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第二部
パーフェクト・ワールド・ゼロⅡ ①
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「あれ。おまえ、今日、ここに戻ってきたりした?」
勉強机の鍵付きの引き出しが、わずかだが開いている。覚えた違和感に行人は眉をひそめた。
とりあえずとばかりに鞄を置いて、隣で同じように片づけていた同室者に問いかける。たまたま帰寮のタイミングが重なったのだ。
その高藤が、不審そうに首を傾げる。
「いや? おまえじゃあるまいし。忘れ物もしてないし、戻ってきてもないけど」
「悪かったな」
うっかりレベルのミスが多い自覚はあるが、一言余計だ。入寮して一月と経たず部屋の鍵をなくしたことは事実であるけれど。
「なに、なんかないの?」
なんだかんだと面倒見のいい男に問い重ねられて、行人はとっさに否定した。
「いや、なんでも」
「なんでもって。そこ、いつも鍵かけてるところだろ?」
「うん、そう。そうなんだけど、だから鍵かけ忘れたかなと思って。それだけ」
「なら、いいけど。気になるなら、茅野さんに言っておこうか」
「いい。大丈夫」
寮長に報告するような大げさな話じゃないからと言い繕って、引き出しを閉める。一連の行動をじっと見つめていた高藤が、「中はいいの?」と指摘を寄こした。
「え?」
「確認しなくて」
「うん、たいしたもん入ってないし」
「なら、いいけど」
いぶかしげではあったが、それ以上の言及はなかった。引き際の良さをありがたく思いながら、閉めたばかりの引き出しをそっとうかがう。
――大丈夫、だよな。
顔を出しそうになる不安を押し込めて、言い聞かせる。この中には抑制剤と避妊薬が入っている。けれど、だからといって過度に神経質になる必要はないはずだ。
誰かが寮室に侵入してくるはずがないし、万が一があったとしても、抑制剤に気がつくとは思えない。
わざわざ包装シートから錠剤を取り外して、ピルケースに移し替えているのだ。そこまでしているのに一目見て気がついたとしたら、それは――。
肩に入りそうになった力を抜こうと、小さく息を吐く。ありえない話だ。でも、万が一ありえたとしたら、きっとそれはオメガだと、そう思ってしまった。
オメガに一番に気がつくのは、アルファではなくオメガだと行人は思う。だから、もしかするとあの同級生は知っているのかもしれない。
でも、だからって、さすがにこんなところに入ってこないだろ。同じ所属寮ならまだしも、水城は楓寮の生徒だ。おまけに無駄に目立つやつなのだ。そんなあいつが、櫻寮にひっそりと忍び込めるはずがない。
だから大丈夫だ。もう一度自分自身に言い聞かせながらも、行人は内心で首を捻った。自分に抜けているところがあるのは事実だが、ここの鍵だけはかけ忘れるはずがないのだが。
保管方法には細心の注意を払っていたはずなのに、無意識のうちに気がゆるんでいたのだろうか。
そうだとすれば、気をつけないといけない。引き締め直して、鍵穴に鍵を差し込む。カチリと秘密のしまわれる音がした。
気をつけないと、いけない。ここはあたたかな場所であるけれど。
成瀬や茅野を筆頭に信頼できる上級生がいて、信を置ける同室者がいる。信じられないくらい、恵まれた環境だ。けれど、だからこそ自分で気をつけないといけないのだ。
これからも、ひとりの「ベータ」としてこの学園で生きていくために。
勉強机の鍵付きの引き出しが、わずかだが開いている。覚えた違和感に行人は眉をひそめた。
とりあえずとばかりに鞄を置いて、隣で同じように片づけていた同室者に問いかける。たまたま帰寮のタイミングが重なったのだ。
その高藤が、不審そうに首を傾げる。
「いや? おまえじゃあるまいし。忘れ物もしてないし、戻ってきてもないけど」
「悪かったな」
うっかりレベルのミスが多い自覚はあるが、一言余計だ。入寮して一月と経たず部屋の鍵をなくしたことは事実であるけれど。
「なに、なんかないの?」
なんだかんだと面倒見のいい男に問い重ねられて、行人はとっさに否定した。
「いや、なんでも」
「なんでもって。そこ、いつも鍵かけてるところだろ?」
「うん、そう。そうなんだけど、だから鍵かけ忘れたかなと思って。それだけ」
「なら、いいけど。気になるなら、茅野さんに言っておこうか」
「いい。大丈夫」
寮長に報告するような大げさな話じゃないからと言い繕って、引き出しを閉める。一連の行動をじっと見つめていた高藤が、「中はいいの?」と指摘を寄こした。
「え?」
「確認しなくて」
「うん、たいしたもん入ってないし」
「なら、いいけど」
いぶかしげではあったが、それ以上の言及はなかった。引き際の良さをありがたく思いながら、閉めたばかりの引き出しをそっとうかがう。
――大丈夫、だよな。
顔を出しそうになる不安を押し込めて、言い聞かせる。この中には抑制剤と避妊薬が入っている。けれど、だからといって過度に神経質になる必要はないはずだ。
誰かが寮室に侵入してくるはずがないし、万が一があったとしても、抑制剤に気がつくとは思えない。
わざわざ包装シートから錠剤を取り外して、ピルケースに移し替えているのだ。そこまでしているのに一目見て気がついたとしたら、それは――。
肩に入りそうになった力を抜こうと、小さく息を吐く。ありえない話だ。でも、万が一ありえたとしたら、きっとそれはオメガだと、そう思ってしまった。
オメガに一番に気がつくのは、アルファではなくオメガだと行人は思う。だから、もしかするとあの同級生は知っているのかもしれない。
でも、だからって、さすがにこんなところに入ってこないだろ。同じ所属寮ならまだしも、水城は楓寮の生徒だ。おまけに無駄に目立つやつなのだ。そんなあいつが、櫻寮にひっそりと忍び込めるはずがない。
だから大丈夫だ。もう一度自分自身に言い聞かせながらも、行人は内心で首を捻った。自分に抜けているところがあるのは事実だが、ここの鍵だけはかけ忘れるはずがないのだが。
保管方法には細心の注意を払っていたはずなのに、無意識のうちに気がゆるんでいたのだろうか。
そうだとすれば、気をつけないといけない。引き締め直して、鍵穴に鍵を差し込む。カチリと秘密のしまわれる音がした。
気をつけないと、いけない。ここはあたたかな場所であるけれど。
成瀬や茅野を筆頭に信頼できる上級生がいて、信を置ける同室者がいる。信じられないくらい、恵まれた環境だ。けれど、だからこそ自分で気をつけないといけないのだ。
これからも、ひとりの「ベータ」としてこの学園で生きていくために。
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