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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドΦ ⑩
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「いらないんだけど、べつに」
嫌そうな声をものともせず、向原は続けた。半分くらいは、軽い嫌がらせだ。
「どれだけきれいごとを並べたところで、差別がある世界であることに変わりはない。にもかかわらず、ここは異常なまでに第二の性を排除して、アルファに無意味な抑圧を強いている。弱者にとっての楽園をつくってやっているつもりなのかは知らないが、偽物としか思えない」
「若葉の寮長が言ったことと一字一句違わないんだけど」
聞いてたのかよ、と成瀬が苦笑する。まさか、とだけ向原も笑った。聞かなくても、わかるというだけだ。
「念のために言っておくけど、その言い分を全否定するつもりはないよ。ないけど、でも、やっぱり俺は気に食わないし、そういう世界なんだからこそ、今この場だけでも差別のない世界であってほしいなって」
こうしていられるのは、今だけだから、という調子は、昔聞いた言い分と同じものだった。
まだその気はあったらしい。へぇ、とおざなりに相槌を打つと、篠原が口を挟んできた。
「聞き覚えがあると思ったら、あれだろ。それ、風紀を中心にした会長様の反対勢力」
「正解」
「まぁ、最近ちょいちょい耳にするからな」
そう苦笑してから、「なぁ」と成瀬に呼びかけている。いいタイミングだった。
「なに?」
「俺はあんまり好きじゃない、とか悠長なことばっかり言ってても、面倒ごとは増えるだけだぞ?」
「まぁ、それはそうかもな」
「叩く気があるなら、早いほうがいいんじゃねぇの」
その提案に、短い沈黙が流れる。けれど、断らないだろうことは向原にはわかっていた。叩くなら、今しかない。ここを逃せばバランスが変わる。その気があるのなら、動くしかないタイミングだった。
だから、口を出したのだ。
「なら、叩くか」
重大な決定だと思わせない、しごく軽い雰囲気で成瀬は頷いた。
「ここは、俺の学園だからな」
どこまで本気なのかわからない調子で笑った顔は、見慣れた、いかにもアルファといったものだった。
もう、ずっと、その顔を向原は見ていた。自分はアルファだと主張するようなそれ。
そのことを馬鹿馬鹿しいと思っていたわけではないし、オメガのくせにと思っていたわけでもない。
ただ、ふと思ったのはそのときだった。あるいは、それまでの――特にこの春からの諸々が積み重なっていたのかもしれない。
その顔を崩さないことには、きっと、自分たちの関係は変わりようがないのだろうな、と。そんなことを。
嫌そうな声をものともせず、向原は続けた。半分くらいは、軽い嫌がらせだ。
「どれだけきれいごとを並べたところで、差別がある世界であることに変わりはない。にもかかわらず、ここは異常なまでに第二の性を排除して、アルファに無意味な抑圧を強いている。弱者にとっての楽園をつくってやっているつもりなのかは知らないが、偽物としか思えない」
「若葉の寮長が言ったことと一字一句違わないんだけど」
聞いてたのかよ、と成瀬が苦笑する。まさか、とだけ向原も笑った。聞かなくても、わかるというだけだ。
「念のために言っておくけど、その言い分を全否定するつもりはないよ。ないけど、でも、やっぱり俺は気に食わないし、そういう世界なんだからこそ、今この場だけでも差別のない世界であってほしいなって」
こうしていられるのは、今だけだから、という調子は、昔聞いた言い分と同じものだった。
まだその気はあったらしい。へぇ、とおざなりに相槌を打つと、篠原が口を挟んできた。
「聞き覚えがあると思ったら、あれだろ。それ、風紀を中心にした会長様の反対勢力」
「正解」
「まぁ、最近ちょいちょい耳にするからな」
そう苦笑してから、「なぁ」と成瀬に呼びかけている。いいタイミングだった。
「なに?」
「俺はあんまり好きじゃない、とか悠長なことばっかり言ってても、面倒ごとは増えるだけだぞ?」
「まぁ、それはそうかもな」
「叩く気があるなら、早いほうがいいんじゃねぇの」
その提案に、短い沈黙が流れる。けれど、断らないだろうことは向原にはわかっていた。叩くなら、今しかない。ここを逃せばバランスが変わる。その気があるのなら、動くしかないタイミングだった。
だから、口を出したのだ。
「なら、叩くか」
重大な決定だと思わせない、しごく軽い雰囲気で成瀬は頷いた。
「ここは、俺の学園だからな」
どこまで本気なのかわからない調子で笑った顔は、見慣れた、いかにもアルファといったものだった。
もう、ずっと、その顔を向原は見ていた。自分はアルファだと主張するようなそれ。
そのことを馬鹿馬鹿しいと思っていたわけではないし、オメガのくせにと思っていたわけでもない。
ただ、ふと思ったのはそのときだった。あるいは、それまでの――特にこの春からの諸々が積み重なっていたのかもしれない。
その顔を崩さないことには、きっと、自分たちの関係は変わりようがないのだろうな、と。そんなことを。
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