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第211話 第18ダンジョン 高揚

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階段を上がって101層に到着すると、道幅だけでなく”魔物探知”の反応が今までの2倍近くに増えていた。

その上1つ1つの反応が強く、おそらくSランク魔物と同程度だと考えられる。

文献通り、ダンジョンは100層を区切りに魔物の強さや数が一気に変わるようだ。



”魔物探知”の反応に”鑑定”を行使してみると、反応源の正体はSランク魔物ヒポグリフだった。

SSランク魔物グリフォンの下位個体で、鷲の上半身と馬の下半身を持っている。

高い知性を持っているが人肉が好物であり、何としてでも喰らおうとするのでなかなか厄介な相手である。



「…全員警戒しろ。ヒポグリフが結構いるぞ。」



「おぉ!!」



「やったぁ~!!」



「2人とも油断してると痛い目に遭いますよ?」



「ちぇ~」



早速人族の匂いに反応したらしく、パカラッパカラッと複数の馬の足音がこちらへ近づいてくる。

曲がり角で曲がるのが難しそうなものだが、鷲の翼で飛ぶことで速度を落とさず器用に移動している。



「6体来るぞ!!気を付けろ!!」



武器を構えて警戒していると、同時に6体のヒポグリフがまるで波のように流れ込んできた。

何とか迎撃しようとするも、標的にした個体は目の前で止まって残りの3体に回り込まれてしまった。

この高い知性故の連携もヒポグリフの厄介なところだ。



「ちっ…!!後ろ3体は俺に任せろ!!前3体は4人に任せる!!」



「おう!!」



Sランク魔物に取り囲まれたら絶望しそうなものだが、生憎ここには戦闘狂しかいない。

全員が全員口元に笑みを浮かべ、まるで俺との模擬戦の時のように生き生きとしていた。



「はぁぁぁ!!!」



両手剣Lv.9”ノヴァディザスター”を行使して接近してきた1体を中心に3体へ逃げ場のない無数の斬撃を飛ばした。

ヒポグリフ達は回避できないと分かると翼に身を隠すが、それで防げるほど俺の攻撃は甘くない。

最初の数撃で翼が爛れて斬れ落ちて防御手段を失い、残りの斬撃で細切れになった。



『…思ったより弱かった。というより”鬼神剣”の切れ味がだいぶ増したな。』



最初はEランク武器よりも性能が低かったが、今ではSとSSランク武器の中間くらいまで成長した。

毎日”偽装”の派生スキル”痛覚偽装”で誤魔化しつつ自傷して俺の血を吸わせ続けた成果だろう。

最近は特に吸血鬼の再生能力を生かして毎日何十リットルもの血を吸わせていたのが大きい。



ドロップした魔石を回収し、後ろを見るとちょうどクレアが最後の1体にトドメを刺すところだった。

どうやら4人も無傷で難なく返り討ちにしたようだ。



「ま、まあまあ良い運動になったのです!」



「ね~!でもまだ全然動き足りないかな~」



「…っ!!この階層にいるヒポグリフがどんどんこっちに向かって来てるぞ!!全員戦闘態勢!!」



それからは倒せど倒せどヒポグリフが襲い掛かってくる持久戦だった。

だがいつも連戦で鍛えている俺達にとっては特につらくもなく、80体近く倒したところで”魔物探知”から反応が消えた。

目の前には70cmほどある闇色の綺麗な魔石が山になっていた。



「ふぅ…お疲れ。リポップする前にこの層を探索して102層に進むぞ。」



「おう!!」



魔石とドロップアイテムである尾羽根や嘴を”アイテムボックス”に収納し、宝箱を3つ見つけて102層へ上がった。

宝箱の中身はSランクのHP回復薬2つとTP回復薬という、嬉しいは嬉しいが持っているのでそこまで要らない微妙なものだった。



それから各階層で数十体の魔物を仕留めて進み、109層で問題に直面した。

イザベルが見つけた縦1m横2m奥行き1mほどの巨大な宝箱から”罠探知”に強力な反応があったのだ。

今までの宝箱も罠はあったがせいぜい毒矢が射出するくらいの大したことないものだったが、この反応は古代文明都市で感じたものと同じで明らかに即死級の罠である。



「…危険だから全員離れてろ。」



「お、おう…」



「アルフレッドが緊張するなんて珍しいですね…」



緊張しないわけがない。

何故なら古代文明都市に大量にあった即死級の罠は全て誤作動させるか回避して無効化していたため、直接解除するのは初めてなのだ。

今までは盗賊職の真似事をして習得した”罠解除”スキルで鍵を開けていたが、おそらくスキルLvが不足している。



『ダンジョンの宝箱はどんなに攻撃しても傷1つつかないし…どうしたものか…』



おそらく即死級の罠とはいえ、俺のHPと吸血鬼の再生能力なら死ぬほど痛いが死ぬことはないだろう。

だが、もしかすると”死神鎌”のようにHPを直接削ぎ取る罠である可能性もある。

”罠探知”で罠の存在が分かっても、知識がないためどんな罠か分からないため判断がつかない。



『…そうだっ!!』



”罠探知”の反応に意識を集中し、設定された罠の発動条件を宝箱を開ける時ではなく宝箱を閉める時にしようと細かいイメージを思い描きながら”偽装”を行使した。

苦闘すること十数分、宝箱からカチャッ!という音が聞こえた。



「…ふぅ。」



「開いた…のですか?」



「何とかな。…それじゃあ開けるぞ。心の準備はいいか?」



「お、おう!」



ミシミシと音を立てながら蓋を開けると、中には青色と赤色の2つの水晶が入っていた。

”通信の水晶”や商会にいくつかあった水晶の魔道具とも異なり、初めて見る水晶だ。



「”鑑定”結果は…”交換転移の水晶”。効果は対になる水晶を持つ者同士を瞬間転移させるってさ。回数と距離は無制限。」



「おおおおぉぉ!!…ん?それオレ達に必要か?」



「…すごい効果ですが、使う場面が結構限られますね。」



「そうだな。片方はアイリスに預けておくよ。」



「分かりました。」



ダンジョン攻略を始めて初のレアアイテム獲得で気分が舞い上がった。

おそらく使い方を考えれば俺達の役に立つ有用なものもあるだろう。



「ところで罠は何だったの~?」



「開けてみるか。皆離れてろよ。」



念のため宝箱から15mほど離れ、剣を横にして“ノヴァディザスター“で風を送った。

蓋が閉まり、“偽装“で変えた起動条件を満たした。



「なっ…!!」



宝箱の中から真っ黒な球体が浮かび上がり、一気に周囲3mほどまで広がった。

そしてパッと球体が消えると、宝箱はおろかダンジョンの壁や床までがごっそりと抉り取られていた。



「こ、これは死ぬのです…」



「だな。…気を取り直して110層のボス戦に挑むぞ。」



「お、おう…」
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