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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ ①
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[4]
「榛名」
昼休みを告げる鐘が鳴ってすぐに声をかけてくれたのは、四谷だった。いつからか、四谷は一緒に昼食を取るメンバーに行人を入れてくれていて、それでもなかなか自分から輪に入れない行人を、率先して呼んでくれることも多かった。
だから、声をかけられるシチュエーション自体は、そう珍しいことではない。それなのに、どういう顔を向けたらいいのかわからなくなってしまった。今朝の、傷つきを隠して高藤に向かって笑った表情が頭に残っていたからだ。
「岡がさ、お昼適当に買ってきてくれるって。だから俺とここで待ってよ。嫌でしょ、外出るの」
「あ、でも」
「希望あるなら聞くけど」
「いや、……えっと」
そういうことではなくて、と言い募ろうとしたのを遮るように、四谷がにことほほえんだ。行人とは違って、いつもどおりといったふうな、それで。
「えっと、なに? もしかして、高藤が来る予定でもあった?」
からかうようではあったものの、驚くほど毒気はなかった。けれど、これなら昔のように嫌味のひとつでも言われたほうが、気が楽だったかもしれない。
そんなことを思いながらも、行人は観念して好意に甘えることにした。四谷の言うとおりで、好き好んで外に出たくはなかったのだ。
頷くと、四谷が「じゃ、お願い」とうしろにいたクラスメイトの岡に声をかける。同じ櫻寮の寮生でもある岡は、昔から四谷とつるんでいるひとりだ。中等部のころの自分であれば「四谷の取り巻き」と称しただろうけれど、高等部に入ってからの数ヶ月で、気の良い同級生だったのだと知った。
取り巻き、ではなく、四谷の友人だったのだ、とも。
「榛名も俺と同じのでいいみたいだし。よろしく」
「なんか、……その、悪い」
「たまにはいいでしょ、教室で食べるのも」
そう言って、四谷が前の席を引いた。出て行った岡を見送ってから、「そんなことよりも」と囁く。
「そういう顔されるほうが迷惑なんだけど、俺」
はっとして視線を向けると、しかたなさそうにほほえまれてしまった。膝の上でこぶしを握りこんだまま、小さく頭を下げる。
「ごめん」
「だから、いいってば。というか、まぁ、わかってたことだし」
「わかってたって……」
「だって、高藤はなんだかんだ言っても、昔から榛名に一番優しかったもん。勝てるわけないって、どっかでわかってたし」
だから意地悪しちゃってたんだよなぁ、と四谷が苦笑まじりに呟く。そうして言い聞かせるように「わかってたんだよ」とも。
「それに、榛名のこと嫌いなわけでもないし。だからいいの」
「……うん」
もう一度ごめんとはさすがに言えなかった。自分たちの関係が「本当のもの」だったら、ここまでの罪悪感は抱かなかったかもしれない。
痛みを呑み込んで気遣ってくれている四谷のことも、俺は騙している。
――でも、それにしたって、四谷だけじゃないんだよな。
同室者が人気があることは、知っていた。同級生や、後輩や、先輩。いろんな人に告白されていたことも、知っている。高藤はなにも言わなかったが、噂に疎い行人の耳に入ってくるくらい、有名なことだった。
高藤はモテるし、一目置かれている。けれど、アルファにしては珍しく、男を恋愛対象とはしていない。ずっと、そういうスタンスだった。なのに、自分とこんなことになってしまった。
そのことに対する申し訳なさは、やはり行人は拭えないでいる。
「榛名」
昼休みを告げる鐘が鳴ってすぐに声をかけてくれたのは、四谷だった。いつからか、四谷は一緒に昼食を取るメンバーに行人を入れてくれていて、それでもなかなか自分から輪に入れない行人を、率先して呼んでくれることも多かった。
だから、声をかけられるシチュエーション自体は、そう珍しいことではない。それなのに、どういう顔を向けたらいいのかわからなくなってしまった。今朝の、傷つきを隠して高藤に向かって笑った表情が頭に残っていたからだ。
「岡がさ、お昼適当に買ってきてくれるって。だから俺とここで待ってよ。嫌でしょ、外出るの」
「あ、でも」
「希望あるなら聞くけど」
「いや、……えっと」
そういうことではなくて、と言い募ろうとしたのを遮るように、四谷がにことほほえんだ。行人とは違って、いつもどおりといったふうな、それで。
「えっと、なに? もしかして、高藤が来る予定でもあった?」
からかうようではあったものの、驚くほど毒気はなかった。けれど、これなら昔のように嫌味のひとつでも言われたほうが、気が楽だったかもしれない。
そんなことを思いながらも、行人は観念して好意に甘えることにした。四谷の言うとおりで、好き好んで外に出たくはなかったのだ。
頷くと、四谷が「じゃ、お願い」とうしろにいたクラスメイトの岡に声をかける。同じ櫻寮の寮生でもある岡は、昔から四谷とつるんでいるひとりだ。中等部のころの自分であれば「四谷の取り巻き」と称しただろうけれど、高等部に入ってからの数ヶ月で、気の良い同級生だったのだと知った。
取り巻き、ではなく、四谷の友人だったのだ、とも。
「榛名も俺と同じのでいいみたいだし。よろしく」
「なんか、……その、悪い」
「たまにはいいでしょ、教室で食べるのも」
そう言って、四谷が前の席を引いた。出て行った岡を見送ってから、「そんなことよりも」と囁く。
「そういう顔されるほうが迷惑なんだけど、俺」
はっとして視線を向けると、しかたなさそうにほほえまれてしまった。膝の上でこぶしを握りこんだまま、小さく頭を下げる。
「ごめん」
「だから、いいってば。というか、まぁ、わかってたことだし」
「わかってたって……」
「だって、高藤はなんだかんだ言っても、昔から榛名に一番優しかったもん。勝てるわけないって、どっかでわかってたし」
だから意地悪しちゃってたんだよなぁ、と四谷が苦笑まじりに呟く。そうして言い聞かせるように「わかってたんだよ」とも。
「それに、榛名のこと嫌いなわけでもないし。だからいいの」
「……うん」
もう一度ごめんとはさすがに言えなかった。自分たちの関係が「本当のもの」だったら、ここまでの罪悪感は抱かなかったかもしれない。
痛みを呑み込んで気遣ってくれている四谷のことも、俺は騙している。
――でも、それにしたって、四谷だけじゃないんだよな。
同室者が人気があることは、知っていた。同級生や、後輩や、先輩。いろんな人に告白されていたことも、知っている。高藤はなにも言わなかったが、噂に疎い行人の耳に入ってくるくらい、有名なことだった。
高藤はモテるし、一目置かれている。けれど、アルファにしては珍しく、男を恋愛対象とはしていない。ずっと、そういうスタンスだった。なのに、自分とこんなことになってしまった。
そのことに対する申し訳なさは、やはり行人は拭えないでいる。
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