上 下
192 / 246

第192話 第18ダンジョン 上層攻略②

しおりを挟む
10層のボス部屋で軽く昼食を取り、食休みを終えた。



「さて…先に進むか、それともいつも通りここで模擬戦をしていくかどっちがいい?」



「オレは模擬戦!」



「まだ時間的に早いので、私は20層か30層で模擬戦をしたいです。」



「あたしはアイリスに賛成~」



「ボ、ボクも。」



「じゃあクレアには悪いが先に進もう。」



「おう!全然いいぜ!」



記録の扉の登録だけ行い、11層へ続く階段を上った。

到着すると同時に“邪神教徒探知“を全体に行使したが、反応はなかった。



『…下層には降りてきてないようだな。』



それから探知系ユニークスキルを駆使して順調に進み、18層に到着した。

そこは無機質な壁や天井はいつも通りだが、1つ違う点がある。



「あと2層でボス戦…何か聞こえませんか?」



「いや…少なくとも“邪神教徒探知“には反応がないな。」



“盗賊探知“や“犯罪者探知“も行使してみたが、反応はない。

話し声が聞こえるのは間違いないので、派生スキル“冒険者探知“を習得して行使すると6つの反応があった。

屈強な男達が装備を固めているので間違いなく同業者だろう。



『次なる犠牲者か…?』



もし彼らが何らかの魔道具やスキルで邪神教徒達に観測されていた場合、接触すると俺達にも注意が向くかもしれない。

若干とはいえ疲労は溜まっている上に上層の記録の扉を登録していない今、行動を起こすわけにはいかない。



仕方ないが彼らは無視して見殺しにするしかないだろう。

せめて邪神教徒の手から逃れられるのを祈ることしかできない。



「…念のため息を潜めて進むぞ。」



「はいなのです。」



“冒険者探知“を駆使して彼らと遭遇しないように道を選び、じわじわと進んでいった。

クレアがじれったそうにしていたが、アイリスが抑えてくれたおかげで騒がしくなることはなかった。



『19層へ向かう階段まであと少しだが…彼らの背後をすり抜ける必要があるな。』



現在地は18層の中間地点辺りで、あと3回曲がり角を曲がったら彼らと出くわしてしまう。

悩んでいると、彼らが階段とは真逆で行き止まりの道へ歩み始めた。



「…少し急ぐぞ。」



「ぉぉぉ…」



「グールなのです?」



「…多分な。遠くにいるみたいだし、無視して進むぞ。」



彼らの動きが止まったので、今微かに聞こえた声はおそらく宝箱を見つけて喜んだ声だろう。

イザベルにグールと勘違いされていて笑いそうになったが、深呼吸してなんとか堪えた。



彼らが行く先々の魔物を倒しているおかげで1度も魔物に遭遇することなく19層に到着した。

そして彼らと距離を取るべく、速やかに最短ルートを進んで20層のボス部屋へ到着した。



「…開けるぞ。」



「おう!」



ゴゴゴと重い扉を押し開けると、中には体長6mほどあるノソノソとした巨人、Bランク魔物のウォートロールがいた。

だが通常種より一回り身体が大きく、目も赤く血走っている。

おそらくトロール種の厄介なユニークスキル”再生”も効果が高まっているだろう。



「作戦1だ!!」



「はい!」



作戦1とはイザベルとクレアがヘイトを買ってそれぞれタンクの役割を担い、俺達で攻撃を加える。

つまるところいつも通りの隊列で戦うだけだ。



「グオォォォ!!!」



ウォートロールはイザベル目掛けて殴打したが、回避型タンクの速度に翻弄されて当たらない。

隙ができたところへクレアが両手剣Lv.1“スラッシュ“を行使し、SSランク武器の性能も相まって綺麗に右腕を切り落とした。

切り落とされた腕は靄になって消え、それと同時に切断部がまるで水が沸騰しているかようにブクブクと再生し始めた。



「再生する暇を与えるな!!」



そう言い終わるころには切り落とされた腕が完全に再生していた。

通常種の何十倍もの速さで、かつ再生部分の筋肉が先程よりも隆起している。

どうやら再生すればするほど再生した部位が強化されていく厄介な性質を持つようだ。



「同時攻撃で仕留めろ!!」



掛け声に合わせてアイリスがヘイトを買って隙を作り、そこへイザベルが棍棒Lv.5”スタンブラント”でウォートロールをスタン状態にした。

そしてクレアが両手剣Lv.9”ノヴァディザスター”、スーが槍Lv.9”スピアディザスター”、俺が弓Lv.5”バーストアロー”を同時に行使した。

無数の斬撃と無数の突きでウォートロールの身体は粉々になり、そこへ放たれた矢は細切れの身体に突き刺さるとともに爆発した。



「…やったのです?」



「ああ。」



黒煙が立ち消えると、そこには大きな魔石だけがあった。

”鑑定”で死ぬ様子を観察していたが、吸血鬼と同じシステムでHPを消費して再生していたらしい。

爆発で空いた傷を再生しようと10万あったHPを残り100まで削ったが、それでも足りなかったようで出血による継続ダメージで死んだ。



「ふぅ…さて、今日はここで模擬戦して帰るか。」



「おう!!待ってたぜ!!」



それから夕方まで3時間ほど思い切り身体を動かし、皆は今日も今日とて満足感を得たようだ。

18層で見つけたパーティーは扉をくぐる直前にここへ辿り着き、ボス部屋の前で準備をしていた。

彼らがボス戦に成功することを願いながらパーティーハウスへ帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...