真昼の月面着陸

五十嵐 柚木

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2.探し物

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 「チーちゃん先生、この本ってありますか?」
そう言って先輩はスマホをこちらへ向けてくる。
「あーこの本ね。高斗タカト、段ボールの中にこれ入ってなかった?」
そう言ってスマホの画面をこちらに見せる。僕は見せられた本を探して段ボールを探すが、いくら探しても出てこなかったので、
「この箱の中にはないな、ちょっと別のところ探してくる」
そう言って立ち上がると、
「いえ、大丈夫ですよ。無いのなら後日借りにきます」
そう言って立ち去ろうとする先輩。
「ちょ、待って」
僕は手を取って先輩を引き留めていた。
「おぉ、大胆だねぇ高斗」
その姉さんの声で自分の行動を理解して、手を勢いよく離す。
「すみません」
「いえ、私が無愛想だったのが問題なので。私こそすみません」
では。と言って立ち去ろうとする先輩。その後ろ姿を見ていることしかできなかった。
 「姉さん、残りは明日でいいか?」
「えー、明日も私残らなきゃいけないの~?」
「飯今度奢るからさ」
「仕方ないなぁ、焼肉ね」
「高えよ、安めの焼肉でいいならいいけど」
「交渉成立」
「んじゃ僕、さっきの本探してくるわ」
そう言うと姉さんは目を見開き、すぐにニヤニヤした表情に変え、
「惚れた?」
そう聞いてくる。
「ちげぇよ、去る時の先輩の顔、何か寂しそうだったから。力になりたいなって思ったんだよ」
そっか。と淡白な返事が返ってくる。
 そうして僕らは日が暮れるまで本を探していた。
「あった」
僕の声に姉さんは体をびくつかせ、駆け寄ってくる。
「本当にあったんだ。しかし、これを探してたとはねぇ」
僕の手に握られていた本は、月のことが詳しく書かれていた本で、所謂図鑑というやつだ。
「最近の若い子の考えてる事はわかりませんなぁ~」
はは~と変なため息をつきながらそんな年寄りみたいなことを言う姉さん。
「何言ってんの、姉さんも充分若いだろ」
「あんたねぇ、24にもなってみなさいよ。時間なんてあっという間に過ぎるんだから」
「んなこと言っても時間は勝手に過ぎるもんだし、その時間をドブに捨ててんのは姉さんだろ?」
そう僕が言うと、
「時間は私、有意義に使ってます~」
そんな小学生みたいな反論をしてくるので、
「姉さん普通に黙ってればもう結婚できそうなのにね」
「喋ってたらモテないみたいな言い草やめてよ」
「実際そうじゃん、立て場芍薬、座れば牡丹、しゃべる姿はクソ外道」
「誰が外道よ、誰が」
「はいはい、やること終わったから僕、帰るから。んじゃまた明日、センセ」
「はぁ、また明日ね」
そんな口論を終え、僕は帰路へ向かうのだった。
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