1 / 8
一話 始まりの夢
しおりを挟む
☆ ☆ ☆
ーーーー声が聞こえる⋯。
ーーーー子供?女の子だ。泣いてる。
古い建物⋯⋯神社⋯?
女の子は境内にある小さなお社の階段に座ってうずくまっている。
泣いてる女の子に、一人の男の子が話し掛けた。
「どうしたの?また、お母さんに怒られたの?」
「⋯⋯っ⋯⋯ひッく⋯⋯」
それでも女の子は泣いたまま、何も言わない。
男の子は困ったような顔をして、女の子の隣に座った。
「う~ん⋯。あっ!ねぇ、またお話聞かせてよ!いつもみたいに」
男の子はしばらく考え込むと、名案を思い付いたかのようにポンッと手を叩き、にっこり笑ってそう言った。
突然の提案に女の子は思わず涙を止め、目を瞬かせていたが男の子の優しい表情と提案にフフッと微笑み、ゆっくりと話し出し始めた。
「あのね⋯⋯」
☆ ☆ ☆
ピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッ
…………………………………………………
ピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッ
…………………………………………………
「ああっ!もう!!うるっさいッ!!」
耳元でピピピピッといつまでも続くけたたましい機械音に飛び起き、音が鳴る方へ大きく手を振るとガシャン!という音が聞こえ、同時に今まで鳴り響いていた機械音が止んだ。
「⋯⋯ガシャン?」
何かが床に落ちたような音がし、その方向に目を向けてみる。そこにあったのは、少し前まであのけたたましい音をたてていた目覚し時計であっただろう物体だった。
「ああ~~!私の目覚し時計ぃ~~~!!」
家中に響き渡るくらいの大きな叫び声を聞き、部屋の外ーーおそらく階段を登った踊り場辺りであろうーーから、母親の声が聞こえてきた。
「翼!!うるさいわよ!近所迷惑でしょ!それに今、何時だと思ってるの!さっさと起きて荷物の整理しなさい!!」
(近所迷惑なのはどっちよ⋯私よりもお母さんの方がよっぽどうるさいじゃない!)
「今からやるわよ!」
ベッドの上から廊下に向けて叫び返す。
「全く、お兄ちゃんもお姉ちゃんもとっくに起きて部屋の整理まで終わらせちゃったっていうのに翼は⋯」
階段を降りる足音と共に、ぶつぶつ言う母の声がだんだん遠ざかっていく。
「⋯そんなこと言われなくても分かってるっての」
(どうせ私は⋯⋯)
母の言葉を思い出し、俯いてしまった顔をブンブンッと左右に振る。
「っと、そんなことよりも着替えて整理しなくっちゃ!」
頭を切り替え、着替えを始めたのは小柳 翼。
十七歳の高校三年生だ。つい先日までは隣町に住んでいたのだが、昨日この家へと引っ越してきた。
まぁ、引っ越してきたといっても五歳頃まで住んでた家に戻ってきただけなのだが⋯。
父の仕事の都合で隣町にアパートを借りて、もともと住んでいたこの家は親戚に貸していたのだがその親戚が海外へ移住することになり、父の仕事も落ち着いたのでそれを機にこの家へ戻ってきたのだ。
翼は三人兄弟の末っ子に生まれた。
一番上の姉は陸という。陸は頭がよくてこの辺りでも有名な神山大学の四年生。成績は常にトップで、美人。そのうえ料理も裁縫もできる。
陸の二つ下の兄、海も陸と同じ大学の二年生。かっこよくて頭がよくて、運動神経も抜群!サッカーをやっていて、いつプロ入りしてもおかしくないと言われている程の実力の持ち主だ。成績はもちろんトップ。
父は建築会社に勤めていて、そこそこ重役を任されているらしい。とても優しい人だが、仕事が忙しいのか顔をあわせることはほとんどない。
ただ、母のことを大切にしていて家族のために一生懸命働いてくれていて、翼達も大きくなって最近ではあまりなくなったが休みの日には子ども達の話を聞いてくれていた。そんな父を翼は尊敬している。
母は⋯いわば専業主婦。実際の年齢よりもだいぶ若く見えて、流石陸の母⋯とでも言うべきか、美人である。とても三人の子供がいるようには見えない。
そんな家族のもとへ生まれたごくごく平凡な翼。
