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ニセ保安官

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「ほえ!? お兄ちゃんのニセ物が現れたの?」

 大急ぎで家のシェルターに戻ってから、まだ学習室(使っていない小部屋の一つを仮想現実バーチャルリアリティ専用にした部屋)からバーチャルスクールに行っているミクちゃん、香奈ちゃんをリビングに呼んで経緯を話した。とにかく、保安官の正体を知っている人達には、一刻も早く俺のニセ者がいること伝えておいた方がいいと思ったからだ。

 なので、羽瀬理ちゃんには、お母さんと瀬露理さんに、このことを知らせるために大急ぎで如月シェルターへ戻ってもらった。

 ミクちゃん香奈ちゃんには伝えたし、リンちゃんは昨日から知っているし……アキラが研修の為に保安施設に泊まり込みだったな。こいつにも後で伝えないと……

「でも、お兄ちゃん。ニセ者が出るなんて、なんかカッコいいね」
「ミクちゃん。全然かっこよくないって」
「そうかな?」

 ミクちゃんは香菜ちゃんの方へ見て、同意を求める。

「でも、お兄さん。ニセ者が出ると言うことは、お兄さんがそれだけ大物だという事ですよ」
「香奈ちゃんまで。いいかい、奴が僕のニセ者をやったのは、無銭飲食のためだったのだから。セコイ小悪党だ。全然かっこよくない」
「そうですか」
「さあ。話は済んだから、二人とも学校に戻って」
「はあい」

 ミクちゃんは、学習室に戻っていった。しかし、香奈ちゃんは何か考え込んで、リビングから出ていかない。

「香奈ちゃん。早く学校に戻らないと」

 不意に香奈ちゃんが俺を見つめた。

「お兄さん。本当に無銭飲食だけでしょうか?」
「え?」
「だって、無銭飲食なら得をするのは、そのニセ者本人だけじゃないですか。レストランで乱暴を働いた五人組は、何もメリットがありません」

 確かに……食った物を戻して分け前を与えるわけないな。リカオンじゃあるまいし……

「無銭飲食はついでで、やはり萌さんからお金を騙し取るのが目的では……」

 ううん……冷静に考えれば、香奈ちゃんの言う通り……

 スマホの呼び出し音が鳴ったのはその時……相手はアキラだった。

「どうした? アキラ」
『先輩。四人も奥さんがいて、まだ足りないのですか?』
「は? なんの事だ」
『笹子食堂で素顔を晒して、萌ちゃんを口説いているそうじゃないですか』

 うわわ! ブルータス……いや、アキラ、おまえもかい。

『え? ニセ者』
「そうなんだよ。アキラにも、知らせなきゃと思っていたところだ」
『なあんだ、そうだったのか』
「そもそも、アキラは僕の顔を知っているだろう。ニセ者と言ったって、顔は全然違うだろ」
『僕は直接ニセ者を見たわけじゃないですよ。さっき恋さんが笹子食堂に行って、そしたらテーブルが壊れているじゃないですか。で、事情を聞いたら、数日前から保安官が素顔晒して食堂に来ていて、萌ちゃんを口説いているというから』
「それを僕だと思ったわけか?」
『いえ。最初、恋さんは僕がやっていると思ったらしいのですよ。しかし、その男は二十歳ぐらいで凄いハンサムだというから、ああ先輩だなと……』
「僕はやっていない。第一ハンサムでもない」
「自覚してないのですね」

 背後から茶々を入れてきた香奈ちゃんの方を振り向いた。

「学校行ってなさい」
「はあい」

 香奈ちゃんは、トコトコと学習ルームに入っていく。

『だけど、先輩。確かに保安官詐称を取り締まる法律は整備されていませんが、これなら無銭飲食で逮捕できますよ』
「そうだな。だが、できれば萌ちゃんの前での逮捕は避けたい」
『そうですね。このままだと、萌ちゃんが可哀そうだし。でも、いつかはばれますよ』
「萌ちゃんにばれない様に拘留して、その間に拷問してでも改心させてマトモな仕事をさせる。そして、萌ちゃんとは正式にお付き合いさせるというわけには……」
『先輩、本気で言っていますか? 女騙すクズ野郎が、そうそう簡単に改心するぐらいなら、僕らが犯罪者を殺処分する事も……』
「萌ちゃんを裏切りやがったら、即刻殺処分すると念を押して」
『それ、脅迫ですよ。先輩が犯罪者になってしまいますよ』
「ううむ。やっぱダメだよな」
『そもそも、萌ちゃんは先輩に惚れていたのですよ。いっそ先輩が正体明かしたら……』
「これ以上、保安官の素性を知っている人間を増やすのはなあ……」
『いっそ逮捕した後、僕が萌ちゃんのところへ行って『先輩は殉職しました』と告げるというのは』
 
 それが、ベストだな。その後、ニセ保安官を捕まえるための打ち合わせをしてから電話を切った。
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