238 / 247
第六章
降臨祭当日⑴ 心の中は荒れ模様?
しおりを挟む(side ローズ)
昨晩は、ランタン点灯式を終えた後、タチアナさんの部屋でドレスを一緒に選んでいて遅くなり、そこに日中グループデートでの気疲れも加わって、部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ後の記憶がない。
そして、目覚めたら降臨祭当日の早朝。
早い時間に起きているから、準備が間に合わないとかの心配はないけれど、一晩寝て起きた今も、私の精神状態は混乱したままだったりする。
というのも、点灯式の終盤、唐突に思いついてしまった仮説が、あまりにも突飛すぎて。
今考えれば、どうしてそんなことを考えたのか、不思議にすら思える。
勝手に結びつけてしまった二人の人物。
うーん。
でも、流石に、無理があるかな?
『先日のドレスにも似合う』この言葉だけで、そこまで連想するとか、流石にこじつけすぎかも。
わたしは、こめかみを人差し指で押しながら、今日何度目かになるため息を吐き出した。
でもね?と、わたしは考える。
そもそも、スティーブン様がトリッキーな動きをするから、わたしも思わず、変な風に繋げて考えてしまったよね?
スティーブン様は、方々で男性を口説いて回っていて……それはお兄様だったりラルフさんだったりするのだけど。でも、晩餐会の時初めて恋人認定したのはレイブン様で、彼はスラリとしているから、その選択は少し意外だった。
そして、一昨日の晩。
スティーブン様は、ラルフさんに向かって突進しながらも、最終的にはレンさんを抱き込んだ。そのレンさんもまた、騎士の割にはスラリとしたタイプ。
そのイメージが何となく重なって、こんなありえない仮説になったのよ!
そうだ。
落ち着いてよく考えれば、違うと分かるはず。
わたしは窓を開けて、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
そもそもの話。
聖騎士は、副業することを認められていない。
一応、やむを得ない状況は除く、といった但し書きはあるけど、基本NGだ。
当然、王国騎士も副業は不可。
規律に厳しいレンさんが、これを破るとは考えにくい。
でも……もし仮に、スティーブン様に命令されたのだとしたら?……うーん。断れないかもしれない。
バーニア公爵家の権力は、それだけ強いわけで。
あれ?
そうすると、これはレンさんがレイブン様ではないことの証拠にならないわ。
えーと。それなら髪は?
レイブン様の髪の色はアッシュグレーだし、レンさんと比較して長い。
…………でも……これは、カツラが解決してくれそうな気もする。
この国のカツラは人毛で作られているから、結構自然な仕上がりなのよね。
高価だから一般庶民には手が届かないけど、お金持ちのバーニア家なら、問題なく用意できる。
直ぐに結論に達し、わたしは頭を抱える。
あれ?
思ったより、否定するのが難しいな。
でも、同一人物にしては、印象が違いすぎるのよね。
片や、楚々として小綺麗で、無表情なのに人当たりが良い、穏やかなレンさん。
片や、無口で無愛想っぽいんだけど、動きや反応がどこかチャーミングなレイブン様。
スティーブン様に対する態度も全然違う。
そうよ!
あの時、屋上で、レイブン様は、ご褒美として所望されたにしても、自分から、き……き、キスしてたし?
一昨日のレンさんの対応は、不快感を全面に押し出す喧嘩問答。
立ち姿勢も違う。
レイブン様は少しだけ猫背で……ああいうのって、意識すれば出来るのかな? でも、そんなことまでする必要無いよね?
それに、そう!
剣術の型が、まるっきり別物だったわ。
そこに思い至って、わたしはようやく、人心地がついた。
いくら剣を短くて軽いものに持ち替えたとしても、普段使っている剣と全く別の構え方、剣捌きなんて、簡単に出来るものじゃないわ。
しかも、レイブン様の動き、お兄様の速度を凌駕してたのよね。
……お兄様って、あれでいて、その、本編ではモブじゃないのよ。
わたしがメインになる、この外伝では、ファンサで顔を出す程度の扱いだったけど。
逆にレンさんは、外伝で聖女の盾となるだけの役割り。
最後まで読めなかったから分からないけど、あの扱いを見る限り、彼が本編の主人公パーティーに組み込まれることは無い。
であれば、現時点であったとしても、お兄様より強い設定になってるのは、やっぱり不自然に感じる。
つまり、レイブン様はレンさんとは別人の、本編に絡む隠密的強キャラ。
こう考えた方が、自然だと思うわけで……。
……うん。結論、出たかな?
気持ちの整理が多少ついたはずなのに、何となく、まだ胸にあるつかえがとれない。
何かしら? 変な感じ。
ここまで別人であることの証明をしてきたはずなのに、それを否定する方法を探している、わたしがいる。
わたしは、レンさんがレイブン様だったら良いと思っている?
それは、何故?
考えると、胸が苦しくなる気がして、わたしは水桶に歩み寄り、バシャバシャと顔を洗った。
今日は降臨祭で忙しいのに、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたら良いんだろう。
思い切って本人に聞いてしまえば、すっきりするのかな?
部屋の外に足を踏み出すと、廊下の窓から鍛錬場が見える。
そしてそこには、今日も走り込みをしているレンさんの姿。
聞いてどうするつもりなの?
それを知って、わたしは何を得るの?
足を踏み出そうとして、留まった。
わたしは、本当のところ、レンさんをどう思っているのかな?
怖いくらいの不安が押し寄せてきて、わたしは部屋へと引き返す。
知りたい。でも、何だか知るのは怖い。
分かっているのは、わたしがピンチの時に駆けつけたくれたメインヒーローの中に、レンさんがいたのかもしれないという、可能性だけ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
43
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる