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四話 進路
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☆ ☆ ☆
そして新学期が始まり、何週間か経ったある日の授業後、担任の森岡がみんなに紙を配った。
「静かにしろ~!今配ったのは進路希望の調査票だ。必ず期日までに提出しろよ~」
そう言うと森岡は教室から出て行った。
すると一気に周りがざわつきはじめた。
「つ~っばさ!」
「わっ、ひとみ!ビックリするじゃない」
名前を呼びながら飛び付いてきたのは同じクラスのひとみ。性格や考え方は翼とは全く違うのだが、何故か馬が合う。だからいつも一緒にいる、翼の一番の親友である。
「へへ、ごめ~ん。翼、どうする?進路」
「あぁ~。どうするんだろうね⋯」
「翼ぁ⋯他人事じゃないんだからさぁ」
ひとみには少しだけ自分の不安や家族に対する不満などを話していた。もちろん、進路に悩んでいることも。だからこそ、ひとみは呆れたような顔で言う。
「えへっ」
「『えへっ』っじゃないよ、翼!」
「はは、冗談だって!」
ケラケラと笑いながら答える翼に、ひとみが真剣な顔をする。
「本当に?」
「多~分!」
「翼!!」
真剣な顔で覗きこまれてもなお、おどけた態度を崩さない翼にひとみが声を上げる。
ひとみが真剣に自分のことを考えてくれているのがわかるからこそ、あまり心配はかけたくない。
「ごめん、ひとみ!今日、行く所あるんだ!また明日ね!」
「ちょっ、つばッ⋯⋯行っちゃった⋯」
足早に立ち去る翼の後ろ姿を見て、ひとみはため息をついた。
☆ ☆ ☆
翼は家ではなく石神神社に向かっていた。
ここのところ学校帰りに夢龍に会いに石神神社へ行くことが日課になっていた。
あの長い階段を登りきると、夢龍がいつものように絵顔で迎えてくれた。
「やぁ、翼ちゃん。今日は早かったね」
「うん⋯ちょっとね」
「⋯元気ないね、どうかしたの?僕でよかったら相談にのるよ?」
夢龍が心配そうに翼の顔を覗き込む。
そして、小さい頃によく座って話をしていた階段に促され、二人並んで座った。
しばらくの沈黙の後、翼は口を開いた。
「⋯実は⋯⋯」
翼は思っていたことを話した。
「そっか、進路のことは難しいよね⋯」
「陸姉も海兄も神山大学でしょ?だから私も神山なんだろうけど、私は合格できるようなレベルじゃないし」
「ちょっと待って、翼ちゃんは?」
「えっ?」
夢龍の言葉の意味がわからず首をかしげる。
そんな翼に夢龍は優しい声音で言葉を続けた。
「翼ちゃんがやりたいこと。今のは翼ちゃんがやりたいことじゃないよね?」
(私がやりたいこと⋯⋯?)
「他の人は関係ないよ。翼ちゃんは翼ちゃんのやりたいことをやればいいんだ」
「⋯そんなこと⋯考えたこともなかった」
昔から、姉や兄を見習えと言われて育ってきた。だから、大学も当然のように神山大学しか選択肢がないと思っていた。
「翼ちゃんは何になりたい?何がしたい?」
「私は⋯」
「それを考えればきっと答えがでてくるよ」
翼の顔を真っ直ぐ見つめ、夢龍が微笑む。
(私がやりたいこと⋯)
「⋯うん、考えてみる。龍ちゃんありがとう!」
☆ ☆ ☆
(やりたいこと⋯やりたいことかぁ⋯)
帰宅してから、夢龍に言われたことを考えていた。
しかし、今までそういうことをあんまり考えたことがなかったため、いざ考えてみてもなかなか思い浮かばず翼は「う~ん⋯」と唸りながら廊下を歩く。
(難しいなぁ⋯)
考えながら自分の部屋に向かっていると、廊下を歩く陸の姿が見えた。
(んっ?陸姉⋯。あっ、そーだ!)
翼は陸のもとへ駆けていき、腕に抱きつく。
「陸姉!今日一緒に寝てもいい?」
「わっ、翼?どうしたの、いきなり」
「⋯駄目⋯⋯?」
「ふふっ⋯もちろん、いいわよ!」
陸は翼の頭を撫でながらにこっと笑った。
翼は姉のこの笑顔が大好きだった。
美人で賢くて優しくて、翼にとって陸は自慢の姉なのだ。
陸の部屋に布団を持っていき、床に敷いた。翼が布団に入り、どうやって切り出そうか考えていると陸が口を開いた。
「それで、何を聞きたいの?翼」
「えっ、どうして分かったの⋯?」
「分かるわよ。翼のことだもの」
すごい、陸はすごい。何でもお見通しだ。
「あのね⋯。えっと、陸姉は⋯将来の夢ってある?」
「将来の夢?」
「うん」
突然の問いかけにも陸は真面目に答えてくれた。
「⋯⋯。そうね、私は知らなかったことを知ることがとても楽しいし、嬉しい。だから、何かを研究したりする関係の仕事につきたいわ」
「⋯そうなんだ」
「翼にもあるでしょ?好きなこと」
⋯好きなこと⋯。
好きなこと=やりたいこと?
自分の好きなこと⋯。
小さい頃から物語を考えることが好きだった。
誰かが自分の作った話を聞いて、笑ったり、泣いたりしてくれたらとても嬉しいと思った。
⋯小説家。
本当は、何度か考えたことがある。
でも、絶対に無理だと⋯母が許すわけがないと夢として形になる前に消えた思い。
(私は小説家になりたい⋯)
なれるかどうかはわからない。
難しい道程だろうということもわかる。
でも、やってみたい。
(それが今の私が思う、やりたいこと、なりたいもの)
「翼?」
急に黙り混んだ翼に、陸が心配そうに声をかけた。
そんな陸を安心させるように、翼は俯いた顔を上げ笑顔を見せた。
「⋯陸姉、私にもあるよ。将来の夢」
「ん?なぁに?教えて」
「えへへ。なぁ~っいしょ!!」
翼は人差し指を口もとにあて、いたずらっ子のような顔で笑う。
「ええ~っ。教えてよ~!」
「だ~めっ!おやすみなさ~い!」
「ずるいわよ、翼!もー」
陸から顔を隠すように勢いで布団をかぶったが、色々と考えて疲れていたのか翼はすぐに眠りに落ちてしまった。
「⋯⋯おやすみ、翼⋯」
布団の中で眠っている翼に、陸が優しい顔で微笑んだ。
そして新学期が始まり、何週間か経ったある日の授業後、担任の森岡がみんなに紙を配った。
「静かにしろ~!今配ったのは進路希望の調査票だ。必ず期日までに提出しろよ~」
そう言うと森岡は教室から出て行った。
すると一気に周りがざわつきはじめた。
「つ~っばさ!」
「わっ、ひとみ!ビックリするじゃない」
名前を呼びながら飛び付いてきたのは同じクラスのひとみ。性格や考え方は翼とは全く違うのだが、何故か馬が合う。だからいつも一緒にいる、翼の一番の親友である。
「へへ、ごめ~ん。翼、どうする?進路」
「あぁ~。どうするんだろうね⋯」
「翼ぁ⋯他人事じゃないんだからさぁ」
ひとみには少しだけ自分の不安や家族に対する不満などを話していた。もちろん、進路に悩んでいることも。だからこそ、ひとみは呆れたような顔で言う。
「えへっ」
「『えへっ』っじゃないよ、翼!」
「はは、冗談だって!」
ケラケラと笑いながら答える翼に、ひとみが真剣な顔をする。
「本当に?」
「多~分!」
「翼!!」
真剣な顔で覗きこまれてもなお、おどけた態度を崩さない翼にひとみが声を上げる。
ひとみが真剣に自分のことを考えてくれているのがわかるからこそ、あまり心配はかけたくない。
「ごめん、ひとみ!今日、行く所あるんだ!また明日ね!」
「ちょっ、つばッ⋯⋯行っちゃった⋯」
足早に立ち去る翼の後ろ姿を見て、ひとみはため息をついた。
☆ ☆ ☆
翼は家ではなく石神神社に向かっていた。
ここのところ学校帰りに夢龍に会いに石神神社へ行くことが日課になっていた。
あの長い階段を登りきると、夢龍がいつものように絵顔で迎えてくれた。
「やぁ、翼ちゃん。今日は早かったね」
「うん⋯ちょっとね」
「⋯元気ないね、どうかしたの?僕でよかったら相談にのるよ?」
夢龍が心配そうに翼の顔を覗き込む。
そして、小さい頃によく座って話をしていた階段に促され、二人並んで座った。
しばらくの沈黙の後、翼は口を開いた。
「⋯実は⋯⋯」
翼は思っていたことを話した。
「そっか、進路のことは難しいよね⋯」
「陸姉も海兄も神山大学でしょ?だから私も神山なんだろうけど、私は合格できるようなレベルじゃないし」
「ちょっと待って、翼ちゃんは?」
「えっ?」
夢龍の言葉の意味がわからず首をかしげる。
そんな翼に夢龍は優しい声音で言葉を続けた。
「翼ちゃんがやりたいこと。今のは翼ちゃんがやりたいことじゃないよね?」
(私がやりたいこと⋯⋯?)
