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第一部
パーフェクト・ワールド・ハルΦ ③
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「あれ、榛名ちゃん」
目の前に現れた固い顔に、「どうしたの」との問いを呑み込んで、荻原はへらりと笑った。軽薄だとよく評されるそれで。
「てっきり、高藤かと思った。さっきすれ違ったから。高藤に聞いたの? 俺も戻って来てるって」
「いや、……うん、そう。それで」
気にしなくていいのになぁ、と思いながら、荻原は笑って続きを促がした。真面目だなぁ、と再認するのが半分と、相変わらず生きるのが大変そうな子だなぁ、と。どこか微笑ましく感じるのが半分だ。
「茅野さんたちが中庭で花火するって言ってて。それで」
「誘いに来てくれたんだ、ありがとう」
「べつに、俺が、というか……」
「うん、でも、ありがとう」
駄目押しでにこりと微笑めば、榛名が居心地悪そうに、眉間に皺を寄せた。
折角、可愛いのに。なんで、こんなに褒められ慣れないのかな。例えば、水城のような。四谷のような。あんなふうにちやほやとされて学園生活を送る選択肢もこの子にはあっただろうに。
――まぁ、それが出来ないから、榛名ちゃんなんだろうなぁ。
俺は、好きだけど。そういうところも。苦笑を呑み込んで、荻原は続けた。
「俺、可愛い子はまんべんなく好きだけど、その中でも榛名ちゃんは好きだよ」
「……嬉しくねぇよ」
「いつもすごく頑張ってる感じがして、ずっと見てたんだ。それだけ」
困惑気味に瞳を瞬かせた小柄な彼に視線を合わせて、眉を下げる。
「だから、もっと、よっちゃん達にも伝われば良いのになって思ったんだけど。ちょっと早かったかな。榛名ちゃんと仲良くなるには。嫌なことに巻き込んじゃってごめんね」
会長だったら、寮長だったら、もっと上手くやれたのかなぁ、と。反省して、同時に悔しく思ったのは秘密だ。
けれど、初めて会った中等部の一年生だったころより、ずっと話すことが出来るようになった。いろんな表情を知ることが出来た。これは進歩だと思う。
高藤はもっともっと、知っているのだろうけれど。
「よっちゃんが、言い過ぎたってさ。あの子も素直じゃないだけで、本当は悪い子じゃないんだよ。ただ、プライドが高いんだ。良くも悪くも」
「いや、……俺もあんなところで切れて、ごめん」
殊勝な顔で頭を下がる榛名は素直で、茅野や成瀬と言った上級生に可愛がられる所以なのだろう。
「まぁ、あと三年、一緒なんだから、どこかで仲良くなるかもしれないし」
「――うん、まぁ。……、うん」
「もちろん、俺ともね」
一瞬で嫌そうな顔になった榛名に、茶化すように続けると、予想外な応えがあった。
「俺、おまえのことは嫌いじゃないよ。良いヤツだと思ってる」
「榛名ちゃんって、本当……」
「なんだよ?」
きょとんと見上げられて、荻原は言葉を探って、結局笑った。「ううん」
「なんでもない。外、行こっか」
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