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第六章

降臨祭当日⑴ 心の中は荒れ模様?

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(side ローズ)

 昨晩は、ランタン点灯式を終えた後、タチアナさんの部屋でドレスを一緒に選んでいて遅くなり、そこに日中グループデートでの気疲れも加わって、部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ後の記憶がない。

 そして、目覚めたら降臨祭当日の早朝。

 早い時間に起きているから、準備が間に合わないとかの心配はないけれど、一晩寝て起きた今も、私の精神状態は混乱したままだったりする。

 というのも、点灯式の終盤、唐突に思いついてしまった仮説が、あまりにも突飛すぎて。

 今考えれば、どうしてそんなことを考えたのか、不思議にすら思える。
 勝手に結びつけてしまった二人の人物。
 
 うーん。
 でも、流石に、無理があるかな?

 『先日のドレスにも似合う』この言葉だけで、そこまで連想するとか、流石にこじつけすぎかも。


 わたしは、こめかみを人差し指で押しながら、今日何度目かになるため息を吐き出した。


 でもね?と、わたしは考える。

 そもそも、スティーブン様がトリッキーな動きをするから、わたしも思わず、変な風に繋げて考えてしまったよね?

 スティーブン様は、方々で男性を口説いて回っていて……それはお兄様だったりラルフさんだったりするのだけど。でも、晩餐会の時初めて恋人認定したのはレイブン様で、彼はスラリとしているから、その選択は少し意外だった。

 そして、一昨日の晩。
 スティーブン様は、ラルフさんに向かって突進しながらも、最終的にはレンさんを抱き込んだ。そのレンさんもまた、騎士の割にはスラリとしたタイプ。

 そのイメージが何となく重なって、こんなありえない仮説になったのよ!
 
 そうだ。
 落ち着いてよく考えれば、違うと分かるはず。
 
 わたしは窓を開けて、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 そもそもの話。
 聖騎士は、副業することを認められていない。
 一応、やむを得ない状況は除く、といった但し書きはあるけど、基本NGだ。

 当然、王国騎士も副業は不可。

 規律に厳しいレンさんが、これを破るとは考えにくい。
 
 でも……もし仮に、スティーブン様に命令されたのだとしたら?……うーん。断れないかもしれない。
 バーニア公爵家の権力は、それだけ強いわけで。
 
 あれ?
 そうすると、これはレンさんがレイブン様ではないことの証拠にならないわ。

 えーと。それなら髪は?
 レイブン様の髪の色はアッシュグレーだし、レンさんと比較して長い。

 …………でも……これは、カツラが解決してくれそうな気もする。
 この国のカツラは人毛で作られているから、結構自然な仕上がりなのよね。
 高価だから一般庶民には手が届かないけど、お金持ちのバーニア家なら、問題なく用意できる。

 直ぐに結論に達し、わたしは頭を抱える。

 あれ?
 思ったより、否定するのが難しいな。

 でも、同一人物にしては、印象が違いすぎるのよね。
 片や、楚々として小綺麗で、無表情なのに人当たりが良い、穏やかなレンさん。
 片や、無口で無愛想っぽいんだけど、動きや反応がどこかチャーミングなレイブン様。

 スティーブン様に対する態度も全然違う。
 そうよ!
 あの時、屋上で、レイブン様は、ご褒美として所望されたにしても、自分から、き……き、キスしてたし?
 一昨日のレンさんの対応は、不快感を全面に押し出す喧嘩問答。

 立ち姿勢も違う。
 レイブン様は少しだけ猫背で……ああいうのって、意識すれば出来るのかな? でも、そんなことまでする必要無いよね?
 
 それに、そう! 
 剣術の型が、まるっきり別物だったわ。
 
 そこに思い至って、わたしはようやく、人心地がついた。
 
 いくら剣を短くて軽いものに持ち替えたとしても、普段使っている剣と全く別の構え方、剣捌きなんて、簡単に出来るものじゃないわ。
 しかも、レイブン様の動き、お兄様の速度を凌駕してたのよね。

 ……お兄様って、あれでいて、その、本編ではモブじゃないのよ。
 わたしがメインになる、この外伝では、ファンサで顔を出す程度の扱いだったけど。

 逆にレンさんは、外伝で聖女の盾となるだけの役割り。
 最後まで読めなかったから分からないけど、あの扱いを見る限り、彼が本編の主人公パーティーに組み込まれることは無い。

 であれば、現時点であったとしても、お兄様より強い設定になってるのは、やっぱり不自然に感じる。

 つまり、レイブン様はレンさんとは別人の、本編に絡む隠密的強キャラ。
 こう考えた方が、自然だと思うわけで……。

 ……うん。結論、出たかな?

 気持ちの整理が多少ついたはずなのに、何となく、まだ胸にあるつかえがとれない。

 何かしら? 変な感じ。
 ここまで別人であることの証明をしてきたはずなのに、それを否定する方法を探している、わたしがいる。

 わたしは、レンさんがレイブン様だったら良いと思っている?

 それは、何故?

 考えると、胸が苦しくなる気がして、わたしは水桶に歩み寄り、バシャバシャと顔を洗った。

 今日は降臨祭で忙しいのに、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたら良いんだろう。
 思い切って本人に聞いてしまえば、すっきりするのかな?

 部屋の外に足を踏み出すと、廊下の窓から鍛錬場が見える。
 そしてそこには、今日も走り込みをしているレンさんの姿。

 聞いてどうするつもりなの?
 それを知って、わたしは何を得るの?
 
 足を踏み出そうとして、留まった。

 わたしは、本当のところ、レンさんをどう思っているのかな?

 怖いくらいの不安が押し寄せてきて、わたしは部屋へと引き返す。

 知りたい。でも、何だか知るのは怖い。

 分かっているのは、わたしがピンチの時に駆けつけたくれたメインヒーローの中に、レンさんがいたのかもしれないという、可能性だけ。
 

 
 

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