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6、ある日突然勇者になりました(弟視点)

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 高校一年の初め、学校からの帰り道。

 村瀬碧羽は突然異世界に召喚されて勇者に祭り上げられた。


「勇者として魔王に立ち向かい、この世界を救ってもらいたい」

 自分の状況を把握してまず、ふざけるなと思った。

 縁もゆかりもない土地に攫われ勝手に使命を押し付けられて、すんなり言うことを聞く人間がどれほどいるというのだろう。ここにいる大人たちはおめでたい馬鹿ばかりか。
 荒ぶる内心を隠してとにかく状況把握に徹することにした。



 碧羽にはたった一人の家族がいる。
 親を亡くして自分も苦しいだろうに、弟の心配ばかりする三つ歳上の姉。

 今は施設で暮らす学生の自分と、社会人になり一人暮らしを始めた姉は離れ離れになったばかりだった。
 オレが突然いなくなれば当然姉に連絡はいくし、確実に心配する。そしていつものように自分を犠牲にしてもずっと弟を探すはずだ。

 身勝手な理由で人を喚び寄せたこの国の連中は許せないが、ここで自分が死ねば姉を安心させる希望が絶たれる。
 協力するふりをして機会を伺い、絶対に生きて帰るんだと決意した。



 契機が訪れたのは魔王の元へ行くまでの道中、仲間の何気ない一言だった。

「アオバは本当に姉さんが好きだね。いっそこっちに来てもらえば? 僕と同じで親はいないんでしょ」
「国機密事項である召喚術をそう簡単に使えるか」
「けどそれで勇者が国に留まってくれるなら安いもんだって、テオバルトも思うだろ?」
「ラーナ。まるで人質のような言い方は感心しませんわ」
「姫様だって他人事じゃないよね」
「それは……」

 魔法使い、騎士、聖女。年の近い彼らとは比較的よく話した。
 彼らは将来の国を担う人材でも若さゆえか、異世界から来た勇者への負い目を感じさせたから。
 この世界の人間に絆されるものかと意固地になっていたオレに彼らは辛抱強く接してきた。

「別にオレは気にしてないですよ。それにラーナの言う通り、姉さんをこっちに喚ぶのはいいかもしれない。そうなったらテオは協力してくれますか?」
「……俺にできることなら」

 元の世界では後ろ盾もなく、年下である自分は姉にばかり負担をかけていた。
 だがこちらの世界ではどうだろう。自分には人より圧倒的な力があり、うまくいけば金も権力も手に入る。
 この世界で数ヶ月過ごしてみたが特に不便は感じない。問題は姉が馴染めるかどうかだが。

(不都合は全部オレがどうにかすればいい話だ)

 勇者には厳重に伏せられてはいたが、元の世界に帰れないと言うことは薄々感じていた。
 戻れないのなら姉に来てもらおう。

 この時、異世界召喚についてはこちらも利用してやるという気持ちに塗り変わった。

 それならば、少しでも姉の過ごしやすい世界に変えなくては。



 聖女として同行していた第一王女と意気投合したのは想定外であった。
 姉がこの世界で生きていくためのデメリットにはならないだろう。
 ギャップのある美少女に絆された可能性は……黙秘する。

 他に懸念があるとすれば。

「アオバの姉上は随分と愛らしい方だな」
「そうですか? 我ながら身内の欲目もあるかも」

 姉の話を仲間にしすぎただろうか。テオが興味を持つようになってしまった。
 学友に話すノリでいたが、聞き出し上手なこの年上の男はなかなかに油断ならない。悪い奴ではないのだが。
 正直なところ、姉と似た所のある彼に気を許しがちになっている自覚はある。

 テオバルトは第一王子だが、諸事情により王位を継ぐ可能性は低い。

「もし姉貴が興味を持っても悲惨なことにはならないだろうけど……」

 二人が並ぶ姿を想像してみた。なんとなく気に食わない。
 悪い奴ではないとはいえ、国の中枢にいる以上善良な人間ではないし、自分の姉はお人好しだから心配だ。
 あの人は自分をしっかり者だと思っているが結構抜けているところがあるのだ。
 いらない苦労はもうさせたくない。

 まだこの世界が過ごしやすい環境とは言い難いが、最低限の準備を整えて早く無事な姿を見せたいし、見たかった。

 しかし、異世界に喚び寄せた姉にますます興味を惹かれた様子の第一王子を見て、心配が募る一方だ。

「よし、姉貴の結婚相手はオレが慎重に判断しよう」



 弟の方は姉と違い小舅になる気満々であった。
 異世界からの勇者は少々、シスコン気味だった。
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