パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
91 / 484
第二部

パーフェクト・ワールド・レインⅥ ①

しおりを挟む
[6]


「なんだ、この騒ぎ」

 生徒会室に籠もっていてなお届いたざわめきに、篠原が窓に手を伸ばそうとする。その指先が鍵にかかったのを見とめてから、向原は口を開いた。

「開けないほうがいいぞ」
「え? なんでだよ」
「匂いにやられる」

 驚いたように手を止めて、篠原が振り返った。

「匂いって……。マジか」

 水城が原因だとでも思ったのか、あからさまに嫌そうな声と顔をしている。その懸念を否定してやると、今度はいぶかしむものに変わった。

「水城じゃねぇって、じゃあどこの誰だよ。余計に面倒じゃねぇか」
「そうかもな」
「なんでそう他人ごとだよ、おまえ」

 なんでもなにも、他人ごとだからに決まってるだろ。心の中で応じて、書類を繰る。それなのに、なんでどいつもこいつも感情的になれるんだろうな、と呆れながら。

 ――まぁ、まだ、篠原のはわからなくないけどな。

 オメガが同じ寮で好き勝手にしていれば目につくだろうし、面倒ごとに巻き込まれたくないから距離を置こうと思うことも理解できる。オメガに振り回されるのを良しとしない、まともな判断だとも思う。
 わからないのは成瀬だ。ほうっておけばいいのに、いつもいつも自ら火種を拾いに行くのだから。
 妙な情けをかけるなと何度も言ったし、やめろとも何度も言った。一度も聞きやしなかったけれど。

「おまえのとこの寮生の噂も、かなり出回ってんだからさ」

 だから他人ごとではないとでも言いたいのか、篠原が指折り名前を挙げ始める。今年度になってからというもの、あちらこちらで聞くようになったもの。

「榛名とか、うちの学年だと柏木も言われてたか。あいつ最近機嫌悪いの、絶対そのせいだよな」

 茅野が八つ当たりされてたのはちょっと笑ったけど。軽口を叩いてみせたくせに、その声音は重かった。窓の外に目を向けて、眉をひそめる。

「ぜんぶただの噂だって思いたかったけど。面倒なことになりそうだな」
「ただの噂じゃないのも混じってるから、しかたねぇだろ」
「マジかよ。っつか、その言い方……」
「まぁ、これも榛名だしな」
「は?」

 頓狂な声を気に留めず、向原は淡々と見解を示した。
 そもそもが、あのいかにもオメガといった風貌の後輩が、これまで無事に過ごせていたのは、「この学園にオメガはいない」と思われていたから、というだけのことだ。べつに、なにもおかしいことじゃない。

「騒ぎの元凶。おおかた成瀬が連れ出したんだろ」

 そうでなければ、さすがにここまでの騒ぎにはならないだろう。馬鹿だなと思った。これも何度目かしれないけれど。旧校舎で好きにやらせてやったほうが結果的に最小限の被害で収まっただろうに。

「は? 榛名? というか連れ出すって……」

 情報処理が追いついたのか篠原が深々と息を吐いた。そうして机の前まで歩み寄ってくる。

「おまえ、まさか、ぜんぶ知ってたとか言わないよな」
「誰も聞かなかっただろうが」

 残っていた書類を片づけながら、そのままを答える。手持ちの事務作業をすべて済ませてやったのが、最後の情けのつもりだ。
 しばらくは忙殺されるだろうから気の毒の話だな。他人ごとのていで向原は笑った。

「俺が聞かれもしないことを言うと思うか?」
「おまえ、なぁ」

 苦り切った声だった。

「なにやった」
「なにもしてねぇよ」

 今までしていたことをやめただけで、そしてそれを望んだのは成瀬だ。あっさり言い捨てると、篠原が机に手をついた。書面に暗い影が落ちる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました

猫足
BL
「浮気したら殺すから!」 「できるわけがないだろ……」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。 「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」 「スバル、お前なにいってんの…?」 美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。 ※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

元生徒会長さんの日常

あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。 転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。 そんな悪評高い元会長さまのお話。 長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり) なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ… 誹謗中傷はおやめくださいね(泣) 2021.3.3

処理中です...