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第六章

降臨祭 ⑸ 決定!王都一推しの聖女候補

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(side ローズ)


 パレードは、第三の城壁東門を通過し、いよいよ聖堂へと戻って来た。

 現在わたしたちの乗る馬車は、東門で花を配っていたマデリーンさんを回収し、全員揃って手を振りながら、ゆったりとしたペースで王都の一番外側の環状道路を進んでいる。

 沿道に詰めかけている都民や観光客は、わたしたち聖女候補の馬車がやってくると、推しの候補の名前を呼んでくれたりして、上手くタイミングが合えば、パレード中にも花を渡すことが出来るの。

 ただ、直後に聖女様の馬車が来る関係で、興味は直ぐにそちらに移ってしまい、門の前で配っていたときと比較して、なかなか減っていかないみたいだけど……。


 って、何を他人事のように!って感じよね?
 でも、決して余裕ぶってるわけじゃないの。
 
 わたしたちは、一台の馬車に五人乗っていて、座席は向かい合わせにベンチシートが二つ。
 わたしは、タチアナさんとリリアさんの間に座っているので、物理的にお花を渡すのは難しい状況だったりする。

 そこで、残りのお花も少ないことだし、この際、わたしは笑顔でのお手振りに徹することにした。

 詰まるところ、聖堂に着く前に誰かが配り終えてしまったら、負け確なのだけどね。


 次の聖女選定まで、あと二年半。

 ジンクスは多少気になるけど、降臨祭は今日を含めてまだ三回あるわけで、『今回どうしても一番を取らなければ!』というほどのことでもないから、とりあえず『今回は、顔と名前を覚えて貰えるだけで十分!』と、自分を納得させた。


 さて。
 この道を左折して、もうしばらく進めば、聖堂前の広場ね。

 皆さん順調に花の数を減らしているけど、聖堂はお膝元故に、どうなるか展開が読めない。

 そわそわ、ハラハラ。
 そんな気分で馬車の停車を待つ。

 停車と同時に、わらわらっと人が集まって来て、広場の警戒にあたっていた聖騎士さんたち数人が一斉に集まり、候補ごとの列を作り始めた。

 ざっと見たところ、列に並ぶ人の多さは、マデリーンさんとリリアさんの順かな?
 今、聖堂に集まっているのは、王都の一般都民が多いようだし、二人は王都の豪商の娘だから、人気も伝手もあるのかもしれない。
 
 次に多いのはタチアナさんで、職人さん風のいで立ちの方が多い。
 そういえば、タチアナさんのお父さん、王都で働いている大工さんだものね。


 反対に、貴族出身のプリシラさんとわたしの列は、やや短め。

 わたしは、パレードがやって来たときに、貴族連や騎士連に配れたので、それほど問題はないのだけど、プリシラさん……今年は試練の年かな?
 抱えきれないほどのグラジオラスを手に、途方に暮れた顔をしている。

 まぁ、でも。
 これからパレードに参加していた貴族、騎士らが、ぞくぞくと押し寄せてくるだろうから、問題ないとは思うけどね?
 
 わたしの手元は十二本ほど。
 うん。何とか終わりそうかな?

 リリアさんに続いて馬車を下りる。
 手伝ってくれたのは、高身長の聖騎士。


「ラルフさん!」

「ローズさん。お疲れ様です。花!まだ残っていますか?」


 尋ねられて、わたしは頷いた。


「ええ。なんとか」


 とり分けておいたオールドローズを、そっとラルフさんに手渡すと、彼は嬉しそうに微笑み頭を下げて、茎をカットし、まとめて胸に飾った。


「一輪は、後でレン先輩に渡しときますね」


 ご機嫌にそう告げると、ラルフさんは、今度はリリアさんに手を貸すべく一歩下がる。

 ん?
 しれっと言われたけど、あのお花、この後レンさんに渡るの? 
 本人が所望したわけでもないのに、おしつけられたら、迷惑じゃないかな?

  そもそも、彼は聖女様付きだから、本来リシアンサスを胸に挿しているはずで……あ。でも、そういえば、先ほど見た時は、胸に何も飾っていなかったような?

 補助要員だから、貰えなかったのかな?
 そんなことある?
 
 彼が聖堂から蔑ろにされている感じがして、何となくイヤな気分になる。

 おっと。
 今は、険しい顔はダメだった。
 笑顔笑顔!

 そうよ。
 よく考えると、ある意味運が良かったとも言えるんじゃない?

 だって、おかげで彼の胸ポケットが空いているわけで。
 もし飾ってくれたとしたら、レンさんの胸に真っ赤なオールドローズ……うわぁっ!凄く似合いそう。
 後でお会いするのが、楽しみすぎる。

 ほんわかしながら、列に並んでくれた順に花を配っているうちに、気づけば、あっという間に最後の一本に。
 そして、そこに並んでいたのは、まさかのお兄様とユーリーさんだった。

 え。これ、どうしよう。


「余っていたら可哀想だと思っていたが、思いの外盛況だったようだな。ローズ。
それは、ユーリーさんに渡してやってくれ」


 お兄様は笑顔でそういうと、さっさと別の列に並びなおしたみたい。

 って、ああ!
 その列は、タチアナさんじゃない⁈

 っきゃーっ!わざとなの?本当に?
 そして、その状況に、ジュリーさんはどんな反応を?

 ちらりと彼女に視線を向けて、キュン死するかと思った。
 なんて切なそうな瞳で、お兄様を見ているの?
 もう、付き合っちゃったら良いのに!

 甘酸っぱい気持ちで、最後の一輪をユーリーさんに手渡したとき、わたしについていてくれた聖騎士のニコさんが、ガランガランっと、手にしていたハンドベルを鳴らした。

 ええと?あれ。これは、まさか……。


「今年、一番早く花を配り終えた聖女候補は、ローズマリー=マグダレーンです。午後からの企画で、聖女様から盾を受け取る役に任命します」


 ミゲルさんのアナウンスに、わたしは目を瞬いた。 

 とっちゃった。一番。

 物語の強制力、ちょっと強すぎない?

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