顔は母に似て悪い方ではないが、陸のように美人というわけでもない。裁縫や料理も苦手だし、運動神経も勉強も中ぐらい。得意なものといったら国語ぐらいだ。
⋯だから小さい頃からなにかと、姉や兄と比べられることが多かった。二人のことは大好きだし、翼にも優しくかわいがってくれている。周りの大人達だって別に翼に対して冷たかったりしたわけではない。ただ「陸ちゃんはこうだったわよね~」「海くんはこうだったから翼もがんばれよ~」などと言われるだけ。
特に母は二言目には「お姉ちゃんやお兄ちゃんを見習いなさい」と翼が何をやっても認めてくれない。
まぁ、実際今年は受験生で陸も海もトップで合格した神山大学に、翼は合格圏内にも入っていないのだが⋯。
「それにしても、変な夢だったなぁ」
内容はよく覚えてないが、何か懐かしい感じがしたような⋯。
「よしっ!荷物整理終了っと。ーーこれからどうしようかなぁ⋯することもないし、散歩にでも行こうかな」
考えても仕方ないと思い、翼は夢のことはとりあえず忘れることにした。そして部屋を出て、一階に降りていく。
「おはよ、翼」
「おはよ、陸姉。あれ、海兄は?」
翼は自分の席に座り、姿のない兄についてたずねた。
「あぁ、練習だって。引っ越して早々大変よね」
そう言いながら翼の前にお皿を置く。
「そっかぁ⋯あ、ありがと」
陸が用意してくれたパンを受け取り、食べ始めた。
「翼、荷物整理終わったの?」
「うん。終わったよ。これから散歩に行こうかなって思って」
口の中をパンでいっぱいにしながら答える。
「早かったわね~。あっ、散歩に行くならついでにここに書いてある物買ってきてくれない?」
そう言って紙を渡された。
特に断る理由もないので素直に受け取る。
「別にいいよ」
そしてイッキに牛乳を飲みほした。
「ありがとう、翼」
陸は嬉しそうに笑い、翼の頭を撫でる。
「ん、そんじゃ行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
ーーーー声が聞こえる⋯。
ーーーー子供?女の子だ。泣いてる。
古い建物⋯⋯神社⋯?
女の子は境内にある小さなお社の階段に座ってうずくまっている。
泣いてる女の子に、一人の男の子が話し掛けた。
「どうしたの?また、お母さんに怒られたの?」
「⋯⋯っ⋯⋯ひッく⋯⋯」
それでも女の子は泣いたまま、何も言わない。
男の子は困ったような顔をして、女の子の隣に座った。
「う~ん⋯。あっ!ねぇ、またお話聞かせてよ!いつもみたいに」
男の子はしばらく考え込むと、名案を思い付いたかのようにポンッと手を叩き、にっこり笑ってそう言った。
突然の提案に女の子は思わず涙を止め、目を瞬かせていたが男の子の優しい表情と提案にフフッと微笑み、ゆっくりと話し出し始めた。
「あのね⋯⋯」
☆ ☆ ☆
ピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッ
…………………………………………………
ピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッ
…………………………………………………
「ああっ!もう!!うるっさいッ!!」
耳元でピピピピッといつまでも続くけたたましい機械音に飛び起き、音が鳴る方へ大きく手を振るとガシャン!という音が聞こえ、同時に今まで鳴り響いていた機械音が止んだ。
「⋯⋯ガシャン?」
何かが床に落ちたような音がし、その方向に目を向けてみる。そこにあったのは、少し前まであのけたたましい音をたてていた目覚し時計であっただろう物体だった。
「ああ~~!私の目覚し時計ぃ~~~!!」
家中に響き渡るくらいの大きな叫び声を聞き、部屋の外ーーおそらく階段を登った踊り場辺りであろうーーから、母親の声が聞こえてきた。
「翼!!うるさいわよ!近所迷惑でしょ!それに今、何時だと思ってるの!さっさと起きて荷物の整理しなさい!!」
(近所迷惑なのはどっちよ⋯私よりもお母さんの方がよっぽどうるさいじゃない!)
