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玖
強制捜査3
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俺の話を聞いて、女の顔がサッと青ざめた。
「私たちを……追い出しにきたのですか?」
俺は首を横に振った。
「いいえ。追い出す事はできません」
「え?」
「このシェルター建設には、政府が助成金を出しています。助成金を受けたオーナーは、可能な限り避難民を受け入れる義務があります。あなた方は、オーナーの許諾なくここに入りましたが、それは緊急避難として認められます。外が安全になるまでは、ここにいる権利があります」
「そうだったのですか?」
「ただ、身分詐称は困りますね」
「身分詐称?」
「このシェルターに、札幌政府から電話がありましたね。その時に電話口に出た人は、初狩信夫と名乗りました。しかし初狩氏は、さっきも言った通り六本木にいます。いったい電話口に出たのは、誰なのです?」
電話に出た声は、明らかに男性だったという。ボイスチェンジャーを使っている形跡もなかった。
俺はシェルター内を見回した。キララにも赤外線サーチをさせたが、これ以上隠れている人間はいないようだ。
「見たところ、この中には、大人の男性はいないようですね。電話に出たのは誰です?」
「そ……それは……」
しどろもどろになる母親に、娘が食ってかかった。
「お母さん! だから、正直に言おうって言ったのに! あんな事をするから……」
「そんな事言ったって……正直に言ったら……追い出されると思って……」
この母親、虚言癖がありそうだな。
母親よりは、正直そうな娘に聞くことにした。
「君、お母さんは何をやったのだね?」
「電話がかかってきたとき、お父さんはお風呂に入っていると嘘をついて、近所の男の人を呼んで、代わりに電話に出てもらったのです」
「なんだって?」
さっき周辺で聞き込みをやった時は、みんな初狩家と交流はないと言っていた。
その中の誰かが嘘をついている。しかし、なぜ、そんな嘘をつく必要が……?
「君。その男から、謝礼を要求されたのではないのか?」
「はい」
恐らく『謝礼』なんて可愛いレベルの物じゃなかったのだろう。この親子の弱みに付け込んで、ほぼ根こそぎ食料を持っていったな。そういう後ろめたい事があるので嘘をついたのか。
調べてみると、このシェルターには三日分の食糧しか残っていなかった。
「私たちを……追い出しにきたのですか?」
俺は首を横に振った。
「いいえ。追い出す事はできません」
「え?」
「このシェルター建設には、政府が助成金を出しています。助成金を受けたオーナーは、可能な限り避難民を受け入れる義務があります。あなた方は、オーナーの許諾なくここに入りましたが、それは緊急避難として認められます。外が安全になるまでは、ここにいる権利があります」
「そうだったのですか?」
「ただ、身分詐称は困りますね」
「身分詐称?」
「このシェルターに、札幌政府から電話がありましたね。その時に電話口に出た人は、初狩信夫と名乗りました。しかし初狩氏は、さっきも言った通り六本木にいます。いったい電話口に出たのは、誰なのです?」
電話に出た声は、明らかに男性だったという。ボイスチェンジャーを使っている形跡もなかった。
俺はシェルター内を見回した。キララにも赤外線サーチをさせたが、これ以上隠れている人間はいないようだ。
「見たところ、この中には、大人の男性はいないようですね。電話に出たのは誰です?」
「そ……それは……」
しどろもどろになる母親に、娘が食ってかかった。
「お母さん! だから、正直に言おうって言ったのに! あんな事をするから……」
「そんな事言ったって……正直に言ったら……追い出されると思って……」
この母親、虚言癖がありそうだな。
母親よりは、正直そうな娘に聞くことにした。
「君、お母さんは何をやったのだね?」
「電話がかかってきたとき、お父さんはお風呂に入っていると嘘をついて、近所の男の人を呼んで、代わりに電話に出てもらったのです」
「なんだって?」
さっき周辺で聞き込みをやった時は、みんな初狩家と交流はないと言っていた。
その中の誰かが嘘をついている。しかし、なぜ、そんな嘘をつく必要が……?
「君。その男から、謝礼を要求されたのではないのか?」
「はい」
恐らく『謝礼』なんて可愛いレベルの物じゃなかったのだろう。この親子の弱みに付け込んで、ほぼ根こそぎ食料を持っていったな。そういう後ろめたい事があるので嘘をついたのか。
調べてみると、このシェルターには三日分の食糧しか残っていなかった。
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