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誰かがいる
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実験机の上で、俺はミウちゃんと対面座位の状態で抱き合ったまま余韻に浸っていた。
薬の効果はすでに切れている。
だが、俺はミウちゃんをずっと抱きしめていたかった。
いけない! これでは奴らの思う壺だ。
ミウちゃんの背中に回していた手を離した。
しかし、ミウちゃんは俺の背に回した手を離そうとしない。
「ミウちゃん。もう薬の効果は無くなったよ」
すると、ミウちゃんは潤んだ瞳で俺を見上げる。
どうしたのだ?
「お兄さん」
「どうしたの?」
「もうしばらく、こうしていてはダメですか?」
「え?」
「薬は関係ないです。こうしていると、すごく幸せです」
「そうか」
俺はもう一度ミウちゃんを抱きしめた。
「しばらく、こうしていよう」
「はい。でも、迷惑ではないですか?」
「いいや。僕も気持ちいいよ。ただ、あいつらの思い通りになるのが悔しいだけだ」
「宇宙人さんですか?」
「そうだよ」
「あたし達、地球に帰るのでしょうか?」
「帰れるさ」
根拠はないけど、ここはそういうしかない。
「お兄さんは、帰りたいですか?」
「え? そんなの……」……帰りたい? 果たしてそうだろうか?
地球にいた時、俺は幸せだったか?
大学を卒業しても、就職できたのは小さな工場。
高卒の先輩から無能呼ばわりされる屈辱の日々。
親からは「早く結婚しろ」と言われるが、結婚して家族を養える収入なんかない。
無料で読めるネット小説だけが唯一の楽しみ。
そんな生活が幸せだと言えるだろうか?
「あたし……帰りたくありません」
え?
「ミウちゃん。何を……」
「あたし、学校で苛められていました。もうあんな辛いところ、行きたくありません」
「ミウちゃん」
俺はミウちゃんの頭を撫でていた。
可哀そうに……
「お兄さん。学校って行かなきゃダメなのですか? 家で勉強していちゃだめなのですか?」
「それは……」
「お父さんとお母さんにそれを言うと怒られました。学校に行きたくても行けない子がいるというのに、なんて贅沢な事を言うんだと……」
ひどい……
「学校に行きたくても行けない子ってなんですか? そんな子どこにいるのですか? あたし知りません」
「外国にいるんだよ。貧しくて学校にいけないとか、女は教育を受ける必要なんかないとか言っている人がいるような国で……」
「ミウは日本人です。外国の人なんか知りません。学校に行けない外国の子が可哀そうなら、学校でイジメられているミウは可哀そうじゃないのですか?」
「ミウちゃん」
俺はミウちゃんをそっと抱きしめた。
「学校に行きたくても、行けない子は可哀そうかもしれません。でも、その子達は学校に行ったことがないから知らないのです。学校が、どんなにひどいところか」
助けたい。この子を……
「でも、学校に友達も……」
「アユちゃんという友達がいました。でも、クラスが違うのです。アユちゃんも、そのクラスの中で苛められています」
「……」
俺は何も言う事が出来なかった。『こうすればいい』という解決策があるなら言いたい。だが、そんな都合のいい解決策なんてない。
学校でいじめられるなら、学校に行かないという手も、フリースクールという手もある。だが、それだって本当に解決になるか分からないし、それより、そういう事をするには親の理解が必要だ。
ミウちゃんの親は、苛められているミウちゃんの辛さが理解できていないようだ。
あるいは、この世界でずっと過ごすのも、一つの解決策かもしれない。
「みゃうう」
考え込んでいると、猫が実験机の上に飛び乗ってきた。
俺の足にすり寄ってくる。
「可愛い」
ミウちゃんは俺から手を離して、猫を撫でた。
「お兄さん、この子も飼っていいですか?」
「え? いや構わないけど、これだけ人に懐いているという事は、誰か可愛がっている人……」……いるわけないか……
いや……もしかして……
「ミウちゃん。僕達以外に誰かいるかもしれない」
「ええ?」
長い廊下を猫が歩いていた。
その後を俺とミウちゃんはつけている。
猫は時々立ち止まっては、俺達の方をふり向く。
「にゃあ」
一鳴きして再び歩き出す。
まるで『ついて来い』と言わんばかりに……
いや、実際にどこかに案内しようとしているんだ。
俺達が車で乗り付けた時から、この猫は俺達をどこかに案内したかったのかもしれない。
それに気が付かないで、俺達は理科室に行ってしまった。
猫はそれでも、俺達が気付くまで待っていたのか?
「ミウちゃん。最初に学校に来たとき、誰もいなかったんだね?」
「ええ。でも、あたし自分のクラスと、アユちゃんのクラスしか見に行かなかったし……それと職員室。先生がいないので、学校から出て行きました」
これだけ広い学校だ。ミウちゃん一人で全部見て回れるわけがない。
猫は階段を降りていった。やがて、一階にたどり着く。
そして一つの扉の前で立ち止まった。保健室だ。
「にゃあ」
ここを開けという事だろうか?
