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第六章
お祭り準備で忙しいのに、何やら色々で全然集中出来ないわ!⑴
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昨晩は、ベッドに転がって色々考えているうちに、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
日中の日差しを浴びるのって、大して動かなくても、案外疲れるものよね。
それ以外にも、昨日の午前中は、書類作りで多少神経を使ったし。
今日は今日で忙しいから、昨晩ゆっくり休めたことは、結果としてプラスのはず。
にも関わらず、何となく そわそわと落ち着かないのは、やっぱり自分の気持ちが定まらないせいかな。
わたしは、小さく息を落とす。
「ため息なんて、珍しいね? 恋わずらい?あ、まさか、例の聖騎士と昨日何かあった?」
「いいえ。とくに何もないわ」
隣を歩いていたリリアさんが、にやにやしながら言ってくるから、わたしは苦笑いを返した。
今、わたしたちは、明日使う装飾品の入った箱を運んでいるところ。
事務局から聖堂前広場につながる職員通用口を通り抜けると、広場の中央付近に、聖堂職員たちが集合していた。
降臨祭は、『国教の唯一神である女神様が、聖なる武器と共に、この地に降り立ったことを祝うお祭り』で、この国の一大イベント。
国中どころか外国からも、沢山の観光客が押し寄せるから、会場を設営する聖堂職員の責任は重い。
ちなみに、今日のわたしたちのお仕事は、会場全体の飾りつけ。
特に、メイン会場となるこの広場の装飾は、かなり凝ったものになっているから、壊したりしないように気をつけないと!
聖堂前広場の中央には、数週間かけて聖騎士たちが組み立てていた女神様の巨大立像が、今まさに運び出されいる。
重い物の搬出作業は、男性の使用人さんたちが請け負ってくれるので、わたしたちは小物の担当。
まずは、広場の外周にランタンの設置ね。
今晩から点灯されるらしい、このランタン。
同じメーカーの品で統一されているけど、大小様々な大きさがあって、配置する人間のセンスが問われる。
そんな中、プリシラさんとマデリーンさんペアは、手慣れた様子で、お洒落に配置していく。
来年以降は、わたしもやるようになるかもしれないから、よく見て覚えておこう。
わたしは、リリアさん、タチアナさんと組んで、ランタンを運ぶ係。
ランタンの入った箱を持って、広場の中央から端まで行ったり来たり。
相当な数があるから、これはかなり時間がかかりそうだなぁ。
プリシラさんたちの足元に箱を置いて、ほうっと息を一つ。
ランタンは金属製だから、地味に重量あるのよね。
額にかいた汗を拭うと、一緒に来ていたリリアさんは、盛大にため息をついた。
「はぁ~。も、ちょー重い~。ちょっとで良いから、休憩したいんだけど」
「確かに、思ったより重いわね。でも、一回毎休憩していたら、時間に終わらないかな?」
「そうよ。さっさと終わらせて、休憩しましょ」
やんわりと諫める、わたしとタチアナさん。
リリアさんは、しゃがみ込んだまま口を尖らせた。
「……こんなの、聖女候補の仕事じゃないと思う」
いや。
毎年恒例の、聖女候補の仕事ですが?
もしかして、こういった態度が、所謂『天真爛漫』と言うやつなのかな?
……なんと言うか、わたしが思っていたのと違う。
笑顔を引き攣らせていると、プリシラさんが、ピシャリと言ってくれた。
「全く!これだから……。リリアーナさんのペースに合わせていたら、日が暮れてしまいますわ」
「今、『これだから、庶民は』って、言おうとした?
むっかー!
そっちは、ソレ並べるだけだから、楽で良いよねぇ」
「ずっとしゃがみ込んで作業するのだって、とても大変ですのよ?」
「ま……まぁまぁ」
ねぇ。どうして喧嘩するの?
二人が敵対する理由が、わたしには、さっぱり分からないのですけど?
「ローズさんは、さっさと次のを運んで頂戴!」
「そうだよ。余裕のある人が、やれば良いんじゃないの? それに、マリーさん、可愛いから、きっと皆手伝ってくれて、早く終わるよ」
うぅ~。
宥めに入ったら、双方向から逆ギレされたわ。
ま、良いですけど?
どうせ、運ばねばならない物だし?
お昼までに、ある程度形にしておかないと!
夕方の点灯式に間に合わないと困るもの。
「……分かりました」
わたしは、返事をして踵を返すと、箱が積まれている広場中央へ戻った。
タチアナさんは、慌てて追いかけてきてくれたみたい。
「リリアさんは、ワガママすぎるわ。アタシたちだって、大変なのに」
頬を膨らませるタチアナさんを見ていたら、少し苛立ちがおさまった気がした。
わたしは、やんわりと微笑む。
「そうですね。皆大変なので、協力し合えると良いのですけど」
「本当よね!」
二人で顔を合わせて微笑み合っていると、不意にわたしたちの上に影が落ちたので、そちらを見上げた。
「なかなかどうして、重そうじゃないか。どれ。ちょっと、手伝ってやろうか?」
「え? お兄様?」
「ひっひぇっ!おぉ……オレ、おオレ……ガノ様⁈」
思いもよらないことだったので、呆けてしまった、わたし。
タチアナさんは、驚きのあまり、小さく悲鳴をあげたあと、しどろもどろで名前を呟いている。
「まぁ。今日はどうなさったのです? お仕事は……」
「ああ。まぁ、仕事の一環だな?」
「私服で、ですか?」
「一応。お忍びで外部活動なさる場合の護衛は、私服なんだ。
制服の騎士が付いていると、貴人がいるのがバレバレだろう?」
「お忍びの外部活動……ですか?」
「ああ」
え?どう言う意味?
お兄様は、困ったように笑う
って、少し会話していたら、少しずつ後ずさっていたタチアナさんが、大分遠退いてしまっている。
わたしは、手を振りながら、声をかけた。
「タチアナさん?
そんなに逃げなくても、大丈夫ですよ?
ただの脳筋ですし、取って食いやしませんから」
「……まって?ローズ。
最近、お兄ちゃんの扱いが、酷いよ?」
お兄様の小声の嘆きが耳に入ってきて、思わずクスッときた。
と、そこに、くすくす笑いながら、タイトなスーツ姿のジュリーさんまでやって来たものから、わたしは目を瞬かせた。
「あら? ジュリーさんまで。何かあったのですか?」
「やぁ、ローズマリー嬢。何かあった、ではなく、これからあるのだ」
彼女はにっこり微笑み、そのまま斜め後方に下がった。
すると、それまでジュリーさんのま後ろに立っていた人物が、前に現れる。
そこに立っていたのは、キャスケット帽を目深に被り、庶民風の出たちをした少年。
どんなに庶民を装っても、バレるものなのね。
高貴なオーラがダダ漏れだわ。
「よっ。頑張ってるな。俺にも少し、手伝わせてくれ」
「エミリオ様っ! こんなところにいて良ろしいのですか?」
「うん。ちゃんと両親に許可取って来たぞ。お前たち、護衛もいないで聖堂の外で作業してるなんて、危なっかしいからな!」
ええと……王子殿下が、自分の護衛数人だけ連れて、この公園にいることの方が、よっぽど危なっかしいと思うのですけど⁈
「これを? えっと?どこに運べば良いんだ?」
「いえ、エミリオ様に、そのようなこと……」
「俺が、やりたいんだ。少しは、マリーの役に立たせろ」
明るい笑顔で微笑むエミリオ様。
その、宝石のように澄んだ瞳に、それ以上何も言えなくなる。
ええと。
そんなことをさせてしまって、良いものでしょうか?
お兄様、ジュリーさんの順で視線を投げると、ふたりはにっこり微笑んだ。
何か…………良いようです。
って、えー⁈ 本当に?
後で怒られたりしないです?
わたし、嵌められてないですよね?
ええい!
とりあえず、やってみるしかないわ!
「それでは、わたしも一緒に……」
そこそこのサイズの箱を持ち上げようとして、お兄様に止められた。
「お前は、こっち」
「え。ですが……エミリオ様に重いのを持たせて、わたしだけ軽いのを持つわけには……」
「それにしたって、一番重そうなのを持つ必要ないだろう? これは、自分が運んでおく」
持っていた箱を、お兄様にヒョイっと奪われてしまった。
なんだか、至れり尽くせりなんですけど……。
そしたら、こちらを。
中くらいの箱を持ったところで、今度は別の手が出て来て、奪われてしまった。
え、また?
そちらを見ると、今度は海の色の瞳と目が合った。
「っ⁈ え。ジェフ様?」
「ふふ。こんにちは、ローズちゃん」
「どうなさったのですか?」
「うん。丁度、書類を届けに来たんだ。そしたら殿下が張り切っているのが見えたから。
殿下にばかり良い格好されるのは、面白くないからね」
えー?
たまたまバッティングしたの?
困惑していると、柔らかい笑みが返って来た。
「君の役にたちたいだけなんだ。ダメかな?」
うう。
そんな可愛い上目遣いで言われたら、断れるわけないですよね?
「ええと。では、ありがとうございます」
頭を下げると、ジェフ様はにっこり笑い、前方で様子を伺っていたエミリオ様は、舌打ちをした。
結局わたしは、一番小さな箱を持つことになり、エミリオ様とジェフ様の間に挟まれて、プリシラさんとリリアさんの元へ、向かうこととなった。
因みに、引き続き、醜い罵り合いをしていた二人。
エミリオ様とジェフ様の姿を視界に収めるや否や、突如として借りて来た猫のようになったのには、驚きを通り越して、呆れてしまった。
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