「今からやるわよ!」
ベッドの上から廊下に向けて叫び返す。
「全く、お兄ちゃんもお姉ちゃんもとっくに起きて部屋の整理まで終わらせちゃったっていうのに翼は⋯」
階段を降りる足音と共に、ぶつぶつ言う母の声がだんだん遠ざかっていく。
「⋯そんなこと言われなくても分かってるっての」
(どうせ私は⋯⋯)
母の言葉を思い出し、俯いてしまった顔をブンブンッと左右に振る。
「っと、そんなことよりも着替えて整理しなくっちゃ!」
頭を切り替え、着替えを始めたのは小柳 翼。
十七歳の高校三年生だ。つい先日までは隣町に住んでいたのだが、昨日この家へと引っ越してきた。
まぁ、引っ越してきたといっても五歳頃まで住んでた家に戻ってきただけなのだが⋯。
父の仕事の都合で隣町にアパートを借りて、もともと住んでいたこの家は親戚に貸していたのだがその親戚が海外へ移住することになり、父の仕事も落ち着いたのでそれを機にこの家へ戻ってきたのだ。
翼は三人兄弟の末っ子に生まれた。
一番上の姉は陸という。陸は頭がよくてこの辺りでも有名な神山大学の四年生。成績は常にトップで、美人。そのうえ料理も裁縫もできる。
陸の二つ下の兄、海も陸と同じ大学の二年生。かっこよくて頭がよくて、運動神経も抜群!サッカーをやっていて、いつプロ入りしてもおかしくないと言われている程の実力の持ち主だ。成績はもちろんトップ。
父は建築会社に勤めていて、そこそこ重役を任されているらしい。とても優しい人だが、仕事が忙しいのか顔をあわせることはほとんどない。
ただ、母のことを大切にしていて家族のために一生懸命働いてくれていて、翼達も大きくなって最近ではあまりなくなったが休みの日には子ども達の話を聞いてくれていた。そんな父を翼は尊敬している。
母は⋯いわば専業主婦。実際の年齢よりもだいぶ若く見えて、流石陸の母⋯とでも言うべきか、美人である。とても三人の子供がいるようには見えない。
そんな家族のもとへ生まれたごくごく平凡な翼。
顔は母に似て悪い方ではないが、陸のように美人というわけでもない。裁縫や料理も苦手だし、運動神経も勉強も中ぐらい。得意なものといったら国語ぐらいだ。
⋯だから小さい頃からなにかと、姉や兄と比べられることが多かった。二人のことは大好きだし、翼にも優しくかわいがってくれている。周りの大人達だって別に翼に対して冷たかったりしたわけではない。ただ「陸ちゃんはこうだったわよね~」「海くんはこうだったから翼もがんばれよ~」などと言われるだけ。
特に母は二言目には「お姉ちゃんやお兄ちゃんを見習いなさい」と翼が何をやっても認めてくれない。
まぁ、実際今年は受験生で陸も海もトップで合格した神山大学に、翼は合格圏内にも入っていないのだが⋯。
「それにしても、変な夢だったなぁ」
内容はよく覚えてないが、何か懐かしい感じがしたような⋯。
「よしっ!荷物整理終了っと。ーーこれからどうしようかなぁ⋯することもないし、散歩にでも行こうかな」
考えても仕方ないと思い、翼は夢のことはとりあえず忘れることにした。そして部屋を出て、一階に降りていく。
「おはよ、翼」
「おはよ、陸姉。あれ、海兄は?」
翼は自分の席に座り、姿のない兄についてたずねた。
「あぁ、練習だって。引っ越して早々大変よね」
そう言いながら翼の前にお皿を置く。
「そっかぁ⋯あ、ありがと」
陸が用意してくれたパンを受け取り、食べ始めた。
「翼、荷物整理終わったの?」
「うん。終わったよ。これから散歩に行こうかなって思って」
口の中をパンでいっぱいにしながら答える。
「早かったわね~。あっ、散歩に行くならついでにここに書いてある物買ってきてくれない?」
そう言って紙を渡された。
特に断る理由もないので素直に受け取る。
「別にいいよ」
そしてイッキに牛乳を飲みほした。
「ありがとう、翼」
陸は嬉しそうに笑い、翼の頭を撫でる。
「ん、そんじゃ行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
『10年後お互い独身なら結婚しよう』「それも悪くないね」あれは忘却した会話で約束。王子が封印した記憶……
内村うっちー
青春
あなたを離さない。甘く優しいささやき。飴ちゃん袋で始まる恋心。
物語のA面は悲喜劇でリライフ……B級ラブストーリー始まります。
※いささかSF(っポイ)超展開。基本はベタな初恋恋愛モノです。
見染めた王子に捕まるオタク。ギャルな看護師の幸運な未来予想図。
過去とリアルがリンクする瞬間。誰一人しらないスパダリの初恋が?
