188 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンド14 ④
しおりを挟む
「それって、成瀬さんが許可したってこと?」
「そうだよ」
それも事実だったので、正直に頷く。
「あの人、なんていうのかな、そういう権力の乱用みたいなの、あんまり好きじゃないから。だから、思うところがあったとしても、完全にアウトじゃなければ許可すると思うよ」
とは言え、それなりに好き勝手に裁量していることも、皓太は承知している。だから同好会の件については、突き返したほうが大ごとになると踏んで許可したのだろうけれど。
「それで、急にその話を始めたのは、このあいだの帰りが遅かった日が原因だったりする?」
ずばり問いかけると、それまでへぇというふうだった榛名の表情が、気まずそうなものに変わった。
「なんでわかるんだよ」
渋々といった返事に、皓太は思わず苦笑をもらした。
丸くなったなぁと思う。それこそ本当に、この学園に入学したばかりだったころに比べれば、雲泥の差だ。あのころは、どう付き合っていけばいいのかと気苦労を重ねていたのだ。
そんなとっつきづらい気難しい同室者だったのが、この三年で随分と変わった。特に、高等部に入ってから、ぐっと。
「まぁ、わかるよ、そのくらいは」
榛名が影響を受けた大部分は成瀬からだったのだろうが、それでも丸三年同じ部屋で過ごしているのだ。そのくらいのことはわかる。
「ちょっとあのあと、榛名、変だったし」
「おまえ、本当、よく人見てるよな」
呆れ半分関心半分というふうに呟いてから、実は、と榛名は切り出した。
「クラスで、その話してるやつがいて」
「その話って、水城の同好会に参加したやつでもいたの?」
「べつに、俺だって誰にでも噛みついてるわけじゃないし」
「いや、そこに驚いたわけじゃ」
ないこともなかったのだが。余計なことを言わず怒りもせず、ただ話を聞いていたというのなら、なによりだとは思う。一緒にいただろう四谷もほっとしたのではないだろうか。
――その話ってなると、けっこうな確率でアンチ生徒会だっただろうし。
生徒会に在籍しているから、というだけでなく、皓太は、水城の同好会のことをよく話に聞いていた。
クラスメイトに同好会メンバーが多いからだ。だから、彼らがそこでなにをしているのかも、知っている。
「それで、どうしたの? 榛名のクラスで参加してるやついないと思ってたな」
「そう。そうなんだけど、だから一回のぞかせてもらったってやつの話に、みんなすげぇ食いついて」
「そうなんだ」
なるほどなぁ、と頷く。入りたくても入れない人間からすれば、物珍しいだろうから興味はあるだろう。その反応はべつにおかしなものではない。
おかしいのは、このご時世に堂々と入会条件をアルファに絞っている同好会のほうだ。
アルファとオメガの共存を考えることが活動の主体、という名目があるにせよ、ベータを排除する理由になっていないと皓太は思うし、なによりアルファ至上主義という雰囲気がにじんでいて、どうにも好きになれない。
けれど、ほかの生徒たちはそうは思っていないらしい。
この学園の唯一の――まぁ、唯一だとはもう誰も思っていないだろうが――オメガのお姫様に入会を認めてもらうことが、上級のアルファのステイタスといった空気ができあがっているのだ。
「うちのクラスはベータが多いからさ、みんな、なんだろ。憧れてる、みたいな。入れるやつはすごい、みたいな空気だったんだけど」
「うん」
「ハルちゃんはすごい、さすがだ、って。ハルちゃんに認められる男になりたいって。なんか、そればっかりでちょっと気持ち悪いっていうか」
変な宗教みたいだった、と榛名が言う。少し前に、自分も似たことを成瀬に言った記憶があるから、その気持ちはよくわかる。
いっさいの批判なしに賞賛され続ける偶像というのは、どうにも似非くさくて、現実味が湧かない。
天使のようだと評される笑顔は、何ヶ月経っても、皓太にとっては得体のしれないもののままだった。
「あれだけ信者みたいにアルファ集めてさ、水城、最終的にどうするつもりなんだろうなって」
反旗を翻すときの、その他大勢の駒のつもりだろう、との本音は呑み込んで、さぁ、と曖昧に首を傾げる。
少しの沈黙のあとで、榛名はぽつりと呟いた。
「そうだよ」
それも事実だったので、正直に頷く。
「あの人、なんていうのかな、そういう権力の乱用みたいなの、あんまり好きじゃないから。だから、思うところがあったとしても、完全にアウトじゃなければ許可すると思うよ」
とは言え、それなりに好き勝手に裁量していることも、皓太は承知している。だから同好会の件については、突き返したほうが大ごとになると踏んで許可したのだろうけれど。
「それで、急にその話を始めたのは、このあいだの帰りが遅かった日が原因だったりする?」
ずばり問いかけると、それまでへぇというふうだった榛名の表情が、気まずそうなものに変わった。
「なんでわかるんだよ」
渋々といった返事に、皓太は思わず苦笑をもらした。
丸くなったなぁと思う。それこそ本当に、この学園に入学したばかりだったころに比べれば、雲泥の差だ。あのころは、どう付き合っていけばいいのかと気苦労を重ねていたのだ。
そんなとっつきづらい気難しい同室者だったのが、この三年で随分と変わった。特に、高等部に入ってから、ぐっと。
「まぁ、わかるよ、そのくらいは」
榛名が影響を受けた大部分は成瀬からだったのだろうが、それでも丸三年同じ部屋で過ごしているのだ。そのくらいのことはわかる。
「ちょっとあのあと、榛名、変だったし」
「おまえ、本当、よく人見てるよな」
呆れ半分関心半分というふうに呟いてから、実は、と榛名は切り出した。
「クラスで、その話してるやつがいて」
「その話って、水城の同好会に参加したやつでもいたの?」
「べつに、俺だって誰にでも噛みついてるわけじゃないし」
「いや、そこに驚いたわけじゃ」
ないこともなかったのだが。余計なことを言わず怒りもせず、ただ話を聞いていたというのなら、なによりだとは思う。一緒にいただろう四谷もほっとしたのではないだろうか。
――その話ってなると、けっこうな確率でアンチ生徒会だっただろうし。
生徒会に在籍しているから、というだけでなく、皓太は、水城の同好会のことをよく話に聞いていた。
クラスメイトに同好会メンバーが多いからだ。だから、彼らがそこでなにをしているのかも、知っている。
「それで、どうしたの? 榛名のクラスで参加してるやついないと思ってたな」
「そう。そうなんだけど、だから一回のぞかせてもらったってやつの話に、みんなすげぇ食いついて」
「そうなんだ」
なるほどなぁ、と頷く。入りたくても入れない人間からすれば、物珍しいだろうから興味はあるだろう。その反応はべつにおかしなものではない。
おかしいのは、このご時世に堂々と入会条件をアルファに絞っている同好会のほうだ。
アルファとオメガの共存を考えることが活動の主体、という名目があるにせよ、ベータを排除する理由になっていないと皓太は思うし、なによりアルファ至上主義という雰囲気がにじんでいて、どうにも好きになれない。
けれど、ほかの生徒たちはそうは思っていないらしい。
この学園の唯一の――まぁ、唯一だとはもう誰も思っていないだろうが――オメガのお姫様に入会を認めてもらうことが、上級のアルファのステイタスといった空気ができあがっているのだ。
「うちのクラスはベータが多いからさ、みんな、なんだろ。憧れてる、みたいな。入れるやつはすごい、みたいな空気だったんだけど」
「うん」
「ハルちゃんはすごい、さすがだ、って。ハルちゃんに認められる男になりたいって。なんか、そればっかりでちょっと気持ち悪いっていうか」
変な宗教みたいだった、と榛名が言う。少し前に、自分も似たことを成瀬に言った記憶があるから、その気持ちはよくわかる。
いっさいの批判なしに賞賛され続ける偶像というのは、どうにも似非くさくて、現実味が湧かない。
天使のようだと評される笑顔は、何ヶ月経っても、皓太にとっては得体のしれないもののままだった。
「あれだけ信者みたいにアルファ集めてさ、水城、最終的にどうするつもりなんだろうなって」
反旗を翻すときの、その他大勢の駒のつもりだろう、との本音は呑み込んで、さぁ、と曖昧に首を傾げる。
少しの沈黙のあとで、榛名はぽつりと呟いた。
13
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる