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18話 爆ぜる気持ち

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 ダンジョンへ向けて駆ける最中、ノルくんが落ちこんだように下を向いた。

「ごめん。俺、冷静じゃなかったよな。いつも応援してくれてるみんなのことを怒鳴るなんて」
「ノーブル……」

 ノルくんの気持ちは痛いほどにわかる。
 一緒にいた時間が長いからこそ、グラさんも言葉選びに悩んでるみたい。

「なに言ってるの? あそこで怒らなきゃ、ノーブルじゃないよ」

 私の口から、言葉が出てきたのは本当に自然なこと。
 グラさんも、ノルくんでさえ目を丸くしてる。
 うん、私だってびっくりしてるもん。

「ノーブル、あなたはサグズ・オブ・エデンに憧れて冒険者になった。そうだよね?」
「ああ、そうだよ」
「そんなに大事な人たちを目の前で蔑ろにされたんだよ? 今日だけでなく、これまでに何度もね」

 ここ数日、ずっと。
 誰かに操られてからというもの、バドさん含めサグズ・オブ・エデンのみんなが街の人から攻撃対象になる機会が増えた。
 その出来事は、私でさえ気持ちのいいものじゃなかったもの。

 それが、ノルくんだったらどうだろう。
 絶対に、私以上に不快だったはず。

「今まで溜まり続けてたフラストレーションが、たまたま今日爆発した。ただそれだけの話だと思うの」
「コヤケさん……」

 私の言葉を聞いて、ノルくんは驚きと安堵がまざったような顔で私に視線をくれた。
 私の気持ち、届いたみたい。
 それはグラさんも同じだったみたいで。

「まさか、コヤケさんに発破をかけられるなんて思ってもみませんでしたよ……。まあ、誰にだって触れられたくない部分や、繊細な部分があるということです。それに、あなたが本当にいかるべき相手は他にいるんじゃないんですか?」
「……! そう、だな」

 バドさんが言っていた、裏で高見の見物をしている誰か。
 サグズ・オブ・エデンを陥れて、最終的にはノルくんの命を奪おうと狙っている今回の黒幕。

「ええ、そうです。だから、そんな奴らは全員ぶっ飛ばして平和を取り戻しましょう」
「なんていうか、お前にしては珍しい言葉選びだな」
「ええ。だって、今の言葉は全てコヤケさんが言っていたことですから」
「わ、私!?」

 思ってもない方向から火が飛んできてびっくり。
 多分、グラさんなりにこの場を和ませようとした結果だと思うけどね。

「あなたも気張らなければいけないんですよ? 今回のダンジョン攻略、間違いなく正念場なんですから」

 そう、ノルくんにとって大きな敵だけど、それは私にとっても同じこと。
 目的はわからないけど、ノルくんの命を奪おうとした犯人。
 その人を倒すことが今、私がこの場所にいる理由。

 なにも話していないのに、グラさんは私にとって大事な戦いになることを悟ってた。
 ほんと、どこまで察しがいいの……。

「……は、はは! ほんとにその通──」

 返事をして、言葉と一緒に一歩踏み出そうとしたときだった。
 私たちの足元に、魔法陣が展開された。

「はい、到着です。そんなことでウジウジしている暇があったら、さっさとダンジョンを攻略するエネルギーにしてくれません?」

 再び目を開いたとき、私たちはダンジョンの前まできていた。

「お前な……。先に言えよ……」

 いつも振り回されがちなグラさんだけど、たまにこうやって私たちに仕返しをする。
 もちろん、仕返す気持ちもあるんだろうけど、今回は違う。

「まあ、でも──」

 迷って、気持ちの定まらないノルくんを鼓舞するためのもの。
 まあ、やり方がむちゃくちゃなのは突っ込みどころだけど。

「──おかげで、いい喝が入ったよ」
「そうでしょう? 感謝してくれたっていいんですよ」
「このダンジョンから無事帰れたら、いくらでもするよ」

 いつも通りのやりとりに、思わずほっこりしちゃう。うん、いつものふたりだ。
 すると、ノルくんの視線は私の方へ。

「コヤケさんも。ありがとな、おかげで元気出た」
「う、うん! これぐらいお安い御用だよ。いくらでも頼って?」

 私の言葉に笑みを浮かべ、視線を前へ。
 一度大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。
 眼前にはダンジョンの入り口。

 見ている私たちを吸い込んできそうだった。
 正直、ものすごく怖い。
 だって、みんなが恐れて攻略をためらうようなダンジョンだよ?
 そこに、私たち三人で行こうってなってるんだもん。

 ふたりとダンジョン攻略ができることはすごく嬉しい。
 でも、この世界に来てまだ日が浅い私が今、最強に難易度に高いダンジョンへ向かおうとしてるんだもん。
 原作を知っているからこそ、一層恐怖を感じるっていうこともあるのかもしれない。

 ──それでも。

 私は、絶対に負けられない。
 相手はノルくんの嫌がることを、なにひとつわかってないんだよ?
 そんな奴に、絶対負けないんだから……!

「──よし! 行くぞ!!」

 全てを吹き飛ばすように、ノルくんが声をあげる。
 先頭を歩くその背中は、本当に頼もしかった。
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