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第111話 古代文明都市 滞在

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地下4階に着いてから10日が経った。

俺は調合の練習と訓練を、師範は品種改良されたイーリス草の研究をして過ごした。



今は師範に素材が勿体ないと指摘され、迷いの森南部で採取したイーリス草Aを使って練習している。

とはいえ調合の能力は大して上がらず、未だに原料よりランクが2低いものしか作れない。



『まだ他の素材にも手出せてないのに…』



というのも、ここ地下4階は3つの区画に分かれており、区画ごとに栽培している薬草が異なるのだ。

北東区画はHP回復薬の原料であるイーリス草、南東区画はTP回復薬の原料であるティラミ草、西区画は様々な状態異常回復薬の原料であるキュレム草が栽培されている。



『師範はあとどのくらいここに留まるつもりなんだ…?』



やることはあるので数十日滞在しても構わないが…

もっと下層に降りてこの施設について調べたいのも事実だ。



『…師範に合わせよう。さて、今日も訓練するか!』



「弟子よ…!!」



「師範…?どうしたんですか?」



先程まで徹夜明けで眠そうにしていたが、突然笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。



「イーリス草の研究が終わったのじゃよ!!」



「おぉ!!思ってたより早かったですね!!」



「うむ!!これは画期的じゃぞ!!ここで育つイーリス草は…」



それはとても長く複雑な研究発表だった。

掻い摘んで要約すると…



まず、ここのイーリス草は魔素の代わりに聖気で構成されている。

聖気とは、教会の司祭や聖職者が纏うTPの変異種のようなものらしい。

イザベルが“神の御加護“を行使する時に溢れ出ていたものが聖気に当たるそうだ。



また、この世の薬師は色々な回復効果を持つ薬草をブレンドして回復薬を調合していると話していたが…

ここのイーリス草は、単体で十分な効果を発揮するらしい。



さらに通常の回復薬は1度しか回復効果を得られるのに対し、ここのイーリス草で調合した回復薬は継続的な回復効果を得られるらしい。

具体的に回復薬SSでは毎分HP5,000回復で30分…計HP150,000を回復できるそうだ。



『凄まじい効果だな…』



「どうじゃ??」



「さすが師範です…!!」



「そうじゃろうそうじゃろう!!」



褒められたがっているように見えたので褒めたが、正解だったようだ。

師範は褒められて伸びる子…もとい吸血鬼らしい。



「ふぁぁぁ…妾は疲れたから寝るのじゃ。」



「お疲れ様でした。向こうに簡易的な寝床を作っておきましたから使ってください。」



「助かるのじゃ…」



ふらふらとまるで千鳥足のようになりながら寝床へ歩き、ベッドに倒れるようにして眠りについた。



『…さて、訓練でもするか!!』



それからさらに15日が経った。



師範は5日でティラミ草の研究を終え、キュレム草の研究に移行している。

ここで育つティラミ草の効果は、完全にイーリス草のTPバージョンだった。



師範は少し微妙な顔をしながら、キュレム草の研究に移った。

変化がなくてあまり面白くなかったのだろうか?



俺はというと、身体を動かし足りなくなってきたので調合の頻度を減らして訓練に没頭していた。

とはいえ訓練できるスペースが狭いため、仕方ないので手頃にできる短剣の訓練を始めた。

結果、短剣のスキルLvは0→5まで上昇した。



『片手剣か両手剣の訓練をしたかったけど…まあいいか。』



俺が短剣も使えるようになったと知ったら、クレア達は驚くだろうか?

少なくとも、短剣使いであるアイリスは驚くだろう。



『…今頃何してるんだろう?元気でやってるかな…?』



気になると際限なく考えてしまうので、思考を停止させるべく短剣スキルの反復練習に戻った。



数時間後



「で、弟子よーー!!」



「師範…ついに終わったんですか??」



「うむ!!キュレム草の効果は特に素晴らしいのじゃ!!まず…」



それから3回目の研究発表が始まった。

イーリス草やティラミ草の時よりも難解な説明だった。



掻い摘んで纏めると…



前提として、キュレム草は毒回復や麻痺回復などの効果を持つ他の薬草と混ぜ合わせることで初めて毒回復薬や麻痺回復となるらしい。

しかし、ここで育ったキュレム草は規格外だった。



なんと、キュレム草だけで調合して回復薬が完成したのだ。

しかもそれだけではなく、毒回復薬や麻痺回復薬ではなく状態異常回復薬…

つまり、どんな状態異常も治せる万能な状態異常回復薬が出来たらしいのだ。



「すごい…万能な状態異常回復薬って世界初じゃないですか!?」



「うむ!!学会がどよめくこと間違いなしなのじゃ!!」



『本当にすごい…』



またエレノア=ブラッドボーンの名が世に広がることになるだろう。

師範の功績はこれで一体何個目だろうか?



「ふむ…だがこの階でやることはもう無くなったのじゃ。」



「じゃあ師範も疲れてるでしょうし、今日はゆっくり休んで明日出発しましょうか。」



「うむ!!そうと決まれば妾は寝るのじゃ。」



「はい。おやすみなさい。」



「おやすみなのじゃ。」



俺は疲れるまで訓練してから眠りについた。



翌朝



「…よし、じゃあ出発するのじゃ!!」



「はい!!…ん?」



畑管理ユニットが出口の扉前に、箱を3つ重ねていた。



「餞別デス。3種類ノ薬草ヲドウゾ。」



「ありがとうございます…!!」



それぞれ150枚ずつくらい入っていた。

俺は喜んで“アイテムボックス“に収納した。



「あなたもどうかお元気で。」



「ハイ。」



管理ユニットの顔がどこか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?

…いや、きっと気のせいではないだろう。



「…あの、これお返しです。」



「コレハ何デスカ?」



「首飾りです。きっと似合いますよ。」



「アリガトウゴザイマス。」



管理ユニットは女性的な感情を持っているように感じていたが…

やはりその感覚は間違っていなかったようだ。

装飾品を付け、とても嬉しそうにしている。



「…では行くのじゃ。世話になったのじゃよ。」



「イッテラッシャイマセ。」



深く頭を下げて見送る管理ユニットを背に、俺と師範は地下5階へと続く通路へ出た。
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