215 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンド19 ⑥
しおりを挟む
沈黙を勝手に了承と取った茅野がドアを開けて、入ってきていいぞと手招く。ぺこりと頭を下げて入ってきたのは、緊張した面持ちの榛名だった。
「あ……」
その榛名の視線が、出したままだった薬のところでとまる。
「そうか。おまえも服用しているんだったな。同じものか……、と、悪い。立ち入ったことを聞いた」
「いえ、興味本位で尋ねられてるわけじゃないって、わかってるんで。あの、ちょっと触ってもいいですか」
断りを入れた榛名が、薬を手に取る。まじまじと見つめている様子が気になったのか、茅野もひょいとその手元を覗きこんでいる。
「どうかしたのか?」
「あ……、えっと、俺も軽いやつじゃないんですけど、これ、もっときつい薬なんじゃないかなって。前に一回病院で見せてもらったことがあるんです」
「病院で?」
「はい、その、今服用している薬が効かなくなった場合、強いものや違う種類に変えて様子を見ていくんですけど、これは最終手段だ、みたいな感じで聞いたような気がして……。あ、違うかもしれないですけど」
取ってつけた弁明が、事実なのだろうということを告げていた。ちらりとこちらを見た茅野が、深刻にならない調子で再び問いかける。
「ちなみに、それは服薬する量で効き目が変わったりするものなのか?」
「え?」
「いや、……あいつが馬鹿みたいに飲んでいたから、ちょっと気になってな」
「そうですか」
手にしていた薬を見つめてから、榛名が顔を上げた。どう伝えるのが最良なのか悩んでいるふうに、ゆっくりと話し始める。
「質問の答えになってないかもしれないですけど、前提として、俺は処方された以上の薬を飲んだことはないです。けど、それでも副作用はあります。頭痛、吐き気。そういったものを、俺はずっと抱えていました。たぶん、成瀬さんも」
「そうか」
「……成瀬さんは、だから俺に、『つがいをつくったらいい』って言ってくれたけど。それだけ、きついんです。でも、服用さえすれば、なんとかベータとして生きていくことができる。だから俺たちは飲むんです。でも」
「でも?」
「風邪薬を大量に飲んでも治らないですよね? 症状がマシになるわけでもないですよね。抑制剤もそれと一緒です。必要以上の量を飲んだところで、効果が変わるわけがない」
そこで、榛名は窺うように言葉を切った。
「そんなこと、成瀬さんがわかっていないはずがないと思います、けど」
「まぁ、なんだ。……効かないと言っていたな」
そう言ったくせに、後輩の顔が浮かなくなると気にかかったらしい。取り成すように話を変える。
「話がしたいと言っていたのに、聞いてばかりで悪かったな。なんだった?」
「俺だってことにしてくださいって言おうと思ってきたんです」
「俺だってって」
ろくでもない提案に、茅野がわずかに言葉を詰まらせた。
「気持ちはありがたいが、無理があるだろう、いろいろと。それに、そこまでの騒ぎにはならな――」
「でも! 俺が学校出るときには、すでに噂になってました。誰か、っていうのはまだだったけど、うちの寮生じゃないかって。あることないこと言われて探られるくらいなら、俺だってことにしておいたほうが絶対」
「あのな、榛名」
「俺はもうバレてるし、まだ発情期が安定してないんだってことにしたら、なんとでも……」
それが、今まで助けてもらったことの恩返しのつもりなのだろうか。必死に言い募る調子が馬鹿らしくなって、向原は口を挟んだ。
「本尾に見られてる」
はっとしたように、榛名が振り返った。突き刺さる視線を意にも介さず、淡々と事実だけを告げる。
「だから、無意味だ」
「あ……」
その榛名の視線が、出したままだった薬のところでとまる。
「そうか。おまえも服用しているんだったな。同じものか……、と、悪い。立ち入ったことを聞いた」
「いえ、興味本位で尋ねられてるわけじゃないって、わかってるんで。あの、ちょっと触ってもいいですか」
断りを入れた榛名が、薬を手に取る。まじまじと見つめている様子が気になったのか、茅野もひょいとその手元を覗きこんでいる。
「どうかしたのか?」
「あ……、えっと、俺も軽いやつじゃないんですけど、これ、もっときつい薬なんじゃないかなって。前に一回病院で見せてもらったことがあるんです」
「病院で?」
「はい、その、今服用している薬が効かなくなった場合、強いものや違う種類に変えて様子を見ていくんですけど、これは最終手段だ、みたいな感じで聞いたような気がして……。あ、違うかもしれないですけど」
取ってつけた弁明が、事実なのだろうということを告げていた。ちらりとこちらを見た茅野が、深刻にならない調子で再び問いかける。
「ちなみに、それは服薬する量で効き目が変わったりするものなのか?」
「え?」
「いや、……あいつが馬鹿みたいに飲んでいたから、ちょっと気になってな」
「そうですか」
手にしていた薬を見つめてから、榛名が顔を上げた。どう伝えるのが最良なのか悩んでいるふうに、ゆっくりと話し始める。
「質問の答えになってないかもしれないですけど、前提として、俺は処方された以上の薬を飲んだことはないです。けど、それでも副作用はあります。頭痛、吐き気。そういったものを、俺はずっと抱えていました。たぶん、成瀬さんも」
「そうか」
「……成瀬さんは、だから俺に、『つがいをつくったらいい』って言ってくれたけど。それだけ、きついんです。でも、服用さえすれば、なんとかベータとして生きていくことができる。だから俺たちは飲むんです。でも」
「でも?」
「風邪薬を大量に飲んでも治らないですよね? 症状がマシになるわけでもないですよね。抑制剤もそれと一緒です。必要以上の量を飲んだところで、効果が変わるわけがない」
そこで、榛名は窺うように言葉を切った。
「そんなこと、成瀬さんがわかっていないはずがないと思います、けど」
「まぁ、なんだ。……効かないと言っていたな」
そう言ったくせに、後輩の顔が浮かなくなると気にかかったらしい。取り成すように話を変える。
「話がしたいと言っていたのに、聞いてばかりで悪かったな。なんだった?」
「俺だってことにしてくださいって言おうと思ってきたんです」
「俺だってって」
ろくでもない提案に、茅野がわずかに言葉を詰まらせた。
「気持ちはありがたいが、無理があるだろう、いろいろと。それに、そこまでの騒ぎにはならな――」
「でも! 俺が学校出るときには、すでに噂になってました。誰か、っていうのはまだだったけど、うちの寮生じゃないかって。あることないこと言われて探られるくらいなら、俺だってことにしておいたほうが絶対」
「あのな、榛名」
「俺はもうバレてるし、まだ発情期が安定してないんだってことにしたら、なんとでも……」
それが、今まで助けてもらったことの恩返しのつもりなのだろうか。必死に言い募る調子が馬鹿らしくなって、向原は口を挟んだ。
「本尾に見られてる」
はっとしたように、榛名が振り返った。突き刺さる視線を意にも介さず、淡々と事実だけを告げる。
「だから、無意味だ」
11
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる