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第五章
関所(三人称)
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(この話は三人称になります)
木の国の都は、特に城壁に囲まれてはいないが、周囲は鬱蒼とした森に囲まれている。
都には東西南北に四ヵ所の入り口があったが、出入りは自由で特に入国審査のようなものはなかった。今までは……
「そこの馬車。止まれ」
街道に設けられた関所で、一台の馬車が止められた。呼びとめたのは、赤い皮鎧を纏った兵士たち。
馬車の御者台にいた老人が、珍しげな視線を関所に向ける。
「これはこれは。いつから、木の国は金の国のような関所を設けるようになったのかな?」
兵士は面倒くさそうに答える。
「七日ほど前からだ。いいから、お前の名前と入国目的を言え」
「身分証があるが……」
「あるなら出せ。その方が早い」
「うむ」
老人は懐から木札を差し出した。
「ん?」
兵士は木札を一瞥する。
「この国の者か。魔法使い?」
兵士は書類の束を調べた。一枚の書類を見て顔色を変える。顔色と一緒に態度も変わる。
「あなたは、アルベルト殿? 森の中でモンスターに襲われて、安否不明になったと書類にありますが……ご無事だったのですか?」
「この通り足はある。フィリス殿に洞窟に置き去りにされて、危うく死ぬところだったわ」
「それは、災難でしたな」
「とにかく、都に入ったらフィリス殿に違約金を請求するつもりだ。なので、早く通してもらいたい」
「もちろん、荷物と同行者に問題がなければ、お通ししますが、違約金は無理でしょう」
「なぜだ?」
「ご存じなかったのですか?」
「私は洞窟を出た後、身体が回復するまでずっと森の民の元に身を寄せていた。この馬車を手に入れてやっと帰って来れたばかりなのに、都の事情など知るわけないだろう」
「ごもっともで。実はフィリス様は、ウッド・ゴーレム隊を指揮して出撃したまま帰って来られないのです」
「ウッド・ゴーレムだと? 完成していたのか? しかし、帰って来ないとは、どういう事だ?」
「さあ? 向こうに、駐留しているのではないかと……」
「そんなばすはない、ウッド・ゴーレムは三日しか動けない……しまった!」
兵士は、老人に怪訝な視線を向ける。
「どうかしましたか?」
「おぬしら。今、聞いたことは忘れろ」
「はあ?」
「ウッド・ゴーレムが三日しか動けないという事だ。私はウッド・ゴーレムの開発に携わっていたから知っておるが、この事は国家機密だ。喋ってしまった私も罰せられるが、知ってしまったおぬしらも消されるぞ」
兵士の顔がサッと青くなる。
「分かりました。この事は忘れます」
「うむ。では、さっさと馬車を検めてくれ」
このやっかいな馬車には早く行ってもらいたい。そんな思いから、兵士たちの検め作業はかなりぞんざいになってしまった。
(次回からランドールの一人称に戻ります)
木の国の都は、特に城壁に囲まれてはいないが、周囲は鬱蒼とした森に囲まれている。
都には東西南北に四ヵ所の入り口があったが、出入りは自由で特に入国審査のようなものはなかった。今までは……
「そこの馬車。止まれ」
街道に設けられた関所で、一台の馬車が止められた。呼びとめたのは、赤い皮鎧を纏った兵士たち。
馬車の御者台にいた老人が、珍しげな視線を関所に向ける。
「これはこれは。いつから、木の国は金の国のような関所を設けるようになったのかな?」
兵士は面倒くさそうに答える。
「七日ほど前からだ。いいから、お前の名前と入国目的を言え」
「身分証があるが……」
「あるなら出せ。その方が早い」
「うむ」
老人は懐から木札を差し出した。
「ん?」
兵士は木札を一瞥する。
「この国の者か。魔法使い?」
兵士は書類の束を調べた。一枚の書類を見て顔色を変える。顔色と一緒に態度も変わる。
「あなたは、アルベルト殿? 森の中でモンスターに襲われて、安否不明になったと書類にありますが……ご無事だったのですか?」
「この通り足はある。フィリス殿に洞窟に置き去りにされて、危うく死ぬところだったわ」
「それは、災難でしたな」
「とにかく、都に入ったらフィリス殿に違約金を請求するつもりだ。なので、早く通してもらいたい」
「もちろん、荷物と同行者に問題がなければ、お通ししますが、違約金は無理でしょう」
「なぜだ?」
「ご存じなかったのですか?」
「私は洞窟を出た後、身体が回復するまでずっと森の民の元に身を寄せていた。この馬車を手に入れてやっと帰って来れたばかりなのに、都の事情など知るわけないだろう」
「ごもっともで。実はフィリス様は、ウッド・ゴーレム隊を指揮して出撃したまま帰って来られないのです」
「ウッド・ゴーレムだと? 完成していたのか? しかし、帰って来ないとは、どういう事だ?」
「さあ? 向こうに、駐留しているのではないかと……」
「そんなばすはない、ウッド・ゴーレムは三日しか動けない……しまった!」
兵士は、老人に怪訝な視線を向ける。
「どうかしましたか?」
「おぬしら。今、聞いたことは忘れろ」
「はあ?」
「ウッド・ゴーレムが三日しか動けないという事だ。私はウッド・ゴーレムの開発に携わっていたから知っておるが、この事は国家機密だ。喋ってしまった私も罰せられるが、知ってしまったおぬしらも消されるぞ」
兵士の顔がサッと青くなる。
「分かりました。この事は忘れます」
「うむ。では、さっさと馬車を検めてくれ」
このやっかいな馬車には早く行ってもらいたい。そんな思いから、兵士たちの検め作業はかなりぞんざいになってしまった。
(次回からランドールの一人称に戻ります)
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「死神幼女に勧誘されて異世界のスライムに転生。早く人間になりたい!」エロ要素を抜いてこちらのサイトに載せてみました。よろしければブックマークなどの応援お願いします。
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