1万字とすこしで完結しました。続編は現時点まったくの未定です。
完結していて各話2000字です。5分割して21時に予約投稿済。
初めて異世界転生ものプロット構想中。天から降ってきたラブコメ。
過去と現実と未来がクロスしてハッピーエンド! そんな短い小説。
ビックリする反響で……現在アンサーの小説(王子様ヴァージョン)
プロットを構築中です。投稿の時期など未定ですがご期待ください。
※7月2日追記
まずは(しつこいようですが)お断り!
いろいろ小ネタや実物満載でネタにしていますがまったく悪意なし。
※すべて敬愛する意味です。オマージュとして利用しています。
人物含めて全文フィクション。似た組織。団体個人が存在していても
無関係です。※法律違反は未成年。大人も基本的にはやりません。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
私のいなくなった世界
タキテル
青春
人はいつか死ぬ。それは逃れられない定め――
ある日、有近樹。高校二年の女子校生は命を落とした。彼女は女子バスケ部のキャプテンに就任した日の事だった。十七歳で人生もこれからであり、輝かしい未来があるとその時は思っていた。しかし、ある帰り道に樹はゲームに夢中になっている男子小学生の姿を目撃する。男子小学生はゲームに夢中になり、周りが見えていなかった。その時、大型のトラックが男子小学生に襲いかかるのを見た樹は身を呈して食い止めようとする。気づいた時には樹は宙に浮いており、自分を擦る男子小学生の姿が目に写った。樹は錯覚した。自分は跳ねられて死亡してしまったのだと――。
そんな時、樹の前に謎の悪魔が現れた。悪魔は紳士的だが、どことなくドSだった。悪魔は樹を冥界に連れて行こうとするが、樹は拒否する。そこで悪魔は提案した。一ヶ月の期間と五回まで未練の手助けするチャンスを与えた。それが終わるまで冥界に連れて行くのを待つと。チャンスを与えられた樹はこの世の未練を晴らすべく自分の足跡を辿った。死んでも死にきれない樹は後悔と未練を無くす為、困難に立ちふさがる。そして、樹が死んだ後の世界は変わっていた。悲しむ者がいる中、喜ぶ者まで現れたのだ。死んでから気づいた自分の存在に困惑する樹。
樹が所属していた部活のギクシャクした関係――
樹に憧れていた後輩のその後――
樹の親友の大きな試練――
樹が助けた男児の思い――
人は死んだらどうなるのか? 地獄? 天国? それは死なないとわからない世界。残された者は何を思って何を感じるのか。
ヒロインが死んだ後の学校生活に起こった数々の試練を描いた青春物語が始まる。
4 worries〜少女の4つの悩みごと〜
鵜島みかん
青春
15歳の少女・瑠乃。何でも卒なくこなせる瑠乃だが、瑠乃には4つ悩み事があった。それは『友達』『恋愛』『将来』『家族』の4つについてだったーーーー。
**********************
これは、瑠乃より3つ歳上の学園王子・凛斗との恋物語。
これは、友達である麻那、もう1人の友達歩との友情物語。
これは、将来の夢や進路について思い悩む、1人の少女の物語。
これは、父と母、弟との、家族のキズナについての物語。
これは、少女の紡ぐ人生の、ヒューマンドラマである。
池田のお蔦狸ー徳島県立太刀野山農林高校野球部与太話
野栗
青春
株式会社ストンピィ様運営のオンラインゲーム「俺の甲子園」で遊ばせてもろてます。うっとこの高校は狸の学校いう設定です。今回は阿波池田のお蔦狸の変化(へんげ)話。徳島のリアル地名など出てきますが、全編フィクションですので、その辺よろしくです。
ほな、眉に唾をタップリ塗ってご覧下さい。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる