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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド0 ③
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「そうか」
じっと行人を見つめていた柏木が、静かに頷いた。
「ところで、この学園にはいくつかしきたりがあるんだが、寮生委員会のなかにもいくつか決まりがある。知っているか?」
「え……っと、俺みたいなタイプと、高藤みたいなアルファが同室になること、ですか」
「そうだな。寮室の決め方の鉄則のひとつだ。線の細い生徒は、みなから一目置かれているアルファと組み合わせる。まぁ、悪く言えば、アルファにお守りを押し付けているわけだが」
「そう、ですね」
「そうだ。それで、つまりきみは、ある意味で高藤という存在に庇護され続けていたわけだ」
そのとおりだとわかっていても、ずっと認めることができなかったこと。たぶん、そんな表情になっていたのだろう。柏木が宥めるようにそっとほほえんだ。
「不本意であることはわかるが、そういうふうにできているんだ、この学園は。……まぁ、引いていえば、この世界も、か」
「……世界」
「アルファに守られることで得られる平穏というのもある、ということだ。ひとり部屋に移るか、いままでどおりふたり部屋で過ごすか」
今までどおりはまかり通らないと言ったばかりじゃないか。それが選択肢かよ。飛び出しそうになった文句を、行人は呑み込んだ。
ぎゅっと拳を握りしめたまま、笑う。
「なんだか、誘導されているような気がするんですが」
ひとり部屋よりも、今までどおりのほうが「安全」だと彼らは判断したのだろう。相手が高藤だから。
「今すぐつがいになれとは誰も言わない。そもそも、すぐに決めれるようなものでもないだろうしな。これからの人生を決める大切な選択だ」
そうだ。一度結んだつがいの契約は簡単に解消することはできない、一生のものだ。そんなものを、自分の身を守るという理由だけで結べるはずがない。
それなのに、柏木は言葉を緩めなかった。
「けれど、この学園にいるあいだだけ。きみ自身の身を守り、そうして周囲に余計な混乱を与えないために、パートナーをつくるという選択肢もある」
「でも、それは……」
「それが、本物でも偽物でも」
その言葉に、行人ははっと息を呑んだ。
「高藤は、見せかけだけの関係でもいいと言っている」
聞きたくないと思っていた続きが、寸分違わず脳に届いた。見せかけだけの関係。それに、あいつになんのメリットがある。なんの……。
「そうなれば、今までどおり、ふたりで一緒だ」
今までどおりなんて、あるはずがない。それなのに、なんでそんなことを言うんだ。
「馬鹿じゃないですか、あいつ」
きっと声は震えていた。
「大事なんだろう。どういう意味かは俺が判じることじゃないが、きみのことが」
大事、か。失笑しそうになって、行人はうつむいた。わかっている。そういう意味で、あの男は誠実で優しい。
――おまえに、わかるわけがない。
どれだけ感情的に詰っても、高藤は最後の一線は越えなかった。いつも、そうだ。アルファのくせに、人のことばかり考えているような、お人好し。成瀬に言われなくても、高藤が「いいやつ」だということはわかっている。知っている。
でも、だからと言って、なんの益もない提案を、おまえが受け入れる必要はないはずだろう。
本当に、どれだけお人好しなんだ。
けれど、一番ずるいのは、そうわかっていながら断るという選択肢を持つことのできない自分自身だ。
握り込みすぎて白くなった拳を見つめたまま、行人はゆっくりと頷いた。
じっと行人を見つめていた柏木が、静かに頷いた。
「ところで、この学園にはいくつかしきたりがあるんだが、寮生委員会のなかにもいくつか決まりがある。知っているか?」
「え……っと、俺みたいなタイプと、高藤みたいなアルファが同室になること、ですか」
「そうだな。寮室の決め方の鉄則のひとつだ。線の細い生徒は、みなから一目置かれているアルファと組み合わせる。まぁ、悪く言えば、アルファにお守りを押し付けているわけだが」
「そう、ですね」
「そうだ。それで、つまりきみは、ある意味で高藤という存在に庇護され続けていたわけだ」
そのとおりだとわかっていても、ずっと認めることができなかったこと。たぶん、そんな表情になっていたのだろう。柏木が宥めるようにそっとほほえんだ。
「不本意であることはわかるが、そういうふうにできているんだ、この学園は。……まぁ、引いていえば、この世界も、か」
「……世界」
「アルファに守られることで得られる平穏というのもある、ということだ。ひとり部屋に移るか、いままでどおりふたり部屋で過ごすか」
今までどおりはまかり通らないと言ったばかりじゃないか。それが選択肢かよ。飛び出しそうになった文句を、行人は呑み込んだ。
ぎゅっと拳を握りしめたまま、笑う。
「なんだか、誘導されているような気がするんですが」
ひとり部屋よりも、今までどおりのほうが「安全」だと彼らは判断したのだろう。相手が高藤だから。
「今すぐつがいになれとは誰も言わない。そもそも、すぐに決めれるようなものでもないだろうしな。これからの人生を決める大切な選択だ」
そうだ。一度結んだつがいの契約は簡単に解消することはできない、一生のものだ。そんなものを、自分の身を守るという理由だけで結べるはずがない。
それなのに、柏木は言葉を緩めなかった。
「けれど、この学園にいるあいだだけ。きみ自身の身を守り、そうして周囲に余計な混乱を与えないために、パートナーをつくるという選択肢もある」
「でも、それは……」
「それが、本物でも偽物でも」
その言葉に、行人ははっと息を呑んだ。
「高藤は、見せかけだけの関係でもいいと言っている」
聞きたくないと思っていた続きが、寸分違わず脳に届いた。見せかけだけの関係。それに、あいつになんのメリットがある。なんの……。
「そうなれば、今までどおり、ふたりで一緒だ」
今までどおりなんて、あるはずがない。それなのに、なんでそんなことを言うんだ。
「馬鹿じゃないですか、あいつ」
きっと声は震えていた。
「大事なんだろう。どういう意味かは俺が判じることじゃないが、きみのことが」
大事、か。失笑しそうになって、行人はうつむいた。わかっている。そういう意味で、あの男は誠実で優しい。
――おまえに、わかるわけがない。
どれだけ感情的に詰っても、高藤は最後の一線は越えなかった。いつも、そうだ。アルファのくせに、人のことばかり考えているような、お人好し。成瀬に言われなくても、高藤が「いいやつ」だということはわかっている。知っている。
でも、だからと言って、なんの益もない提案を、おまえが受け入れる必要はないはずだろう。
本当に、どれだけお人好しなんだ。
けれど、一番ずるいのは、そうわかっていながら断るという選択肢を持つことのできない自分自身だ。
握り込みすぎて白くなった拳を見つめたまま、行人はゆっくりと頷いた。
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