24 / 59
一章二部
21,要請
しおりを挟む
「明朝、王城より使いが参ります。警備についても合わせてご説明しますので、今夜はこのままでご了承願いたく」
私たちの帰宅に合わせて尋ねてきた王城からの使者は、恭しく要件だけ伝えると帰って行った。
明日の勤務は昼からと伝言を受けたデイヴ様は難しい顔をしている。二人で迎え入れねばならないようだ。
家令も王城からの警備増強以外に詳しいことは聞いていないという。
「今日はとにかく休もう」
考えても仕方ないと、それぞれ部屋に切り上げた。
「今夜が遅いのに、明日も早くなってごめんね」
「それはカナメもでしょ。気にしないで」
朝に訪問では、通いのマーヴィー夫人では間に合わないかもしれない。
身を清め手早く寝る支度を整えながら、明日の服を選ぼうとするエリーを止めた。
「服は一番右にかかっているものにする。身支度の準備も広げておくから、エリーはもう休んで。遅くまでありがとう」
彼女はいまだに制服だ。少し考えたようだけれど、言い合う時間が無駄だと悟ったエリーはお礼と挨拶を告げて部屋へ戻った。
こういうところはお互い楽だと思っている。
日本ほどの寒暖差はないが、こちらにも四季はあり現在王国は肌寒い季節だ。布団を魔法で温めて眠りについた。
日の昇る前に支度を終え、少し眠たそうにしているデイヴ様が見れた私はそれだけで元気いっぱいになった。早起きは三文の得。
いつもならまだ夢の中にいる薄暗い時間に王城からの使いは来た。
第一王子のジェラルド様だった。
「早くからすまない」
応接間で受けた説明によると、先日隣国から正式に聖女への要請を受けたという。これまでも魔法士派遣の打診はあったが、はっきりと「聖女」を求めてきたのはそれが初めてだった。
「午前の謁見までに貴方に話を通しておきたくて無理を言った」
「構いません。詳しい内容をお聞きしても?」
「それが、公国へ赴き助力してほしいとしか言われていない。こちらの出方を伺っているのだろうが……もしくはそれほど切迫した状況なのか」
「公国は結界に守られているのですよね?」
その影響であの魔獣が押し寄せたのだ。
「ああ。国民に危機が迫っているという情報は入っていない」
ではなぜ聖女を必要とするのだろうか。魔道具の経費削減?まさか。
「それでは話になりませんね」
横で一緒に聞いていたデイヴ様が眉を顰めている。心配によるせいもあるのだろうと思えばにやけそうになる顔を必死で堪えた。
「詳細をお話いただけない以上は協力できないとお伝えください」
「あちらが話せば?」
「構いませんよ」
あまりにあっさりと私が了承したからか、殿下が僅かに動揺を見せた。こうしてみると毅然とした国王様はやはり国王様なのだなぁ。いや、私の前では結構オロオロしてた。
「本当にいいのか?」
「外交問題になっては困りますし、王国のためになるのであれば。ただし、あくまで協力です。一時的に力を貸すだけでこの国で行ったように長期に渡る根本的な問題解決はできません。その上で私に求めるものを教えてください」
ずっと自分が助けられるわけではない。それに、
「私はあと四ヶ月ほどで花嫁になる予定なので、個人的に長引くものは困ります」
笑顔で言えば、殿下は面食らったあと、頷いた。
「謁見後に協議をした上でまた伝えに来る」
厳重な警備については、引きこもる必要はないけれど万一に備え体制は強化しておきたいという。公国の使者が滞在している以外に心配事があるのだろう。私に否やはない。
しばらくは王城と魔法師団、教会へ行くくらいにしておこう。
あれ、いつもと大差ないな。
殿下を玄関ホールで見送ればすっかり日が昇っていた。
「先程のはわざとだろう」
「?」どれのことだ。
「花嫁のくだり。快く請け負えばこの国の王族を不安にさせるからと」
そういうつもりはなくもなかったけれど。
「楽しみにしてるのは本当ですからね……」
フォローするためだけではない。少々恨みがましい声になってしまった。
私好みのお顔でにっこりされたところで簡単に絆されたりは――――した。
「お二人とも、朝食になさいますか?」
ホールでそのまま立ち話をしていれば、出勤していたマーヴィー夫人に声をかけられた。
寝起きに軽くつまみはしたが、そこそこ空いている。でも睡魔もそこそこ。
「俺はもう一眠りする。昼と一緒にしてくれ」
「かしこまりました」
「二度寝いいですね……」
私もそうしようかな。
「一緒に寝るか?」
「大丈夫です!」
勢いよくお断りを入れてしまった。だって絶対に眠れるわけがない。寝顔を眺めて呻き悶えない自信もない。
軽い冗談が全力否定されたデイヴ様の繊細な心と夫人の微妙な表情には気づかず、私もお昼と一緒でとお願いした。
私たちの帰宅に合わせて尋ねてきた王城からの使者は、恭しく要件だけ伝えると帰って行った。
明日の勤務は昼からと伝言を受けたデイヴ様は難しい顔をしている。二人で迎え入れねばならないようだ。
家令も王城からの警備増強以外に詳しいことは聞いていないという。
