黒猫の面影

春顔

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名乗ったあの日。

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そんな俺達家族の暮らしは、リーネと俺が出逢ってから十三年が過ぎていた。リーネは二十六(実年齢はたぶん二十五)となり、トーイとイワンもだいたい十四くらい(実年齢はたぶん十三くらい)、カーシャは十(実年齢はたぶん九)になっていた。

そうだ。トーイとイワンももうすぐ<大人>の仲間入りができる年齢なんだよ。

一方でリーネはすっかり<いかず後家>状態だ。でも、それでいい。しかも、イワンはますますリーネのことを真剣に好きになっているようだし。

「僕がリーネを幸せにする!」

堂々とそんなことまで口にするようになって。それに対して彼女は、

「ありがとう。嬉しいよ、イワン」

笑顔で応えてたりもする。

基本的に優男なイワンに比べるとトーイは、鉄を打つ姿もすっかり様になって、体も年齢の割にはがっちりしてきて、<一人前の男>の風格が出てきたな。さらにはトーイが作る品物の質も決して悪くない。まだまだひよっことはいえ、もう立派に<職人>の末席には加われたと思う。

で、カーシャはと言うと、

「リーネ! お鍋が吹きこぼれちゃう!」

竈にかけていた鍋が出す音を聞きつけて、教えてくれた。

「ありがとう! カーシャ!」

礼を口にしながらリーネは鍋を火力の低い方へと移した。

そんな感じで、相変わらず楽しくやってる。そこに、

「あ、マリヤおしっこした」

カーシャが今度は臭いを嗅ぎつけて報せてくれる。

「おお、おお」

俺は慌てて隣の部屋で寝ていたマリヤのところに駆けつける。

マリヤは今年生まれたばかりの赤ん坊だ。麓の村でな。そう。また子供を引き取ってきたんだ。

『男じゃなきゃ要らない』

と言う夫婦の下からな。そこにはもう女の子がいたから、あとは畑仕事に使える男しか要らなかったんだよ。で、

「赤ん坊、要らないかい?」

ってそこの母親が訊いてきたもんだから俺は、

「要らないんなら、貰う」

と、二つ返事で。カーシャも大きくなったし、正直、また子供を育てたくなってたってのもあってな。

ああ、いいよ。子供はいい。こっちのすることがダイレクトに反応として返ってくる。接し方をしくじれば機嫌を損ねるし、逆にハマればすごく喜んでくれる。その上、アントニオ・アークが育てたら、トーイもイワンもカーシャも、ゆかりとはまったく違った子に育ってくれた。特にカーシャは、俺のことが大好きな朗らかな子なんだ。そして彼女がどうしてそんな子に育ってくれたのか、今の俺にはその理由が分かる。

何しろ、彼女には委縮しなきゃならねえ理由がねえんだ。見ず知らずの相手に対しては警戒しても、家族の前では明るくいられてるんだよ。

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