黒猫の面影

春顔

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黒い毛玉はスポットライトに照らされて

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 昨日の雨が嘘のように、今日は一日晴れていた。

離任式が雨に降られなくて良かったと思う。

今夜も眠れなくて、月の光を浴びていた。

消灯後の病室に月光は随分明るいと、約一か月の入院生活でもう知っていた。

今日の月は、まるでスポットライトのように、私の右足をくっきりと宵闇に浮かび上がらせる。


 もう、鳴上先生に会えないんだなぁ。

 離任式に出られなかったやるせなさで、それを実感して、涙が出た。

今までと違って、初めて悲しくて泣いた気がする。

自分や、足を責めるのではなく、先生が居なくることが悲しくて泣いた。


 その日は酷く足が痛んで、動けなかった。

 ――一睡も、出来なかった。


 次の日は暖かな春の陽ざしが病室に差し込んで、寝不足の私には昼寝の誘いでしかなかった。

足は昨日の夜から痛むままだが、まるで春の陽ざしが痛みを和らげてくれたようだった。


 私はこっくり、こっくりと舟を漕ぎ始め、重い瞼を閉じて――意識を手放した。

   *   *   *

 目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。

まるで這いつくばっているかのように、体の、視線のすぐ先にコンクリートがあった。

背が縮んだどころの騒ぎじゃない。

今までにないほど低い。
景色も見慣れない。
ここはどこだろう。
夢でも見ているのだろうか。

相変わらず右足だけが痛み、その痛みだけが現実とつないでくれているようだった。

 歩こうと思うと、自然と右手が前に出た。そして、視界には黒い毛玉が現れた。

 ――ん!?
    
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