「今日はとにかく休もう」
考えても仕方ないと、それぞれ部屋に切り上げた。
「今夜が遅いのに、明日も早くなってごめんね」
「それはカナメもでしょ。気にしないで」
朝に訪問では、通いのマーヴィー夫人では間に合わないかもしれない。
身を清め手早く寝る支度を整えながら、明日の服を選ぼうとするエリーを止めた。
「服は一番右にかかっているものにする。身支度の準備も広げておくから、エリーはもう休んで。遅くまでありがとう」
彼女はいまだに制服だ。少し考えたようだけれど、言い合う時間が無駄だと悟ったエリーはお礼と挨拶を告げて部屋へ戻った。
こういうところはお互い楽だと思っている。
日本ほどの寒暖差はないが、こちらにも四季はあり現在王国は肌寒い季節だ。布団を魔法で温めて眠りについた。
日の昇る前に支度を終え、少し眠たそうにしているデイヴ様が見れた私はそれだけで元気いっぱいになった。早起きは三文の得。
いつもならまだ夢の中にいる薄暗い時間に王城からの使いは来た。
第一王子のジェラルド様だった。
「早くからすまない」
応接間で受けた説明によると、先日隣国から正式に聖女への要請を受けたという。これまでも魔法士派遣の打診はあったが、はっきりと「聖女」を求めてきたのはそれが初めてだった。
「午前の謁見までに貴方に話を通しておきたくて無理を言った」
「構いません。詳しい内容をお聞きしても?」
「それが、公国へ赴き助力してほしいとしか言われていない。こちらの出方を伺っているのだろうが……もしくはそれほど切迫した状況なのか」
「公国は結界に守られているのですよね?」
その影響であの魔獣が押し寄せたのだ。
「ああ。国民に危機が迫っているという情報は入っていない」
ではなぜ聖女を必要とするのだろうか。魔道具の経費削減?まさか。
「それでは話になりませんね」
横で一緒に聞いていたデイヴ様が眉を顰めている。心配によるせいもあるのだろうと思えばにやけそうになる顔を必死で堪えた。
「詳細をお話いただけない以上は協力できないとお伝えください」
「あちらが話せば?」
「構いませんよ」
あまりにあっさりと私が了承したからか、殿下が僅かに動揺を見せた。こうしてみると毅然とした国王様はやはり国王様なのだなぁ。いや、私の前では結構オロオロしてた。
「本当にいいのか?」
「外交問題になっては困りますし、王国のためになるのであれば。ただし、あくまで協力です。一時的に力を貸すだけでこの国で行ったように長期に渡る根本的な問題解決はできません。その上で私に求めるものを教えてください」
ずっと自分が助けられるわけではない。それに、
「私はあと四ヶ月ほどで花嫁になる予定なので、個人的に長引くものは困ります」
笑顔で言えば、殿下は面食らったあと、頷いた。
「謁見後に協議をした上でまた伝えに来る」
厳重な警備については、引きこもる必要はないけれど万一に備え体制は強化しておきたいという。公国の使者が滞在している以外に心配事があるのだろう。私に否やはない。
しばらくは王城と魔法師団、教会へ行くくらいにしておこう。
あれ、いつもと大差ないな。
殿下を玄関ホールで見送ればすっかり日が昇っていた。
「先程のはわざとだろう」
「?」どれのことだ。
「花嫁のくだり。快く請け負えばこの国の王族を不安にさせるからと」
そういうつもりはなくもなかったけれど。
「楽しみにしてるのは本当ですからね……」
フォローするためだけではない。少々恨みがましい声になってしまった。
私好みのお顔でにっこりされたところで簡単に絆されたりは――――した。
「お二人とも、朝食になさいますか?」
ホールでそのまま立ち話をしていれば、出勤していたマーヴィー夫人に声をかけられた。
寝起きに軽くつまみはしたが、そこそこ空いている。でも睡魔もそこそこ。
「俺はもう一眠りする。昼と一緒にしてくれ」
「かしこまりました」
「二度寝いいですね……」
私もそうしようかな。
「一緒に寝るか?」
「大丈夫です!」
勢いよくお断りを入れてしまった。だって絶対に眠れるわけがない。寝顔を眺めて呻き悶えない自信もない。
軽い冗談が全力否定されたデイヴ様の繊細な心と夫人の微妙な表情には気づかず、私もお昼と一緒でとお願いした。
10
お気に入りに追加
759
あなたにおすすめの小説
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
もう、振り回されるのは終わりです!
こもろう
恋愛
新しい恋人のフランシスを連れた婚約者のエルドレッド王子から、婚約破棄を大々的に告げられる侯爵令嬢のアリシア。
「もう、振り回されるのはうんざりです!」
そう叫んでしまったアリシアの真実とその後の話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
愛しているのは王女でなくて幼馴染
岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる