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第六章
後夜祭の日程は大幅に変更された⑵
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神官長室を訪ね、今日の予定の変更について尋ねると、二人の神官長補佐は驚いたように顔を見合わせた。
「いやはや。流石は英雄一家。もう情報が伝わっているとは……」
ミゲル補佐は感心したようにそう呟き、マルコ補佐はうんうんと頷いている。
ええと? すごく感心して下さっているけど、今回は、たまたまな気がします。
エミリオ様と今日会う約束があったから、それを急遽キャンセルするべく、昨晩のうちに王宮から使者が来てくれわけで……お父様からの連絡は、それに便乗させて貰っただけのような気もするよね。
ただ、そのことを補佐たちに話すわけにはいかないから、わたしは やんわりと微笑んでみせた。
補佐たちによると、昨晩 聖堂は、英雄帰還の連絡だけは受けていたそう。
でも、王侯貴族が後夜祭に参加しない旨は、今スティーブン様から初めて聴いたのですって。
え? 今聞いたの?
というか、貴族も不参加です?
それは、わたしも初耳です。
「こちらがやることは 基本変わらないとは言え、王宮側の責任者がごっそり入れ替えなのは、少々不安ですなぁ」
赤インクで修正された書類を見ながら、マルコさんは困ったようにため息をついた。
降臨祭の責任者はマルコさんだから、その反応は当然よね。
とりあえずのところ、聖堂側の人員配置は変わらないそうだけど、本日勤務の職員が一堂に会する昼食時に、変更等があったら連絡して下さるとのこと。
ここに来ての、急な変更。
これからスケジュールの修正をしなきゃだなんて……責任者は大変だわ。
「わたしに お手伝い出来ることがありましたら、いつでもお声がけくださいね?」
そう言い置いて、神官長室を辞した。
まぁ。
聖堂側は、大きな変動はないだろうから……。
その時はその程度に考えて、わたしは一旦寮へ戻ることにした。
聖堂内には今日も部外者さんがいるから、一人で歩き回るのは危ないし、聖女候補でまとまって行動した方が良いよね。
聖堂内で小競り合いが勃発したのは、それから一刻ほど経ったころ。
外から男性同士が言い争う声が聞こえてきたので、わたしは部屋から窓の外を見た。
眼前に広がるのは、男性神官寮入り口の風景で、周囲に人はいない。
逆側かな?
思いついて部屋から出ると、丁度他の候補の娘たちも、部屋から出て来たところだった。
怒声に近い声だったから、やっぱり皆さんも気になりましたよね。
わたしたちは互いに顔を見合わせて頷くと、窓から鍛錬場の方を見た。
どうやら聖騎士寮入り口付近で、聖騎士同士が言い争いをしているみたいだわ。
こちらに背を向けて、大きな声で訴えかけているのは、ライアンさんかしら? 彼の左右には、パトリックさんとジャンカルロさんの姿も見える。
戸口から次々と出て来る聖騎士さんたちを、押し留めようとしているのかな。
一方の続々と外に出て来ている聖騎士さん達は、いつも聖堂にいる聖騎士さんではない。
制服が微妙に違うし、何というか装飾過多?
あれが所謂『貴族特別枠』の皆さんね。
ライアンさんは真剣な声音で話しているのに、彼らは薄ら笑いを浮かべている。
あ。
ライアンさんが頭を下げた。
それに合わせて、部下の二人も頭を下げている。
特別枠組は、それを見て どっと笑った。
そのまま顔の前で手を振り、ロータリー方面へ向かって歩き始める。
何あれ。感じ悪い。
え?
まさか、帰るつもり?
それじゃ、後夜祭の聖騎士パレードはどうするのよ!
と、そこで、ようやく理解が追いついた。
そうか。貴族特別枠。
彼らは貴族の子息だから、まさか、後夜祭不参加ということ?
その後も、ライアンさんたちがどんなに声をかけても、皆知らん顔で帰っていく。
危険が迫っているかもしれないから、守るべき聖堂職員など見向きもせず、我先に第二、第一の城壁の中へ。
自分の安全が最優先。
まぁ、人としては正しいのかもしれないけどね? でも、名誉聖騎士としてお金を貰っているくせに、何て利己的な。
騎士としての矜持とか無いのかしら?
こういうところで、平民は貴族に幻滅するんだろうな。
ライアンさんたちみたいな貴族出身者がいてくれるから、まだ良いけれど。
昨夜パレードを見ていた神官見習いの娘たちは、今日の朝、頬を染めてパレードに参加した名誉聖騎士の噂などしていたけど、みんな一様に残念な顔をしている。
それは、幻滅するよね。
◆
昼。
昼食に集まった聖堂職員の人数に、衝撃を受けた。
神官さんたちも、結構な割合で貴族出身者がいるのね。
当初計画の三分の二ほどの人数で後夜祭を実行するとか、大丈夫なのかしら?
聖騎士さんは、正規組はあらかた残っていたけど、イベントの警戒にあたるには少なすぎる人数。
聖女候補も、プリシラさんはしれっと領館に避難したし、マデリーンさんは婚約者さんが迎えに来たそう。
どうするんだろう。
マルコさんも困っているんだろうな……。
ただ、王侯貴族が不参加だから、その出迎えなどの用事はほとんど無くなり、仕事自体は楽になった。
となると、心配なのは、周辺の警戒だけなのかも。
そう言ったわけで、昨日から引き続きの、第七の皆さんが裏門から入って来てくれた時は、かなり安心した。
そう言えば、第七旅団は平民出身者が多いのよね。
何だか、貴族って……。
そう思っていたら、見慣れない制服の一団が裏門にやってきた。
先頭。白馬に乗って並走している二人は、怖いくらい美しい。
一人はウェービーロングの金髪。
もう一人がサラサラショートの金髪。
お顔がそっくりだから、兄弟?
……何だか、どこかで見たことがあるような?
不思議な既視感を感じていたら、その二人の元にスティーブン様が駆けて行った。
よく見たら、スティーブン様も二人によく似ている。
ということは、あれが貴族一美しい兄弟と名高い、バーニア公爵とドウェイン侯爵?
すると、後ろに続いている軍団は、バーニア公爵専属の魔法騎士団⁈
あんな美しいものを拝見できるなんて、残っていてラッキーだったかも。
少しテンションが上がっているところに、見覚えのある一団がやってきた。
先頭を、栗毛の逞しい馬に乗った赤茶色の髪の騎士が、その斜め後ろを 先頭の騎士をそのまま若返らせたようにそっくりな騎士が続いていく。
え?
嬉しいけど、何で?
お父様とお兄様プラス、うちの領地の騎士団なんですが?
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