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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅩ ④
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「なんていうかさ、寮の空気も悪いときあるから。っつっても、教室もあれなときもあるから、どっちもどっちだけど」
「まぁ、そうかもね」
と言うに皓太は留めた。気に入っていたはずの櫻寮のことをそう評せざるを得ないのは、本人が一番不服だろうと思ったからだ。
成瀬がいる、ということもひとつだろうが、榛名は、なんだかんだで寮長である茅野のことを慕っている。
溜息まじりに鞄を片づけている横顔は、楽しい話で盛り上がって帰寮が遅れたようには見えなかったけれど。
「でも、珍しいね。そんなに盛り上がってたんだ」
「あぁ、……いや、……まぁ、そうだな」
「そう」
歯切れの悪い返事を取りなすように、苦笑する。この調子だと、楽しくない噂話をまた仕入れてきたのかもしれない。
今のこの学園には、おもしろおかしく様々な噂が流れている。榛名が気に病むのは、自分のものではなく、あの人に関連したものなのだろうが。多少でも慰めになるなら、と皓太は茅野の話を持ち出した。
「そういえば、あんまり気にするなって言ってたよ、茅野さん」
自分が大丈夫と言うより、榛名が信頼する上級生が太鼓判を押していたと伝えたほうが安心すると思ったから、伝えたのだが。なぜか、取り出した教科書をぱらぱらと捲っていた榛名の手が止まった。
「それって、成瀬さんのことだよな」
「そうだけど。――というか、だから、なにもそんなピリピリしなくても。どんな噂聞いたのか知らないけど、いちいち気にすんなって。茅野さんもそう言ってるんだし、そもそもあの人、誰かになにか言われたくらいでへこたれないから」
その声が、あまりにも暗いというか、重苦しいものだったから、ついまた苦笑いになってしまった。
気休めになればと思っただけだったのに、変な地雷を踏んでしまったような気がする。
――榛名がそこまで気にすることでは、本当にないと思うんだけどな。
むしろ、自分のことを気にしろと言いたいくらいだ。
「べつに、……噂を聞いたからってわけじゃないけど」
「なら、余計気にすることじゃないって」
好転しそうになかったので、そう言い切って話を断ち切る。言い合いをしたいわけではない。教科書を持ったままだったことに今気がついたというような顔で、榛名が机の上に置いた。けれど、その手はそれ以上動かなかった。片づけを再開するでもなく、ぎゅっと机の上で拳をつくっている。緊張したときに、わかりやすく榛名がする癖だ。
「榛名?」
「あのさ」
重なった呼びかけに、「なに?」と皓太は先を譲った。タイミングを間違うと、聞き出すことに苦労することも四年目になる付き合いでわかっていたから。
「あぁ、いや、……あの」
言い淀んでいたものの、覚悟を決めたように榛名が顔を上げる。続いたのは、予想外の問いかけだった。
「おまえさ、成瀬さんのこと、どう思ってんの」
「どうって……」
真意をつかみ損ねて、首を傾げる。
「そのままの意味。おまえには、どう見えてんの?」
補足されても、やはりよくはわからなかった。どう見えているもなにも、自分にとっては、昔からあのとおりの人で、それ以外はないのだけれど。
答えないことには納得しそうにはない雰囲気に、しかたなく皓太はそのままを言葉にした。
「どう見えてるって言われても、まぁ、関係性っていう意味なら幼馴染みって答えるけど」
「……」
「え? そういうことじゃないって?」
不満そうな視線に晒されて、言葉を選び直す。なら、なんだ。内面的な意味の話か。
「あー……、うん、そうだな。まぁ、だから、兄貴みたいなものでもあるし、頼りになる人だとも思うよ。面倒な人だとも思うけど」
最後にぽろりと本音が混ざってしまって、「あ」と思ったのだが、そういう意味ではなく榛名の表情は不満そうなもののままだった。
――なんか、面倒になってきたな。
自分の心持ちの問題なのだろうが、茅野に話して気が楽になるのとは、まったく違う。
「ほかの誰に聞いても、似たような話しか出てこないと思うけど? 昔から、外面はあのとおり完璧な人だし。いろいろ噂はあるだろうけど、しょせん噂なんだから」
そういえば、ついこのあいだも突拍子のない噂を聞いたな、と思い浮かべながら、おざなりに続ける。
目立つ人だからしかたがない部分もあるのだろうが、大変だな、とは素直に思った。俺も陰でなにを言われているのかわかったもんじゃないな、とも。
「まぁ、アルファじゃなかったんだっていうのが本当だったら、さすがに驚くけど」
「まぁ、そうかもね」
と言うに皓太は留めた。気に入っていたはずの櫻寮のことをそう評せざるを得ないのは、本人が一番不服だろうと思ったからだ。
成瀬がいる、ということもひとつだろうが、榛名は、なんだかんだで寮長である茅野のことを慕っている。
溜息まじりに鞄を片づけている横顔は、楽しい話で盛り上がって帰寮が遅れたようには見えなかったけれど。
「でも、珍しいね。そんなに盛り上がってたんだ」
「あぁ、……いや、……まぁ、そうだな」
「そう」
歯切れの悪い返事を取りなすように、苦笑する。この調子だと、楽しくない噂話をまた仕入れてきたのかもしれない。
今のこの学園には、おもしろおかしく様々な噂が流れている。榛名が気に病むのは、自分のものではなく、あの人に関連したものなのだろうが。多少でも慰めになるなら、と皓太は茅野の話を持ち出した。
「そういえば、あんまり気にするなって言ってたよ、茅野さん」
自分が大丈夫と言うより、榛名が信頼する上級生が太鼓判を押していたと伝えたほうが安心すると思ったから、伝えたのだが。なぜか、取り出した教科書をぱらぱらと捲っていた榛名の手が止まった。
「それって、成瀬さんのことだよな」
「そうだけど。――というか、だから、なにもそんなピリピリしなくても。どんな噂聞いたのか知らないけど、いちいち気にすんなって。茅野さんもそう言ってるんだし、そもそもあの人、誰かになにか言われたくらいでへこたれないから」
その声が、あまりにも暗いというか、重苦しいものだったから、ついまた苦笑いになってしまった。
気休めになればと思っただけだったのに、変な地雷を踏んでしまったような気がする。
――榛名がそこまで気にすることでは、本当にないと思うんだけどな。
むしろ、自分のことを気にしろと言いたいくらいだ。
「べつに、……噂を聞いたからってわけじゃないけど」
「なら、余計気にすることじゃないって」
好転しそうになかったので、そう言い切って話を断ち切る。言い合いをしたいわけではない。教科書を持ったままだったことに今気がついたというような顔で、榛名が机の上に置いた。けれど、その手はそれ以上動かなかった。片づけを再開するでもなく、ぎゅっと机の上で拳をつくっている。緊張したときに、わかりやすく榛名がする癖だ。
「榛名?」
「あのさ」
重なった呼びかけに、「なに?」と皓太は先を譲った。タイミングを間違うと、聞き出すことに苦労することも四年目になる付き合いでわかっていたから。
「あぁ、いや、……あの」
言い淀んでいたものの、覚悟を決めたように榛名が顔を上げる。続いたのは、予想外の問いかけだった。
「おまえさ、成瀬さんのこと、どう思ってんの」
「どうって……」
真意をつかみ損ねて、首を傾げる。
「そのままの意味。おまえには、どう見えてんの?」
補足されても、やはりよくはわからなかった。どう見えているもなにも、自分にとっては、昔からあのとおりの人で、それ以外はないのだけれど。
答えないことには納得しそうにはない雰囲気に、しかたなく皓太はそのままを言葉にした。
「どう見えてるって言われても、まぁ、関係性っていう意味なら幼馴染みって答えるけど」
「……」
「え? そういうことじゃないって?」
不満そうな視線に晒されて、言葉を選び直す。なら、なんだ。内面的な意味の話か。
「あー……、うん、そうだな。まぁ、だから、兄貴みたいなものでもあるし、頼りになる人だとも思うよ。面倒な人だとも思うけど」
最後にぽろりと本音が混ざってしまって、「あ」と思ったのだが、そういう意味ではなく榛名の表情は不満そうなもののままだった。
――なんか、面倒になってきたな。
自分の心持ちの問題なのだろうが、茅野に話して気が楽になるのとは、まったく違う。
「ほかの誰に聞いても、似たような話しか出てこないと思うけど? 昔から、外面はあのとおり完璧な人だし。いろいろ噂はあるだろうけど、しょせん噂なんだから」
そういえば、ついこのあいだも突拍子のない噂を聞いたな、と思い浮かべながら、おざなりに続ける。
目立つ人だからしかたがない部分もあるのだろうが、大変だな、とは素直に思った。俺も陰でなにを言われているのかわかったもんじゃないな、とも。
「まぁ、アルファじゃなかったんだっていうのが本当だったら、さすがに驚くけど」
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