29 / 484
第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅥ ②
しおりを挟む
「俺は夏まで帰らない予定。成瀬さんたちも残るって言ってたし」
「榛名ちゃんは本当に会長が好きなんだねぇ」
馬鹿にするでもなくしげしげと見つめられてしまって、行人は慌てて継ぎ足した。「高藤も残るって言ってたけど」
「はは、照れなくて良いのに。今、すごい可愛い顏してたよ。会長が羨ましいな。といっても、会長は、榛名ちゃんのそれが貴重だってことも知らないんだろうけど」
「だったら、会長だけ追いかけてたら良いのに」
ぼそりと発せられた声は、けれど、人の少ない食堂ではっきりと行人の耳にも届いた。四谷だ。小動物のような黒目がちな瞳が、敵意をもって行人たちを見ている。
「まぁ、でも仕方ないか。今までは榛名の一人勝ちだったかもしれないけど、これからはそうも行かないもんね」
「なにがだよ」
「あれ? なんだ。知らないの、榛名。会長と水城くんの噂」
さも意外そうに肩を竦める動作に、行人はまた苛立ちが膨れ上がっていくのを自覚した。
なんでこの学園のベータは、嫌味なヤツが多いんだ。ある意味で、アルファのほうが嫌味じゃない。無論、例外もあるが。
「ちょっと、よっちゃん。そんな顔を見るなり喧嘩吹っ掛けなくても。仲良くしなって。あと三年間一緒なんだから」
どこかで聞いたような台詞で荻原が笑いながら仲裁に入る。媚びた声で「だって」と四谷が愚図っているのに、また苛立ってしまった。
何歳のつもりだ。そして可愛いつもりか。指に力が入って、紙コップがへこむ。まだ中身は残っている。気を静める効果も狙って、まだ熱いそれを行人は一気に飲み干した。
輪に残っていた同級生と四谷が話し出したのを見て取って、荻原がこそりと声を落とす。
「ただの噂なんだけどね。聞きたい?」
「べつに」
「まぁ、いずれかは榛名ちゃんの耳に入るだろうから、慌てて今ここで聞かなくても良いかもね」
「悪い噂なのか?」
懸念が強くなった声に、荻原の目じりが下がる。「優しいね、榛名ちゃんは」
「だから、高藤も一緒にいて楽なだけだと思うんだけど。よっちゃんたちは、まぁ……だから、妬いちゃってるんだね。榛名ちゃんには不本意かもしれないけど」
優しいのは、そんなふうに解釈して見せる荻原だろう、と。嫌味ではなく思った。口にはしなかったけれど。
「ついでに言うと、噂もべつに悪い噂ではないとは思うよ。榛名ちゃんにとっては、分からないけど」
「俺にとって?」
「うん。まぁ、俺も直接その現場を見たわけじゃない又聞きの噂だけど。入学式の日さ、ハルちゃんは新入生代表だったでしょ?」
「そうだったな」
「そう。それで、会場の準備中に、ハルちゃん、一人でやってきたんだって。生徒会の人たちにも挨拶を、って」
真面目だからだろうね、と荻原が続けた。当然、誰だあの可愛い子って準備に駆り出されてた生徒は大騒ぎだったみたいだけど、そこで。
「会長と話してた時にさ、ハルちゃんが言ったらしいんだよね。僕と同じ匂いがするって」
「それ、って」
心臓が誇張ではなく跳ねたような気がした。口からは堅い声が零れ落ちる。
「うん。たぶん、榛名ちゃんの想像通り。運命のつがいってやつなんじゃないかって噂があるはある、かな」
逢えば一目で分かるとされる、アルファとオメガの間に存在する絆。行人は今まで一度も関知したことはない。無論、成瀬に対しても。
「榛名ちゃんは本当に会長が好きなんだねぇ」
馬鹿にするでもなくしげしげと見つめられてしまって、行人は慌てて継ぎ足した。「高藤も残るって言ってたけど」
「はは、照れなくて良いのに。今、すごい可愛い顏してたよ。会長が羨ましいな。といっても、会長は、榛名ちゃんのそれが貴重だってことも知らないんだろうけど」
「だったら、会長だけ追いかけてたら良いのに」
ぼそりと発せられた声は、けれど、人の少ない食堂ではっきりと行人の耳にも届いた。四谷だ。小動物のような黒目がちな瞳が、敵意をもって行人たちを見ている。
「まぁ、でも仕方ないか。今までは榛名の一人勝ちだったかもしれないけど、これからはそうも行かないもんね」
「なにがだよ」
「あれ? なんだ。知らないの、榛名。会長と水城くんの噂」
さも意外そうに肩を竦める動作に、行人はまた苛立ちが膨れ上がっていくのを自覚した。
なんでこの学園のベータは、嫌味なヤツが多いんだ。ある意味で、アルファのほうが嫌味じゃない。無論、例外もあるが。
「ちょっと、よっちゃん。そんな顔を見るなり喧嘩吹っ掛けなくても。仲良くしなって。あと三年間一緒なんだから」