確かに学校の中で、人が寝泊まりするとしたらここが一番いいかもしれない。
扉を開くと、薬の臭いが漂ってきた。
「あ! あ! あ!」
ベッドの方から喘ぎ声が聞こえる。
ミウちゃんと同じ年頃の女の子が、アヘ顔になって股間を弄っていた。
この子の顔を見てミウちゃんは驚く。
「アユちゃん!」
薬の効果はすでに切れている。
だが、俺はミウちゃんをずっと抱きしめていたかった。
いけない! これでは奴らの思う壺だ。
ミウちゃんの背中に回していた手を離した。
しかし、ミウちゃんは俺の背に回した手を離そうとしない。
「ミウちゃん。もう薬の効果は無くなったよ」
すると、ミウちゃんは潤んだ瞳で俺を見上げる。
どうしたのだ?
「お兄さん」
「どうしたの?」
「もうしばらく、こうしていてはダメですか?」
「え?」
「薬は関係ないです。こうしていると、すごく幸せです」
「そうか」
俺はもう一度ミウちゃんを抱きしめた。
「しばらく、こうしていよう」
「はい。でも、迷惑ではないですか?」
「いいや。僕も気持ちいいよ。ただ、あいつらの思い通りになるのが悔しいだけだ」
「宇宙人さんですか?」
「そうだよ」
「あたし達、地球に帰るのでしょうか?」
「帰れるさ」
根拠はないけど、ここはそういうしかない。
「お兄さんは、帰りたいですか?」
「え? そんなの……」……帰りたい? 果たしてそうだろうか?
地球にいた時、俺は幸せだったか?
大学を卒業しても、就職できたのは小さな工場。
高卒の先輩から無能呼ばわりされる屈辱の日々。
親からは「早く結婚しろ」と言われるが、結婚して家族を養える収入なんかない。
無料で読めるネット小説だけが唯一の楽しみ。
そんな生活が幸せだと言えるだろうか?
「あたし……帰りたくありません」
え?
「ミウちゃん。何を……」
「あたし、学校で苛められていました。もうあんな辛いところ、行きたくありません」
「ミウちゃん」
俺はミウちゃんの頭を撫でていた。
可哀そうに……
「お兄さん。学校って行かなきゃダメなのですか? 家で勉強していちゃだめなのですか?」
「それは……」
「お父さんとお母さんにそれを言うと怒られました。学校に行きたくても行けない子がいるというのに、なんて贅沢な事を言うんだと……」
ひどい……
「学校に行きたくても行けない子ってなんですか? そんな子どこにいるのですか? あたし知りません」
「外国にいるんだよ。貧しくて学校にいけないとか、女は教育を受ける必要なんかないとか言っている人がいるような国で……」
「ミウは日本人です。外国の人なんか知りません。学校に行けない外国の子が可哀そうなら、学校でイジメられているミウは可哀そうじゃないのですか?」
「ミウちゃん」
俺はミウちゃんをそっと抱きしめた。
「学校に行きたくても、行けない子は可哀そうかもしれません。でも、その子達は学校に行ったことがないから知らないのです。学校が、どんなにひどいところか」
助けたい。この子を……
「でも、学校に友達も……」
「アユちゃんという友達がいました。でも、クラスが違うのです。アユちゃんも、そのクラスの中で苛められています」
「……」
俺は何も言う事が出来なかった。『こうすればいい』という解決策があるなら言いたい。だが、そんな都合のいい解決策なんてない。
学校でいじめられるなら、学校に行かないという手も、フリースクールという手もある。だが、それだって本当に解決になるか分からないし、それより、そういう事をするには親の理解が必要だ。
ミウちゃんの親は、苛められているミウちゃんの辛さが理解できていないようだ。
あるいは、この世界でずっと過ごすのも、一つの解決策かもしれない。
「みゃうう」
考え込んでいると、猫が実験机の上に飛び乗ってきた。
俺の足にすり寄ってくる。
「可愛い」
ミウちゃんは俺から手を離して、猫を撫でた。
「お兄さん、この子も飼っていいですか?」
「え? いや構わないけど、これだけ人に懐いているという事は、誰か可愛がっている人……」……いるわけないか……
いや……もしかして……
「ミウちゃん。僕達以外に誰かいるかもしれない」
「ええ?」
長い廊下を猫が歩いていた。
その後を俺とミウちゃんはつけている。
猫は時々立ち止まっては、俺達の方をふり向く。
「にゃあ」
一鳴きして再び歩き出す。
まるで『ついて来い』と言わんばかりに……
いや、実際にどこかに案内しようとしているんだ。
俺達が車で乗り付けた時から、この猫は俺達をどこかに案内したかったのかもしれない。
それに気が付かないで、俺達は理科室に行ってしまった。
猫はそれでも、俺達が気付くまで待っていたのか?
「ミウちゃん。最初に学校に来たとき、誰もいなかったんだね?」
「ええ。でも、あたし自分のクラスと、アユちゃんのクラスしか見に行かなかったし……それと職員室。先生がいないので、学校から出て行きました」
これだけ広い学校だ。ミウちゃん一人で全部見て回れるわけがない。
猫は階段を降りていった。やがて、一階にたどり着く。
そして一つの扉の前で立ち止まった。保健室だ。
「にゃあ」
ここを開けという事だろうか?
確かに学校の中で、人が寝泊まりするとしたらここが一番いいかもしれない。
扉を開くと、薬の臭いが漂ってきた。
「あ! あ! あ!」
ベッドの方から喘ぎ声が聞こえる。
ミウちゃんと同じ年頃の女の子が、アヘ顔になって股間を弄っていた。
この子の顔を見てミウちゃんは驚く。
「アユちゃん!」
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