「他の人は関係ないよ。翼ちゃんは翼ちゃんのやりたいことをやればいいんだ」
「⋯そんなこと⋯考えたこともなかった」
昔から、姉や兄を見習えと言われて育ってきた。だから、大学も当然のように神山大学しか選択肢がないと思っていた。
「翼ちゃんは何になりたい?何がしたい?」
「私は⋯」
「それを考えればきっと答えがでてくるよ」
翼の顔を真っ直ぐ見つめ、夢龍が微笑む。
(私がやりたいこと⋯)
「⋯うん、考えてみる。龍ちゃんありがとう!」
☆ ☆ ☆
(やりたいこと⋯やりたいことかぁ⋯)
帰宅してから、夢龍に言われたことを考えていた。
しかし、今までそういうことをあんまり考えたことがなかったため、いざ考えてみてもなかなか思い浮かばず翼は「う~ん⋯」と唸りながら廊下を歩く。
(難しいなぁ⋯)
考えながら自分の部屋に向かっていると、廊下を歩く陸の姿が見えた。
(んっ?陸姉⋯。あっ、そーだ!)
翼は陸のもとへ駆けていき、腕に抱きつく。
「陸姉!今日一緒に寝てもいい?」
「わっ、翼?どうしたの、いきなり」
「⋯駄目⋯⋯?」
「ふふっ⋯もちろん、いいわよ!」
陸は翼の頭を撫でながらにこっと笑った。
翼は姉のこの笑顔が大好きだった。
美人で賢くて優しくて、翼にとって陸は自慢の姉なのだ。
陸の部屋に布団を持っていき、床に敷いた。翼が布団に入り、どうやって切り出そうか考えていると陸が口を開いた。
「それで、何を聞きたいの?翼」
「えっ、どうして分かったの⋯?」
「分かるわよ。翼のことだもの」
すごい、陸はすごい。何でもお見通しだ。
「あのね⋯。えっと、陸姉は⋯将来の夢ってある?」
「将来の夢?」
「うん」
突然の問いかけにも陸は真面目に答えてくれた。
「⋯⋯。そうね、私は知らなかったことを知ることがとても楽しいし、嬉しい。だから、何かを研究したりする関係の仕事につきたいわ」
「⋯そうなんだ」
「翼にもあるでしょ?好きなこと」
⋯好きなこと⋯。
好きなこと=やりたいこと?
自分の好きなこと⋯。
小さい頃から物語を考えることが好きだった。
誰かが自分の作った話を聞いて、笑ったり、泣いたりしてくれたらとても嬉しいと思った。
⋯小説家。
本当は、何度か考えたことがある。
でも、絶対に無理だと⋯母が許すわけがないと夢として形になる前に消えた思い。
(私は小説家になりたい⋯)
なれるかどうかはわからない。
難しい道程だろうということもわかる。
でも、やってみたい。
(それが今の私が思う、やりたいこと、なりたいもの)
「翼?」
急に黙り混んだ翼に、陸が心配そうに声をかけた。
そんな陸を安心させるように、翼は俯いた顔を上げ笑顔を見せた。
「⋯陸姉、私にもあるよ。将来の夢」
「ん?なぁに?教えて」
「えへへ。なぁ~っいしょ!!」
翼は人差し指を口もとにあて、いたずらっ子のような顔で笑う。
「ええ~っ。教えてよ~!」
「だ~めっ!おやすみなさ~い!」
「ずるいわよ、翼!もー」
陸から顔を隠すように勢いで布団をかぶったが、色々と考えて疲れていたのか翼はすぐに眠りに落ちてしまった。
「⋯⋯おやすみ、翼⋯」
布団の中で眠っている翼に、陸が優しい顔で微笑んだ。
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