244 / 280
第六章
降臨祭 ⑸ 決定!王都一推しの聖女候補
しおりを挟む
(side ローズ)
パレードは、第三の城壁東門を通過し、いよいよ聖堂へと戻って来た。
現在わたしたちの乗る馬車は、東門で花を配っていたマデリーンさんを回収し、全員揃って手を振りながら、ゆったりとしたペースで王都の一番外側の環状道路を進んでいる。
沿道に詰めかけている都民や観光客は、わたしたち聖女候補の馬車がやってくると、推しの候補の名前を呼んでくれたりして、上手くタイミングが合えば、パレード中にも花を渡すことが出来るの。
ただ、直後に聖女様の馬車が来る関係で、興味は直ぐにそちらに移ってしまい、門の前で配っていたときと比較して、なかなか減っていかないみたいだけど……。
って、何を他人事のように!って感じよね?
でも、決して余裕ぶってるわけじゃないの。
わたしたちは、一台の馬車に五人乗っていて、座席は向かい合わせにベンチシートが二つ。
わたしは、タチアナさんとリリアさんの間に座っているので、物理的にお花を渡すのは難しい状況だったりする。
そこで、残りのお花も少ないことだし、この際、わたしは笑顔でのお手振りに徹することにした。
詰まるところ、聖堂に着く前に誰かが配り終えてしまったら、負け確なのだけどね。
次の聖女選定まで、あと二年半。
ジンクスは多少気になるけど、降臨祭は今日を含めてまだ三回あるわけで、『今回どうしても一番を取らなければ!』というほどのことでもないから、とりあえず『今回は、顔と名前を覚えて貰えるだけで十分!』と、自分を納得させた。
さて。
この道を左折して、もうしばらく進めば、聖堂前の広場ね。
皆さん順調に花の数を減らしているけど、聖堂はお膝元故に、どうなるか展開が読めない。
そわそわ、ハラハラ。
そんな気分で馬車の停車を待つ。
停車と同時に、わらわらっと人が集まって来て、広場の警戒にあたっていた聖騎士さんたち数人が一斉に集まり、候補ごとの列を作り始めた。
ざっと見たところ、列に並ぶ人の多さは、マデリーンさんとリリアさんの順かな?
今、聖堂に集まっているのは、王都の一般都民が多いようだし、二人は王都の豪商の娘だから、人気も伝手もあるのかもしれない。
次に多いのはタチアナさんで、職人さん風のいで立ちの方が多い。
そういえば、タチアナさんのお父さん、王都で働いている大工さんだものね。
反対に、貴族出身のプリシラさんとわたしの列は、やや短め。
わたしは、パレードがやって来たときに、貴族連や騎士連に配れたので、それほど問題はないのだけど、プリシラさん……今年は試練の年かな?
抱えきれないほどのグラジオラスを手に、途方に暮れた顔をしている。
まぁ、でも。
これからパレードに参加していた貴族、騎士らが、ぞくぞくと押し寄せてくるだろうから、問題ないとは思うけどね?
わたしの手元は十二本ほど。
うん。何とか終わりそうかな?
リリアさんに続いて馬車を下りる。
手伝ってくれたのは、高身長の聖騎士。
「ラルフさん!」
「ローズさん。お疲れ様です。花!まだ残っていますか?」
尋ねられて、わたしは頷いた。
「ええ。なんとか」
とり分けておいたオールドローズを、そっとラルフさんに手渡すと、彼は嬉しそうに微笑み頭を下げて、茎をカットし、まとめて胸に飾った。
「一輪は、後でレン先輩に渡しときますね」
ご機嫌にそう告げると、ラルフさんは、今度はリリアさんに手を貸すべく一歩下がる。
ん?
しれっと言われたけど、あのお花、この後レンさんに渡るの?
本人が所望したわけでもないのに、おしつけられたら、迷惑じゃないかな?
そもそも、彼は聖女様付きだから、本来リシアンサスを胸に挿しているはずで……あ。でも、そういえば、先ほど見た時は、胸に何も飾っていなかったような?
補助要員だから、貰えなかったのかな?
そんなことある?
彼が聖堂から蔑ろにされている感じがして、何となくイヤな気分になる。
おっと。
今は、険しい顔はダメだった。
笑顔笑顔!
そうよ。
よく考えると、ある意味運が良かったとも言えるんじゃない?
だって、おかげで彼の胸ポケットが空いているわけで。
もし飾ってくれたとしたら、レンさんの胸に真っ赤なオールドローズ……うわぁっ!凄く似合いそう。
後でお会いするのが、楽しみすぎる。
ほんわかしながら、列に並んでくれた順に花を配っているうちに、気づけば、あっという間に最後の一本に。
そして、そこに並んでいたのは、まさかのお兄様とユーリーさんだった。
え。これ、どうしよう。
「余っていたら可哀想だと思っていたが、思いの外盛況だったようだな。ローズ。
それは、ユーリーさんに渡してやってくれ」
お兄様は笑顔でそういうと、さっさと別の列に並びなおしたみたい。
って、ああ!
その列は、タチアナさんじゃない⁈
っきゃーっ!わざとなの?本当に?
そして、その状況に、ジュリーさんはどんな反応を?
ちらりと彼女に視線を向けて、キュン死するかと思った。
なんて切なそうな瞳で、お兄様を見ているの?
もう、付き合っちゃったら良いのに!
甘酸っぱい気持ちで、最後の一輪をユーリーさんに手渡したとき、わたしについていてくれた聖騎士のニコさんが、ガランガランっと、手にしていたハンドベルを鳴らした。
ええと?あれ。これは、まさか……。
「今年、一番早く花を配り終えた聖女候補は、ローズマリー=マグダレーンです。午後からの企画で、聖女様から盾を受け取る役に任命します」
ミゲルさんのアナウンスに、わたしは目を瞬いた。
とっちゃった。一番。
物語の強制力、ちょっと強すぎない?
パレードは、第三の城壁東門を通過し、いよいよ聖堂へと戻って来た。
現在わたしたちの乗る馬車は、東門で花を配っていたマデリーンさんを回収し、全員揃って手を振りながら、ゆったりとしたペースで王都の一番外側の環状道路を進んでいる。
沿道に詰めかけている都民や観光客は、わたしたち聖女候補の馬車がやってくると、推しの候補の名前を呼んでくれたりして、上手くタイミングが合えば、パレード中にも花を渡すことが出来るの。
ただ、直後に聖女様の馬車が来る関係で、興味は直ぐにそちらに移ってしまい、門の前で配っていたときと比較して、なかなか減っていかないみたいだけど……。
って、何を他人事のように!って感じよね?
でも、決して余裕ぶってるわけじゃないの。
わたしたちは、一台の馬車に五人乗っていて、座席は向かい合わせにベンチシートが二つ。
わたしは、タチアナさんとリリアさんの間に座っているので、物理的にお花を渡すのは難しい状況だったりする。
そこで、残りのお花も少ないことだし、この際、わたしは笑顔でのお手振りに徹することにした。
詰まるところ、聖堂に着く前に誰かが配り終えてしまったら、負け確なのだけどね。
次の聖女選定まで、あと二年半。
ジンクスは多少気になるけど、降臨祭は今日を含めてまだ三回あるわけで、『今回どうしても一番を取らなければ!』というほどのことでもないから、とりあえず『今回は、顔と名前を覚えて貰えるだけで十分!』と、自分を納得させた。
さて。
この道を左折して、もうしばらく進めば、聖堂前の広場ね。
皆さん順調に花の数を減らしているけど、聖堂はお膝元故に、どうなるか展開が読めない。
そわそわ、ハラハラ。
そんな気分で馬車の停車を待つ。
停車と同時に、わらわらっと人が集まって来て、広場の警戒にあたっていた聖騎士さんたち数人が一斉に集まり、候補ごとの列を作り始めた。
ざっと見たところ、列に並ぶ人の多さは、マデリーンさんとリリアさんの順かな?
今、聖堂に集まっているのは、王都の一般都民が多いようだし、二人は王都の豪商の娘だから、人気も伝手もあるのかもしれない。
次に多いのはタチアナさんで、職人さん風のいで立ちの方が多い。
そういえば、タチアナさんのお父さん、王都で働いている大工さんだものね。
反対に、貴族出身のプリシラさんとわたしの列は、やや短め。
わたしは、パレードがやって来たときに、貴族連や騎士連に配れたので、それほど問題はないのだけど、プリシラさん……今年は試練の年かな?
抱えきれないほどのグラジオラスを手に、途方に暮れた顔をしている。
まぁ、でも。
これからパレードに参加していた貴族、騎士らが、ぞくぞくと押し寄せてくるだろうから、問題ないとは思うけどね?
わたしの手元は十二本ほど。
うん。何とか終わりそうかな?
リリアさんに続いて馬車を下りる。
手伝ってくれたのは、高身長の聖騎士。
「ラルフさん!」
「ローズさん。お疲れ様です。花!まだ残っていますか?」
尋ねられて、わたしは頷いた。
「ええ。なんとか」
とり分けておいたオールドローズを、そっとラルフさんに手渡すと、彼は嬉しそうに微笑み頭を下げて、茎をカットし、まとめて胸に飾った。
「一輪は、後でレン先輩に渡しときますね」
ご機嫌にそう告げると、ラルフさんは、今度はリリアさんに手を貸すべく一歩下がる。
ん?
しれっと言われたけど、あのお花、この後レンさんに渡るの?
本人が所望したわけでもないのに、おしつけられたら、迷惑じゃないかな?
そもそも、彼は聖女様付きだから、本来リシアンサスを胸に挿しているはずで……あ。でも、そういえば、先ほど見た時は、胸に何も飾っていなかったような?
補助要員だから、貰えなかったのかな?
そんなことある?
彼が聖堂から蔑ろにされている感じがして、何となくイヤな気分になる。
おっと。
今は、険しい顔はダメだった。
笑顔笑顔!
そうよ。
よく考えると、ある意味運が良かったとも言えるんじゃない?
だって、おかげで彼の胸ポケットが空いているわけで。
もし飾ってくれたとしたら、レンさんの胸に真っ赤なオールドローズ……うわぁっ!凄く似合いそう。
後でお会いするのが、楽しみすぎる。
ほんわかしながら、列に並んでくれた順に花を配っているうちに、気づけば、あっという間に最後の一本に。
そして、そこに並んでいたのは、まさかのお兄様とユーリーさんだった。
え。これ、どうしよう。
「余っていたら可哀想だと思っていたが、思いの外盛況だったようだな。ローズ。
それは、ユーリーさんに渡してやってくれ」
お兄様は笑顔でそういうと、さっさと別の列に並びなおしたみたい。
って、ああ!
その列は、タチアナさんじゃない⁈
っきゃーっ!わざとなの?本当に?
そして、その状況に、ジュリーさんはどんな反応を?
ちらりと彼女に視線を向けて、キュン死するかと思った。
なんて切なそうな瞳で、お兄様を見ているの?
もう、付き合っちゃったら良いのに!
甘酸っぱい気持ちで、最後の一輪をユーリーさんに手渡したとき、わたしについていてくれた聖騎士のニコさんが、ガランガランっと、手にしていたハンドベルを鳴らした。
ええと?あれ。これは、まさか……。
「今年、一番早く花を配り終えた聖女候補は、ローズマリー=マグダレーンです。午後からの企画で、聖女様から盾を受け取る役に任命します」
ミゲルさんのアナウンスに、わたしは目を瞬いた。
とっちゃった。一番。
物語の強制力、ちょっと強すぎない?
10
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる