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18、姉、恋バナをする

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「正真正銘、両親が同じ、血の繋がった姉弟です」

 一瞬、褒賞として望まない婚約を結ばれたから、他の女を当てがって解放されたいのかと思った。その考えは彼女の悲しげな顔で即座に否定される。

 はっきりキッパリ否定するも王女様の曇ったお顔は晴れない。そんな非現実的な心配をされるほど仲の良さを披露したか? 覚えがなさすぎて唸った。

「うちの家庭環境が複雑で……姉である私が母代わりでもあったので普通の姉弟とは少し違うかもしれません」

 でも恋とか性愛とか無縁だから安心して。こんなの弟が聞いたら泣くと思う。

 不安そうな王女様には申し訳ないが、弟がちゃんと好かれていることには安心した。この勢いで聞いてしまえ。

「王女様は弟のことを慕ってくれているようですが、愛人についてはどうお考えですか?」

 その質問に黄金の瞳が見開かれた。突然すぎただろうか。でもこの機会を逃したらもっと聞きづらくなりそう。

「えっと、以前弟が悩んでいたようなので。第二、第三夫人を持つことを王女様が容認していると」
「それが身分ある者の慣習ですから」

 困ったような笑顔はどう見ても、歓迎しているものではない。勇者って貴族扱いなんだろうか。ああでも、優秀な遺伝子は残せって思われてそう。

「さっき家庭環境が複雑って言いましたが、父親が女性に不誠実な人で。私たちはとても苦労しました。そんな父親の影響もあって、弟は妻を複数持つことに嫌悪感があるようです」
「愛妾を持つ気はないというのは、わたくしを気遣った発言ではなく……?」
「本当に困ってるんだと思います。嫌なことは嫌だって言った方が弟は喜びますよ」

 私の言葉にキュッと小さな唇が引き締まる。頬を染めて何かを堪えているように見えるのは、嬉しさからだといい。
 よく考えればこの子たちはまだ十六歳なんだよね。異世界の恋愛事情にお姉ちゃんびっくりだ。

 結婚か。これまでは生きることに精一杯で考えたこともなかった。異世界の婚期は早めのようだし。

「就活が終わったら婚活もありかな……」
「シュウカツ? コンカツ?」

 ボソリと呟いた言葉は王女様には理解されず、なんでもないと誤魔化した。





「姉貴、婚活ってどういうこと!?」

 あれから数日。
 ルキと過ごしたのは短い間だったというのに、朝起きて顔が見えない寂しさにも少しずつ慣れてきた。

 王女様とは恐れ多くも呼び捨て合う間柄となり、おかげで弟との仲が深まったと惚気を聞かされたりもした。
 ちなみにベティのとんでもない誤解は二人だけの秘密だ。

 そういえば、弟の姉さん呼びについては、王女様の婚約者として品よく振る舞うための一環だと聞いた。つまりは猫被り。どうせなら常に姉さんと呼べばいいのに。

「何のこと?」
「とぼけんなよ! ベティに聞いたぞ」
「トンカツが食べたいって言ったことかな」
「彼女は賢いからそんな聞き間違いはしない」

 文句に惚気を混ぜられた。ため息しか出ない。

「碧くん、姉に何か言うことは?」
「愛人についてフォローありがとうございます」
「よろしい。相互理解が深まったようで何よりです。はい解散」
「ってならないから!」

 突然部屋に押しかけてきて、詰め寄るほどの話題だろうか。

「この世界って結婚年齢早いみたいだからさ、私も生活が整ったら婿探しでもしようかなと思ってみただけ」
「結婚したい相手ができたわけじゃないの?」
「居候かつ無職の身でそんな余裕があると思う?」

 テオとか近衛、ルキとか魔王とか、なんて関わりのある異性を一通り挙げる弟に呆れた目を向ける。おまけに私が知る近衛兵の半数は既婚だ。姉をどんな節操なしだと思ってるのか。

「別に今すぐ相手を探そうってわけじゃないし、碧くんが気にすることじゃ……」
「姉貴の結婚相手はオレが判断する」

 何言ってんだこの子。





「ちょっと育て方を間違えたかなって思うんですよ……」
「過保護どころではないな」
「おかしいな、去年までは心配症でも聞き分けのいい優しい子だったはず」
「アオバは最初からあの調子だったぞ」

 テオバルト殿下の言葉に思わず疑いの眼差しを向けてしまう。

「出会って間もない頃から、姉に関することだけは饒舌だった」

 聞きたいような聞きたくないような。私の知る十五年が揺らぎそうなのでやめておこう。

 改めて、スキルを判定するために教会へ向かう馬車の中。最近の弟に対する愚痴がつい溢れてしまう。
 今回も同行のテオバルト殿下は、私の愚痴に嫌な顔ひとつせず付き合っている。

 この人は聞き上手だ。王子様相手に愚痴なんて零すつもりなかったのに。

「……すみません、無駄話をしました。忘れてください」
「別に無駄ではない。大事な家族の話だろう」

 さらには率直なんだよなぁ。お世辞などなく、思ったことしか言わない。最初にディスられたと思ったのは自分の勘違いだったと今なら分かる。
 家を紹介してくれると言ったのもきっと言葉の通りで、結婚だなんだと曲解したのは弟の方だ。

「それで結局、婿探しはしないのか?」
「殿下までその話題続けます?」
「勇者の姉の立場はそれなりに人気だと思うが」
「できればそこは隠して相手を探したいですね。ただ当面は考えていません」
「なるほど。考慮しておこう」

 この王子様、家だけではなく婿探しまで面倒見てくれる気なの? いい人すぎない? 頼らないけど。

 ガタガタと荒れた道に入る。あれから体幹トレーニングを重ねたおかげか、今回は多少のふらつきで済んでいる。馬車の揺れに私の腹筋は負けない。

 向かいからの若干心配そうな視線はなぜか私を居た堪れなくさせた。
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