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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅦ ③
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「あいかわらずだな」
呆れ半分の声になってしまった。似たようなことばかりを言う、と取ったか、あるいは、物好きと評されていると取ったか。どちらにしても、皓太は気にしたそぶりは見せなかった。
変わらない調子のまま続ける。
「そうですね。でも、まぁ、なんだかんだで、昔から向原さんにも遊んでもらってるからなぁ、俺」
随分と懐かしい話だった。遊んでもらっていた、という表現も含めて。もう三年以上前のことだ。それなのに、よく覚えてますよ、と皓太は笑った。
「本当に、けっこう。はじめて成瀬さんに連れて行ってもらったときのこととか。あの人にもこういう……なんていうのかな、対等な友達がいるんだって思ったら安心したけど、ちょっと寂しかったな、とか」
あの人、いつもひとりで一番上に立ってる人だったから、と言ってから、でも、と言い直す。どこか迷うようにもしながら。
「いや、……だから、かな。信用してるんです、俺。繰り返しになりましたけど。向原さんなら、なにを選んだとしても、最終的には成瀬さんを傷つけるようなことはしないって」
本当にそう考えているのなら、情に訴えるようなことをわざわざ言う必要はないだろう。そんなふうに思いながらも、「そうか」とだけ応じる。皓太もそれ以上は言わなかった。
肯定でも否定でもない返事を選んだが、皓太の言ったことは、案外と鋭いところを突いていた。昔から知っていると言うだけはあるなと思うくらいに。
本当に、随分と昔の話だ。この後輩が、もっと本当に子どもだったころ。たしかに自分たちはよく学外で顔を合わせていた。
陵学園で過ごす日々の中で、長期休暇は仲間内の別荘地で過ごすことが増えていたからだ。
その集まりに、成瀬がときおり年下の幼馴染みを連れてきていて、だから、自分だけでなく篠原も茅野も、この後輩のことは昔から知っているのだ。そう考えると、長い付き合いと評しても間違ってはいないのだろうと思う。
高等部に進学したころからは、なにくれと理由をつけて寮に居残るようになったから、自分たちふたりは集まりに参加する回数は減っていたけれど。
そうなってからも、成瀬は幼馴染みにはよく連絡を取っていた。長期休暇に集まるようになった理由の一端は、この男が実家に戻るのを億劫がるそぶりを見せていたことだったのだが。家族とは関わりたくなくても、幼馴染みとは関わっていたいらしかった。
一度それとなく聞いてみたときは、どこか困ったふうに笑っていた。妹のことも気にかけてくれているから、甘えてしまっているのだ、と。
その答えを聞いたとき、意外だと思った。
漠然と思っていたのだ、この男は、誰も懐に入れやしないのだろう、と。そうでなかったことは、その当時の向原には驚きだった。
その当時、から、もう少し前。気の置ける友人たちと集まって長期休暇を過ごしていたころ。あのころは、世界はまろやかな柔らかさに満ちていた。
今のこの学園を覆っている歪さは、まだそこまで目立ってはいなくて、だから平和な雰囲気があった。それが仮初だったとしても、誰も仮初だとは気がついていない、というような。
そんなのどかさが、たしかにあった。
呆れ半分の声になってしまった。似たようなことばかりを言う、と取ったか、あるいは、物好きと評されていると取ったか。どちらにしても、皓太は気にしたそぶりは見せなかった。
変わらない調子のまま続ける。
「そうですね。でも、まぁ、なんだかんだで、昔から向原さんにも遊んでもらってるからなぁ、俺」
随分と懐かしい話だった。遊んでもらっていた、という表現も含めて。もう三年以上前のことだ。それなのに、よく覚えてますよ、と皓太は笑った。
「本当に、けっこう。はじめて成瀬さんに連れて行ってもらったときのこととか。あの人にもこういう……なんていうのかな、対等な友達がいるんだって思ったら安心したけど、ちょっと寂しかったな、とか」
あの人、いつもひとりで一番上に立ってる人だったから、と言ってから、でも、と言い直す。どこか迷うようにもしながら。
「いや、……だから、かな。信用してるんです、俺。繰り返しになりましたけど。向原さんなら、なにを選んだとしても、最終的には成瀬さんを傷つけるようなことはしないって」
本当にそう考えているのなら、情に訴えるようなことをわざわざ言う必要はないだろう。そんなふうに思いながらも、「そうか」とだけ応じる。皓太もそれ以上は言わなかった。
肯定でも否定でもない返事を選んだが、皓太の言ったことは、案外と鋭いところを突いていた。昔から知っていると言うだけはあるなと思うくらいに。
本当に、随分と昔の話だ。この後輩が、もっと本当に子どもだったころ。たしかに自分たちはよく学外で顔を合わせていた。
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その集まりに、成瀬がときおり年下の幼馴染みを連れてきていて、だから、自分だけでなく篠原も茅野も、この後輩のことは昔から知っているのだ。そう考えると、長い付き合いと評しても間違ってはいないのだろうと思う。
高等部に進学したころからは、なにくれと理由をつけて寮に居残るようになったから、自分たちふたりは集まりに参加する回数は減っていたけれど。
そうなってからも、成瀬は幼馴染みにはよく連絡を取っていた。長期休暇に集まるようになった理由の一端は、この男が実家に戻るのを億劫がるそぶりを見せていたことだったのだが。家族とは関わりたくなくても、幼馴染みとは関わっていたいらしかった。
一度それとなく聞いてみたときは、どこか困ったふうに笑っていた。妹のことも気にかけてくれているから、甘えてしまっているのだ、と。
その答えを聞いたとき、意外だと思った。
漠然と思っていたのだ、この男は、誰も懐に入れやしないのだろう、と。そうでなかったことは、その当時の向原には驚きだった。
その当時、から、もう少し前。気の置ける友人たちと集まって長期休暇を過ごしていたころ。あのころは、世界はまろやかな柔らかさに満ちていた。
今のこの学園を覆っている歪さは、まだそこまで目立ってはいなくて、だから平和な雰囲気があった。それが仮初だったとしても、誰も仮初だとは気がついていない、というような。
そんなのどかさが、たしかにあった。
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