面倒なことになる。そう考えていることは明らかだったので、遠慮なく向原は追い打ちをかけた。
「言ったよな? おまえの勝手を受け入れてやるんだ。その代わり、俺が聞いたことに関してくらい誠意を持って答えろよって。最低限のつもりだったんだけどな、おまえにはそれも難しすぎたのか」
「……言ってたな」
それもまた、いかにも渋々といった頷き方だった。聞いたことは認める、と言わんばかりの。
「あのな、でも」
「皓太に知られたくないよな、おまえは。おまえがなにをどう言って、俺を脅したのか」
被せるようにして言い放つと、嫌そうに成瀬が溜息を吐いた。
「そういうところ、性格悪いよな」
「おまえもだろ」
相手の痛いところを突く言動は、お互いによく選んでいることだ。
「まぁ、それはそうか。俺もよくやるし。たしかにお互い様だよな」
自身に言い聞かせるようにそう言って、顔が上げる。まともに向き合うという表明のつもりなのか、取り繕っていた笑みを消した、静かな瞳。
「アルファには会ってない。会う気もない」
「アルファには?」
「言葉どおりだ。ベータとしか会ってない。嘘は言ってない。……少なくとも、これに関しては」
随分な予防線だ。黙ったまま続きを促すと、成瀬が「それと」とほんの少しためらうようにして言葉を続けた。
「これも信じる信じないはおまえの勝手だけど。俺は、良くも悪くも、水城と同じ手段を使うつもりはない」
「それで?」
「だから、……このあいだのことは、悪かった。言いすぎた」
真正面から視線を合わせて、そう告げて寄こす。嘘なんて吐いたこともありませんといった顔に、向原は失笑した。
嫌味なくらい誠実な表情をつくるのがうまい、と言って憚らないのは篠原だが、本当に、心の底からそう思う。
ぜんぶ本気だったくせに、なにをいまさら。
「それを言うなら、言うつもりのなかった本音を聞かせて悪かった、だろ」
「それも、そうだな。悪かった」
視線を逸らすこともしないまま、あっさりと成瀬は前言を撤回した。
「おまえに言わないくらいの分別はあるつもりだった」
「そうか」
先ほどに比べても本心に近いものだろうとはわかった。けれど、それ以上のなにかを言う気にはならなかった。
悪かったと言われても、胸に響くものもなにもない。その態度をどう取ったのか、成瀬がにこりと笑みを浮かべ直した。
「ところで、話は変わるんだけど」
「……なんだよ、今度は」
「おまえ、本尾になに言った?」
「べつに、なにも」
こっちが本命だったらしい。面倒くさいという感情のまま、うんざりと首を振る。そりゃ、ここじゃなきゃできない話だ。
「そんなわけないだろ。俺は、おまえに」
「あのな」
何年も繰り返している発展性のない問答には、こちらも辟易しているのだ。言い分を最後まで聞こうとも思えず、強い口調で遮る。
「庇われたくも、尻拭いされたくもないっていうなら、相応の行動をおまえが取れよ」
難しいことを言っているつもりもなければ、暴論を突き付けているつもりもない。すぐに言い返せない時点で、成瀬だってわかっているはずだ。
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