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第一部
パーフェクト・ワールド・ハル0 ②
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「だって、あの人! 絶対、成瀬さんを独り占めしようとしてる!」
それはまた、語弊があるなとは思ったが、ある意味では真実に近いので如何とも否定しがたい。というわけで、皓太は無理やり話題を変えた。
「ほら、新入生代表の挨拶が始まるから、いい加減、ちょっと黙れって」
「黙れって、おまえも同罪だろうが」
不満そうではあるが、榛名の声音の音量が下がる。強情のくせに、自分に非があると思えば素直に耳を傾けるところは美点だ。
「いいから、いいから」
「そういや、おまえじゃなかったんだな。俺、てっきり、おまえが首席入学だったんだと思ってた」
一応、形ばかりではあるが、内部進学組にも進学試験が存在している。だけれども、ほとんど通年、外部からの編入生が主席の座を獲っている。この学園に外部から編入することは相当の狭き門であるらしく、自ずとして外部生の学力は高いのだ。
「俺のわけないじゃん」
「でも二年前は成瀬さんだったんだろ? 聞いたことある」
おまえは本当に成瀬さんマニアだな、と。突っ込みたいのを我慢して、皓太は同輩から聞きかじっていた情報を引っ張り出した。
「なんか、すげぇ可愛い子だっていう噂は聞いたな。その主席の子」
四つある寮のうち、「楓」に配属が決まっているだとかなんとか。楓寮へ進むことになっていた友人は、楽しみだと頬を緩ませていた。
「可愛い子って、男だろうが」
一段と低くなった榛名の声に、失言を悟ったが後の祭りだ。このご時世、アルファとオメガであれば同性でも結婚出来るのだから、そう頑なに嫌悪しなくても良いだろうとも思うが、仕方がないのかもしれない、とも思う。
聞いて回ったわけではないが、恐らくとして陵学園にオメガはいない。そうなれば同じ年頃の男が集まる全寮制のここで性欲の捌け口になるのは、「オメガのような」ベータだ。線の細く中性的な――少女のような少年。
中身はともあれ、外見だけで言えば、榛名行人は、その条件に悉く当てはまる生徒だった。中等部に入学した直後は、よく上級生や同級生のアルファに声を掛けられていて。それは榛名のプライドをいたく傷つけたようだった。
――まぁ、それはそれで別に良いと思うけど。結局、オメガかアルファでなかったら、同性と結婚なんて出来ないんだし。この学園を卒業したら、榛名ならいくらでも良い彼女が出来るだろうし。
そうなれば、もう少し榛名も丸くなるかもしれないし、な。
単調な入学式の最中、取り留めもないことを考えているうちに、講堂がざわめき始めていた。「続きまして」それを沈めるようにアナウンスがかかる。
「新入生代表、水城春弥くん」
今年の主席入学者。それだけでは済まないさざめきは、応じる変声期を終えていない少女のような声に、さらに膨れ上がる。
果たして、どんな人物なのか。興味の集ったそれは、壇上の小柄な少年の姿に、一転して静まり返ることになった。
それはまた、語弊があるなとは思ったが、ある意味では真実に近いので如何とも否定しがたい。というわけで、皓太は無理やり話題を変えた。
「ほら、新入生代表の挨拶が始まるから、いい加減、ちょっと黙れって」
「黙れって、おまえも同罪だろうが」
不満そうではあるが、榛名の声音の音量が下がる。強情のくせに、自分に非があると思えば素直に耳を傾けるところは美点だ。
「いいから、いいから」
「そういや、おまえじゃなかったんだな。俺、てっきり、おまえが首席入学だったんだと思ってた」
一応、形ばかりではあるが、内部進学組にも進学試験が存在している。だけれども、ほとんど通年、外部からの編入生が主席の座を獲っている。この学園に外部から編入することは相当の狭き門であるらしく、自ずとして外部生の学力は高いのだ。
「俺のわけないじゃん」
「でも二年前は成瀬さんだったんだろ? 聞いたことある」
おまえは本当に成瀬さんマニアだな、と。突っ込みたいのを我慢して、皓太は同輩から聞きかじっていた情報を引っ張り出した。
「なんか、すげぇ可愛い子だっていう噂は聞いたな。その主席の子」
四つある寮のうち、「楓」に配属が決まっているだとかなんとか。楓寮へ進むことになっていた友人は、楽しみだと頬を緩ませていた。
「可愛い子って、男だろうが」
一段と低くなった榛名の声に、失言を悟ったが後の祭りだ。このご時世、アルファとオメガであれば同性でも結婚出来るのだから、そう頑なに嫌悪しなくても良いだろうとも思うが、仕方がないのかもしれない、とも思う。
聞いて回ったわけではないが、恐らくとして陵学園にオメガはいない。そうなれば同じ年頃の男が集まる全寮制のここで性欲の捌け口になるのは、「オメガのような」ベータだ。線の細く中性的な――少女のような少年。
中身はともあれ、外見だけで言えば、榛名行人は、その条件に悉く当てはまる生徒だった。中等部に入学した直後は、よく上級生や同級生のアルファに声を掛けられていて。それは榛名のプライドをいたく傷つけたようだった。
――まぁ、それはそれで別に良いと思うけど。結局、オメガかアルファでなかったら、同性と結婚なんて出来ないんだし。この学園を卒業したら、榛名ならいくらでも良い彼女が出来るだろうし。
そうなれば、もう少し榛名も丸くなるかもしれないし、な。
単調な入学式の最中、取り留めもないことを考えているうちに、講堂がざわめき始めていた。「続きまして」それを沈めるようにアナウンスがかかる。
「新入生代表、水城春弥くん」
今年の主席入学者。それだけでは済まないさざめきは、応じる変声期を終えていない少女のような声に、さらに膨れ上がる。
果たして、どんな人物なのか。興味の集ったそれは、壇上の小柄な少年の姿に、一転して静まり返ることになった。
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