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第201話 迷宮都市 騎士団

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翌朝



『さて…騎士団本部に行くか。』



昨晩帰宅してからクレア達も誘ったのだが、模擬戦だけ同行するとのことだった。

そのため俺とティーナは8時に騎士団本部で待ち合わせすることになった。



訓練用の通気性が良いトレーニング着を着てパーティーハウスを出た。

騎士団のルールは知らないが、時間に厳しいイメージがあるので念のため15分前に訓練場へ到着した。

すると、そこには全身鎧を着た騎士団員が数人程度しか居なかった。



「おはよう。早いな。」



「おはようティーナ。厳罰は嫌だからな。」



「あははっ!5分後に全員集合するからもう少し待っていてくれ。」



「分かった。ところで…俺も普段の装備に着替えた方が良いか?」



「そうだな。騎士団は実戦演習が基本だからな。」



「なるほど…」



訓練場の隅にある木々の裏に移動し、”アイテムボックス”から装備を取り出して着替えた。

白銀の鎧に身を包む騎士団員が増えていくなか、俺だけ”闇のセット装備”で漆黒のローブを纏っているのはどこか気恥ずかしさを感じた。

まるで誤って俺一人だけ女性専用車両に乗ってしまったような感じだ。



じろじろと見られて気まずかったので、俺は”迷彩偽装”を行使してティーナの近くで待機した。

息を潜めていたこともあるのだろうが、誰一人として俺の気配に気付くことはなかった。



「…傾聴!!これより早朝訓練を始める!!本日は私の友人が参加する!!アルフレッド!!」



ティーナの隣で”迷彩偽装”を解除して姿を現すと、当然ながら突然人が現れたことに驚き警戒して静まり返った。

だが、俺に気付いた瞬間歓声とどよめきが一気に広がった。



「うぉぉぉぉぉ!!!!本物だ!!!!!」



「きゃー--!!!かっこいいー--!!!」



「まさか冒険者辞めて騎士団に入るのか!?」



「そしたら俺、アルフレッドさんの部隊に配属したいぜ!!」



「静粛に!!」



ティーナが剣で地面を突くとともに命令すると、何事もなかったかのように静寂が戻ってきた。

騎士団員達も真剣な眼差しに戻り、俺とティーナの方をじっと見据えている。



「傾聴!!アルフレッドからの話だ!!」



「Bランク冒険者のアルフレッドだ。先に言っておくが、ティーナに誘われて参加しただけで騎士団に入るつもりはない。短い時間だがよろしく頼む。」



「そういうわけだ。早朝訓練の後昨日の後処理で同行するから、せっかくならと私が誘ったのだ。」



「うぉぉぉぉぉ!!!!!それでも一緒に訓練できるのか!!!」



「も、模擬戦とかしてもらえるんかな!?」



「静粛に!!!まずはランニングだ!!各自重りを付けろ!!」



「はいっ!!!」



15分前に来た時にいた人達が”アイテムボックス”の魔道具から50kgほどあるリュックサックを取り出し、俺と騎士団員全員に支給された。

背負ってみるとなかなか重いが、これくらいの負荷であれば特に問題はない。



「それでは私について来い!!」



「はいっ!!!」



ティーナを先頭で俺を最後尾にした二列縦隊で整列し、早速ランニングを開始した。

普段のランニングは”闘気操術”を駆使したほぼ全力疾走なのでそれに比べたら酷く劣るが、それでも訓練場の一周約1500mを5分で走るなかなかのペースだ。



30分かけて訓練場を6周し、約9kmを走ったがまだランニングは終わらない。

1人くらい欠けそうなものだが、全員必死に追いかけて隊列を崩さずにいる。



「よしっ!!それではペースを上げるぞ!!」



「ア、アルフレッドさん…」



「なんだ?」



隣を走っていた同い年くらいに見える騎士団員が話しかけてきた。

青ざめた顔をしており、俺に対して何か申し訳なさそうな表情をしている。



「ここから地獄になるのでお覚悟を…」



「…?分かった。」



警告された次の瞬間、ティーナの走るペースが一気に上がった。

先程までの約1.5倍、一周約1500mを3分と少しで走るハイペースになったのだ。

必死についていっていた者たちがリタイアし、次々俺の後ろへと流れていく。



それから訓練場を4周すると、気が付けば残っているのはティーナと俺だけになっていた。

俺としては”闘気操術”も行使していない上に、息もあまり切れていないのでまだ余裕がある。



「ここまで!!15分休憩だ!!」



「はいぃぃぃ!!」



周囲から歓喜の声を上げながらドスドスと重りを下ろす音が聞こえる。

俺は物足りなさを感じていたが、周りに合わせて重りを下ろした。

暇なので体内でTP循環していると、息を整え終えたティーナがこちらへ歩いてきた。



「流石はアルフレッドだな。私のペースについてくるとは…」



「いつも全力疾走し続けてるからな。」



「それは凄いな。」



「次は何をするんだ?」



「剣術訓練だ。いつもは私が騎士団員達と模擬戦をし、待機者は素振りをするんだが…私の役目を代わってみないか?」



「そうだな…」



対魔物戦は慣れているが、対人戦は師範とクレア達以外にほとんど経験がない。

これからさらに邪神教徒達を相手にすることが増えるだろうし、対人戦の経験を積むいい機会だ。



「折角だしそうしよう。」



「感謝する。騎士団員達の士気も高まることだろう。」



「迷宮都市に暮らす一員としてそれは何よりだ。」



「では私は準備があるからこれで。」



「ああ。」



それからティーナと全身鎧を着た何人かの騎士団員達が訓練場を二分する形で木の柵を置いた。

模擬戦の戦闘場所と自主訓練場所だろう。



「休憩辞め!!剣術訓練に移る!!今日は私の代わりにアルフレッドが相手をしてくれるそうだ!!胸を借りて全力で挑め!!騎士団に泥を塗った奴は後で私が直々にしごいてやる!!!」



「うぉぉぉぉぉ!!!!!やる気出てきたぜー---!!!!」



騎士団員達が闘気に満ち満ちてゆく。

俺も気合いを入れ、模擬戦場に移動した。
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