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第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅤ ①
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[5]
「失礼します。……あれ、篠原さんだけですか」
本館五階の最奥に位置する生徒会室の重厚なドアを開けて、皓太は首を傾げた。いつもならもう少し人がいるはずなのに、あるのは派手な頭一つだけだ。広い室内の中心に位置する長机から、篠原が顔を上げる。
「久しぶりだな、皓太。何だ? みささぎ祭の書類か?」
「はい。成瀬さんにサイン貰いたかったんですけど」
「あー、あいつ。しばらく帰ってこねぇかも。風紀に殴り込み中」
「風紀に殴り込み? 一人で?」
訝しげに繰り返した皓太をよそに、鬱陶しかったのか、篠原がオレンジ色に近い茶髪を無理やり襟足で一つに束ねている。器用だなと思う半分、相変わらずチャラいなと呆れ半分だ。最高学年になろうが、昔と全く変わってない。
風紀がすべきは見回りの強化ではなく服装や髪型違反者への指導ではないかと思うのだけれど。
「まさか。向原とだけど。ほら、最近、あいつらがやたら見回りしてるだろ? それが怖いって苦情……というか、相談というかが、何件かウチに来ててな」
「それで殴り込みですか。生徒会のほうから」
「いや? 少し前に、成瀬が苦情の件についてはしれっと書面で風紀に通告したんだけど、当然、回答が無くて」
「はぁ」
「そしたら、あいつ、風紀から上がってくる決裁、全部止めやがってな」
「はぁ?」
「ずっと保留にして渡さなかったら、風紀の副委員長が取り巻き連れて乗り込んできて、ここで揉めて、えーと、それが一昨日か」
もはや、「はぁ」しか言葉が出てこない。少なくとも、皓太は去年、中等部で生徒会会長を務めていたが、そんな意味の分からない揉め事を起こしたことも、起こされたこともない。
「で、とうとう本日、話合いのステージに進んだってわけ。どうやって今の学校の風紀を守るか討論会」
「なんでまた、そんな面倒な」
聞いているだけで疲れそうだ。そんな皓太の心境などお構いなしに、篠原はどこか楽しそうだ。
この人、お祭り騒ぎ好きだからなぁ。悪い人じゃないけど。皓太は思い返す。
恥ずかしながら、陵の中等部に入学するより前から、成瀬が長期休暇で戻ってくるたびに付きまとっていたので、彼の友人の何人かもそのころより知っている。
学内で人に囲まれていることは多いが、休み期間にまで一緒にいるような、ある意味で対等な友人はそう多くないのだろうが、向原と篠原はその最たるメンツだった。
「風紀のトップが本尾な時点でご察しだろ。あいつらの仲の悪さは折り紙付きだから。それよか、おまえ、風紀に絡まれたんだって?」
その長身と愛嬌から大型犬と称されている先輩の眼が、にんまりと細くなる。
なんで知られているのかとくらりと来たが、よくよく考えれば、この人たちが学内のことを知らないわけもなかった。
「たいしたことじゃないですよ」
「だろうな。おまえにとったらそうだろうってのは、俺も向原も分かるけど。肝心の兄貴分が理解してない内は意味がねぇな。残念ながら」
「……まさか、原因の一端とか言わないですよね?」
肯定されたらたまらないが、聞かずにもいれない。そんな皓太を慮ったわけではないだろうが、篠原は応とも否とも言わず、
「こっちから仕掛けたと思わせるようなヘマはしてないから、安心しろ」
と来た。
一切、そんな心配はしていないし、こんな公私混同甚だしい人のどこが優しいのか榛名に昏々と問い詰めてやりたい気分だ。返ってくるだろう反応は分かっているので実行しないが。
一つ息を吐くことで気を静めて、皓太はそのまま回れ右をした。
「失礼します。……あれ、篠原さんだけですか」
本館五階の最奥に位置する生徒会室の重厚なドアを開けて、皓太は首を傾げた。いつもならもう少し人がいるはずなのに、あるのは派手な頭一つだけだ。広い室内の中心に位置する長机から、篠原が顔を上げる。
「久しぶりだな、皓太。何だ? みささぎ祭の書類か?」
「はい。成瀬さんにサイン貰いたかったんですけど」
「あー、あいつ。しばらく帰ってこねぇかも。風紀に殴り込み中」
「風紀に殴り込み? 一人で?」
訝しげに繰り返した皓太をよそに、鬱陶しかったのか、篠原がオレンジ色に近い茶髪を無理やり襟足で一つに束ねている。器用だなと思う半分、相変わらずチャラいなと呆れ半分だ。最高学年になろうが、昔と全く変わってない。
風紀がすべきは見回りの強化ではなく服装や髪型違反者への指導ではないかと思うのだけれど。
「まさか。向原とだけど。ほら、最近、あいつらがやたら見回りしてるだろ? それが怖いって苦情……というか、相談というかが、何件かウチに来ててな」
「それで殴り込みですか。生徒会のほうから」
「いや? 少し前に、成瀬が苦情の件についてはしれっと書面で風紀に通告したんだけど、当然、回答が無くて」
「はぁ」
「そしたら、あいつ、風紀から上がってくる決裁、全部止めやがってな」
「はぁ?」
「ずっと保留にして渡さなかったら、風紀の副委員長が取り巻き連れて乗り込んできて、ここで揉めて、えーと、それが一昨日か」
もはや、「はぁ」しか言葉が出てこない。少なくとも、皓太は去年、中等部で生徒会会長を務めていたが、そんな意味の分からない揉め事を起こしたことも、起こされたこともない。
「で、とうとう本日、話合いのステージに進んだってわけ。どうやって今の学校の風紀を守るか討論会」
「なんでまた、そんな面倒な」
聞いているだけで疲れそうだ。そんな皓太の心境などお構いなしに、篠原はどこか楽しそうだ。
この人、お祭り騒ぎ好きだからなぁ。悪い人じゃないけど。皓太は思い返す。
恥ずかしながら、陵の中等部に入学するより前から、成瀬が長期休暇で戻ってくるたびに付きまとっていたので、彼の友人の何人かもそのころより知っている。
学内で人に囲まれていることは多いが、休み期間にまで一緒にいるような、ある意味で対等な友人はそう多くないのだろうが、向原と篠原はその最たるメンツだった。
「風紀のトップが本尾な時点でご察しだろ。あいつらの仲の悪さは折り紙付きだから。それよか、おまえ、風紀に絡まれたんだって?」
その長身と愛嬌から大型犬と称されている先輩の眼が、にんまりと細くなる。
なんで知られているのかとくらりと来たが、よくよく考えれば、この人たちが学内のことを知らないわけもなかった。
「たいしたことじゃないですよ」
「だろうな。おまえにとったらそうだろうってのは、俺も向原も分かるけど。肝心の兄貴分が理解してない内は意味がねぇな。残念ながら」
「……まさか、原因の一端とか言わないですよね?」
肯定されたらたまらないが、聞かずにもいれない。そんな皓太を慮ったわけではないだろうが、篠原は応とも否とも言わず、
「こっちから仕掛けたと思わせるようなヘマはしてないから、安心しろ」
と来た。
一切、そんな心配はしていないし、こんな公私混同甚だしい人のどこが優しいのか榛名に昏々と問い詰めてやりたい気分だ。返ってくるだろう反応は分かっているので実行しないが。
一つ息を吐くことで気を静めて、皓太はそのまま回れ右をした。
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