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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド18 ①
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[18]
「あいつのあれは、嫉妬みたいなものなんだよ」
それが、本尾先輩との確執を聞いたときの幼馴染みの第一声だった。
「嫉妬?」
困ったような、けれどしかたないといった顔を見上げたまま、皓太はそう繰り返した。
「そう。だから、俺がなにやっても変わらないの。向原と本尾がどうにかしないことには」
「つまりそれって、どういうこと?」
わかろうとしたけれどわからなくて、問いかける。ふたつ上の幼馴染みは、平易な説明をしてくれることが多かったけれど、ごくたまにこういった抽象的な物言いをすることがあった。
伝わらなくてもいいと思っている事柄だったのかもしれない。
「向原さんと本尾先輩があんまり仲が良くないっていうのは、見てたらわかるけど……」
中等部に入ってまだ少しだが、それでもわかる程度には、あのふたりの仲は良くなさそうだった。
けれど、そこに成瀬が巻き込まれる必要はないのではないだろうか。敵の友達は敵なんて、そんな小学生のようなことを言う人ではないだろうし。そんなふうに、思考を巡らせる。
篠原や茅野と本尾がいがみ合っている場面を見た覚えがないことが、良い証拠のように思えた。
自分に絡んでくるときのように、遊び半分暇つぶし半分といった調子で声をかけることはあるようだけれど。それにしたって、成瀬とやり合っているときのようなきついまなざしを向けられることなんて――。
本格的に悩み始めた皓太の頭を、成瀬の手が一撫でする。昔から変わらない、優しい手。無言のまま見つめると、ふっと成瀬が表情をゆるめた。
「皓太には、まだちょっと難しいかな。いや、……そういうことでもないか。いいよ、わからないなら、わからないままで」
また子ども扱いをされたのだと思って、皓太は「わかるよ」と見栄を張った。その見栄を指摘することもなく、「そうか」と成瀬は笑って、けれど、それだけだった。
それ以上を彼は語らなかった。
今なら少しはわかる気がするけれど、当時は本当になにもわかっていなかった。
子どもだったのだと思う。成瀬に忠告されていたのに、榛名を気にかけてやれていなかった。自分が新しい環境に慣れることに精いっぱいで、今よりもさらに視野も狭かった。
それでも、この学園は平和だった。いつだったか茅野や成瀬が評していたような「平和の園」。自分たちが入学した当時の陵学園中等部は、彼らの手によってたしかに守られていた。
だから、あの場所は、アルファもオメガも関係のない、平等な楽園そのものだったのだ。
*
「幼馴染みなんだって? その、成瀬さんと」
珍しく話しかけてきたと思ったら、成瀬のことを知りたかったらしい。
動機はどうあれ、ツンツンとした態度を取られるよりはずっといい。なにせ、同じ寮室で過ごして二ヵ月近くが経つというのに、警戒心バリバリの雰囲気が薄らがないのだ。
せっかくのチャンスだと思い、皓太は人当たりのいい顔で頷いてみせた。
「あいつのあれは、嫉妬みたいなものなんだよ」
それが、本尾先輩との確執を聞いたときの幼馴染みの第一声だった。
「嫉妬?」
困ったような、けれどしかたないといった顔を見上げたまま、皓太はそう繰り返した。
「そう。だから、俺がなにやっても変わらないの。向原と本尾がどうにかしないことには」
「つまりそれって、どういうこと?」
わかろうとしたけれどわからなくて、問いかける。ふたつ上の幼馴染みは、平易な説明をしてくれることが多かったけれど、ごくたまにこういった抽象的な物言いをすることがあった。
伝わらなくてもいいと思っている事柄だったのかもしれない。
「向原さんと本尾先輩があんまり仲が良くないっていうのは、見てたらわかるけど……」
中等部に入ってまだ少しだが、それでもわかる程度には、あのふたりの仲は良くなさそうだった。
けれど、そこに成瀬が巻き込まれる必要はないのではないだろうか。敵の友達は敵なんて、そんな小学生のようなことを言う人ではないだろうし。そんなふうに、思考を巡らせる。
篠原や茅野と本尾がいがみ合っている場面を見た覚えがないことが、良い証拠のように思えた。
自分に絡んでくるときのように、遊び半分暇つぶし半分といった調子で声をかけることはあるようだけれど。それにしたって、成瀬とやり合っているときのようなきついまなざしを向けられることなんて――。
本格的に悩み始めた皓太の頭を、成瀬の手が一撫でする。昔から変わらない、優しい手。無言のまま見つめると、ふっと成瀬が表情をゆるめた。
「皓太には、まだちょっと難しいかな。いや、……そういうことでもないか。いいよ、わからないなら、わからないままで」
また子ども扱いをされたのだと思って、皓太は「わかるよ」と見栄を張った。その見栄を指摘することもなく、「そうか」と成瀬は笑って、けれど、それだけだった。
それ以上を彼は語らなかった。
今なら少しはわかる気がするけれど、当時は本当になにもわかっていなかった。
子どもだったのだと思う。成瀬に忠告されていたのに、榛名を気にかけてやれていなかった。自分が新しい環境に慣れることに精いっぱいで、今よりもさらに視野も狭かった。
それでも、この学園は平和だった。いつだったか茅野や成瀬が評していたような「平和の園」。自分たちが入学した当時の陵学園中等部は、彼らの手によってたしかに守られていた。
だから、あの場所は、アルファもオメガも関係のない、平等な楽園そのものだったのだ。
*
「幼馴染みなんだって? その、成瀬さんと」
珍しく話しかけてきたと思ったら、成瀬のことを知りたかったらしい。
動機はどうあれ、ツンツンとした態度を取られるよりはずっといい。なにせ、同じ寮室で過ごして二ヵ月近くが経つというのに、警戒心バリバリの雰囲気が薄らがないのだ。
せっかくのチャンスだと思い、皓太は人当たりのいい顔で頷いてみせた。
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