パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
178 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドΦ ⑩

しおりを挟む
「いらないんだけど、べつに」

 嫌そうな声をものともせず、向原は続けた。半分くらいは、軽い嫌がらせだ。

「どれだけきれいごとを並べたところで、差別がある世界であることに変わりはない。にもかかわらず、ここは異常なまでに第二の性を排除して、アルファに無意味な抑圧を強いている。弱者にとっての楽園をつくってやっているつもりなのかは知らないが、偽物としか思えない」
「若葉の寮長が言ったことと一字一句違わないんだけど」

 聞いてたのかよ、と成瀬が苦笑する。まさか、とだけ向原も笑った。聞かなくても、わかるというだけだ。

「念のために言っておくけど、その言い分を全否定するつもりはないよ。ないけど、でも、やっぱり俺は気に食わないし、そういう世界なんだからこそ、今この場だけでも差別のない世界であってほしいなって」

 こうしていられるのは、今だけだから、という調子は、昔聞いた言い分と同じものだった。
 まだその気はあったらしい。へぇ、とおざなりに相槌を打つと、篠原が口を挟んできた。

「聞き覚えがあると思ったら、あれだろ。それ、風紀を中心にした会長様の反対勢力」
「正解」
「まぁ、最近ちょいちょい耳にするからな」

 そう苦笑してから、「なぁ」と成瀬に呼びかけている。いいタイミングだった。

「なに?」
「俺はあんまり好きじゃない、とか悠長なことばっかり言ってても、面倒ごとは増えるだけだぞ?」
「まぁ、それはそうかもな」
「叩く気があるなら、早いほうがいいんじゃねぇの」

 その提案に、短い沈黙が流れる。けれど、断らないだろうことは向原にはわかっていた。叩くなら、今しかない。ここを逃せばバランスが変わる。その気があるのなら、動くしかないタイミングだった。
 だから、口を出したのだ。

「なら、叩くか」

 重大な決定だと思わせない、しごく軽い雰囲気で成瀬は頷いた。

「ここは、俺の学園だからな」

 どこまで本気なのかわからない調子で笑った顔は、見慣れた、いかにもアルファといったものだった。
 もう、ずっと、その顔を向原は見ていた。自分はアルファだと主張するようなそれ。
 そのことを馬鹿馬鹿しいと思っていたわけではないし、オメガのくせにと思っていたわけでもない。
 ただ、ふと思ったのはそのときだった。あるいは、それまでの――特にこの春からの諸々が積み重なっていたのかもしれない。
 その顔を崩さないことには、きっと、自分たちの関係は変わりようがないのだろうな、と。そんなことを。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました

猫足
BL
「浮気したら殺すから!」 「できるわけがないだろ……」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。 「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」 「スバル、お前なにいってんの…?」 美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。 ※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

元生徒会長さんの日常

あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。 転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。 そんな悪評高い元会長さまのお話。 長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり) なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ… 誹謗中傷はおやめくださいね(泣) 2021.3.3

処理中です...