どこかで聞いたような台詞で荻原が笑いながら仲裁に入る。媚びた声で「だって」と四谷が愚図っているのに、また苛立ってしまった。
何歳のつもりだ。そして可愛いつもりか。指に力が入って、紙コップがへこむ。まだ中身は残っている。気を静める効果も狙って、まだ熱いそれを行人は一気に飲み干した。
輪に残っていた同級生と四谷が話し出したのを見て取って、荻原がこそりと声を落とす。
「ただの噂なんだけどね。聞きたい?」
「べつに」
「まぁ、いずれかは榛名ちゃんの耳に入るだろうから、慌てて今ここで聞かなくても良いかもね」
「悪い噂なのか?」
懸念が強くなった声に、荻原の目じりが下がる。「優しいね、榛名ちゃんは」
「だから、高藤も一緒にいて楽なだけだと思うんだけど。よっちゃんたちは、まぁ……だから、妬いちゃってるんだね。榛名ちゃんには不本意かもしれないけど」
優しいのは、そんなふうに解釈して見せる荻原だろう、と。嫌味ではなく思った。口にはしなかったけれど。
「ついでに言うと、噂もべつに悪い噂ではないとは思うよ。榛名ちゃんにとっては、分からないけど」
「俺にとって?」
「うん。まぁ、俺も直接その現場を見たわけじゃない又聞きの噂だけど。入学式の日さ、ハルちゃんは新入生代表だったでしょ?」
「そうだったな」
「そう。それで、会場の準備中に、ハルちゃん、一人でやってきたんだって。生徒会の人たちにも挨拶を、って」
真面目だからだろうね、と荻原が続けた。当然、誰だあの可愛い子って準備に駆り出されてた生徒は大騒ぎだったみたいだけど、そこで。
「会長と話してた時にさ、ハルちゃんが言ったらしいんだよね。僕と同じ匂いがするって」
「それ、って」
心臓が誇張ではなく跳ねたような気がした。口からは堅い声が零れ落ちる。
「うん。たぶん、榛名ちゃんの想像通り。運命のつがいってやつなんじゃないかって噂があるはある、かな」
逢えば一目で分かるとされる、アルファとオメガの間に存在する絆。行人は今まで一度も関知したことはない。無論、成瀬に対しても。
11
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました
猫足
BL
「浮気したら殺すから!」
「できるわけがないだろ……」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。
「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」
「スバル、お前なにいってんの…?」
美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。
※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
悪役令息の兄には全てが視えている
翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」
駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。
大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。
そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?!
絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。
僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。
けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?!
これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。
元生徒会長さんの日常
あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。
転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。
そんな悪評高い元会長さまのお話。
長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり)
なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ…
誹謗中傷はおやめくださいね(泣)
2021.3.3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる